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入学前の物語(小説)・・・10/11更新

第2章3節 メリッサの妹

「伯爵はね。これまでにも似たような事件を世界中で起こしているの。私たちが生まれるずっと前から生きている強力なヴァンパイアでね。サイキックアブソーバーが稼働してからも何らかの方法で休眠状態を逃れてるの。」

 言葉を切ると、師匠は遠くを見るような目つきになって語り始めた。

「私の妹ミリアは、伯爵に連れていかれた時、ちょうどあなたと同じくらいだった。私たちは仲のいい姉妹でね。両親が死んでから祖父母に引き取られたんだけど、2人はいつも一緒だった。だけど、ある日の夕方、急にミリアは姿を消した。近所のどこを探しても見つからなくって。とぼとぼ家に帰ると、祖父も祖母も吸血鬼になっていたわ。もちろん、気付いたら私も例外じゃなかった・・・・。」

 聞きながら、私は何とも気まずい思いをしていた。やはり人の不幸を聞くのは居たたまれないもの。

「・・・それで、おねーちゃんはどうやって・・・?」

「そうね。アラド・ル=フェイとかいう熱血魔法使いの雷爺に倒されて、資質があった私は灼滅者になった。祖父や祖母はダメだったけどね。」

 さみしそうに微笑みながら続ける。

「闇堕ちによる私の侵食は、程度でいえば相当にひどかった。あなたも見たでしょ?私の赤い瞳。それで・・・私も今のあなたと同じ症状を発症したの。・・・女の子に対してね。」

 師匠は自嘲気味に口元を歪めた。

「え?・・・え?」

 思わずの二度聞き。

「どうやら私やあなたのこの症状は自分を眷属にした人物と同じ性別に向けられるみたいで。あの場合でいえば、妹が主で、私が妹の眷属になってたわけなの。・・・当時の私は大変だったわ・・・。」

 師匠は再び遠い目をする。

「それを見た雷爺は私に魔法を教えた。魔力を操る術を修めて極めれば、きっと吸血鬼の力の影響も抑圧出来るはずだって理論を打ち出して。簡単なことじゃなかったけど。同性との接触はなかなか避けられるものではないし・・・。でも、爺は私に全てを教えた。そして、私は数年をかけて吸血鬼の力を抑え込んだの。だいたいね。」

 最後に付け足された一言に、多少引っ掛かりを覚えないではなかったけれど、私は頷く。

「そう。もうわかったみたいね。これが私があなたを魔法使いに育てようとしてる理由よ。あんたの症状を考えると雷爺のお世話になるわけにもいかないでしょうし。ゆすらのことはおねーちゃんが責任を持って育てるからね。」

 そう言うと、師匠は踵を返して部屋を出ていこうとする。

「ちょ・・・ちょっと待つです。ゆすらはこのままなのですか?」

 自分を動けなくしている縄を見つめつつ私は尋ねた。

「んー。今はまだ危なそうだし。そういう時は日の出まで安静にしておくのが良いらしいわよ?ソースは雷爺。」

 その日、私は人生で初めて縛られたままで一晩を過ごした。
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キャラクター名
山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
性別
女性
ルーツ
ダンピール
ポテンシャル
魔法使い
設定詳細
ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。