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入学前の物語(小説)・・・10/11更新

第2章1節 意外な闇堕ちのトリガー(1)

 師匠は焦っていた。

 もちろん私も焦っていた。

「ゆすら・・・あ、あなたねぇ・・・。」

 師匠は顔を引き攣らせながら言う。

「ご、ごめんなさいです。おねーちゃん。」

 そう言いつつも私は身体が無性に熱くてどうしようもなくなっていた。

 ・・・・。

 話は半日ほど前にさかのぼる。

 師匠と一緒に旅立つことになった数日後、私は念のため、医者の診断をうけることになった。医者・・・といっても、灼滅者を専門とする特殊な医者。致命的な損傷の有無や闇堕ちによる侵食の度合いを診断するのが、この日の目的だった。

 しかし・・・その医者が男性だったのがいけなかった(もちろん、この時の私は知らなかったけれど)。普通に話したりするだけなら平気だったので、師匠も安心しきっていたらしい。

「さあ、診察をはじめようかね。」

 医者は、慣れた手つきで診察を始める。医者なら、人間だった頃、何度も行ったことがあるので平気だった・・・はずなのに。

 医者が近づいてきて、肌に手が触れると、私は妙な感覚に襲われた。まず、顔が熱くなった。次に、心臓の鼓動が速くなって、息も荒くなる。

 もちろん、医者は普段通りの診察をしているだけだった。けれど、私は、何か自分がイケナイことをされそうになっているような気がした。おかしな妄想が次から次へと頭の中に生まれては消えていく・・・。

 脳髄がしびれるような甘美な気分に私は飲み込まれそうになる。・・・しかし、ここ一番で理性が働いた。

「だめぇぇっ!!!」

 おかしな気分を振り払うように、右手を大きく振る。

 次の瞬間、予想もしていなかった光景が目の前に広がった。大きく振った右手は医者に当たり、吹き飛ばした。医者は壁に叩き付けられてめり込む。・・・幸い、この医者自身も灼滅者だったようで大事はなかったが・・・。

 私は、それ以上彼の顔を見ていられなかった。

「わ、わたし、お外走ってきます~。」

 その時、偶然見えた鏡には、メリッサの偽装魔法が破れて茶色から赤に染まった自分の瞳が映っていた。髪色も少し桃色がかっている気がする。

 そんなことはお構いなしで、私はその場を逃げ出した。

 すると、待合室にいた師匠がそれに気付く。

「ちょ・・・ゆすら!待ちなさい!!」

 混乱して逃げ惑う私と、慌てて追いかける師匠の壮絶な鬼ごっこが始まった。
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キャラクター名
山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
性別
女性
ルーツ
ダンピール
ポテンシャル
魔法使い
設定詳細
ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。