入学前の物語(小説)・・・10/11更新
第1章5節 灼滅者としての旅立ち
「んんっ・・・。」
私が目を覚ますと、メリッサを含めた5人が慌しく戦後処理をしているところだった。神父姿の男が事務的な口調で話すのが聞こえる。
「・・・伯爵が人形と呼んでいた眷属ヴァンパイアは全て始末した。伯爵には逃げられたけどな。」
「ありえないよなぁ・・・日が少し陰った途端にコウモリになって消えちゃうんだから・・・。」
口をはさんだ少年は心底不機嫌そうだった。
「昼間の寝こみを襲ったとはいえ、十分な成果だろう。それで・・・。」
神父姿の男が続ける。
「そっちは、聞くまでもないな。やはりその子には素質があったか。」
4人はそれぞれこちらに視線を向ける。メリッサは、私が目を覚ましたのに気付いて優しく頭を撫でた。
「ええ・・・。なんだかこの子には私と同じ匂いを感じたからピンと来たわ。」
「やはり、学園に連れて行くのか?」
聞いたのは大柄な男。こうしたケースでは、それがセオリーになる。後々の安全を考えると、学園に連れ帰るのが一番というのが一般的な灼滅者の共通見解だった。
「ええ・・・そうしたいのは山々なんだけど・・・。」
そこで、メリッサはわざとらしく言葉を濁す。
「この子は私が育てることにしたの。私、この子を魔女にするわ!」
「「「はあっ・・・?」」」
メリッサの意外な言葉に、他の3人はみな度胆を抜かれていた。
「何を言ってるんだお前は・・・。」
神父姿の男は頭痛をこらえるように頭を押さえる。
「私、この子のおねーちゃんになっちゃったから♪」
正直、私からしても意味不明だった。
「大丈夫。この子の安全は責任をもって保証するから。私の実力は・・・分かってるでしょ?」
メリッサの手にはいつの間にか例の乗馬鞭が握られていた。神父姿の男は慌てて距離をとる。
「なぜ杖を出した。」
「どうしてでしょう?・・・なんてね。冗談。」
杖を下しながら、メリッサは続ける。
「この子は私と同じ。きっと同じような苦労をして生きていくことになるわ。そうなった時のために、出来るだけのことをしてあげたいの。」
そういった彼女の言葉には、平常時にはない真摯な響きがあった。
「・・・見逃してやったらどうだ?」
大柄な男が苦笑しながら言う。神父姿の男は、なおも難しい顔で唸っていた。が、何かを思いついたように、ポンと手を打つ。そして、意地悪そうな顔をして言った。
「分かった。今回ばかりは見逃そう。ただし、上にはメリッサが闇落ちしたとでも報告しておこうかな。」
「ちょ、ちょっと待ってくれるかな・・・?ジャン・・・?」
背を向けた神父姿の男、もといジャンを、顔を青くしたメリッサが呼び止める。
「そんなことしたら、あの雷爺が直々に灼滅しに来かねないんだけど・・・それも私が闇落ちしてないのを分かった上で。」
他の2人はその様子を苦笑いで見つめる。
「お前は少々独断専行が過ぎる。一度お灸を据えてもらったらどうだ。」
笑いを噛み殺しながら、ジャンはその場から姿を消す。程なくして、残りの2人もそれにならって帰っていった。
「さて・・・と。」
ぽかんと見ていた私にメリッサは視線を向ける。
「改めて自己紹介しようか?私の名前は、メリッサ・バーンスタイン。あなたと同じ吸血鬼で魔女。そして、今日からはあなたの師匠でおねーちゃんよ。」
そう言ってウインクしたメリッサの青い瞳はとても魅力的で、とても優しげだった。私も何か返事をしなければいけないと思い、
「わ、私は・・・山岸山桜桃。吸血鬼で・・・吸血鬼です。」
変な自己紹介をしてしまった。メリッサがおかしそうに笑うのがとても恥ずかしかったけれど、久しぶりに出来た人間らしい会話に胸の奥が温かくなるのを感じた。
「あ、あの・・・よろしくお願いするです。し、ししょ・・・」
「おねーちゃんと呼びなさい!!」
喰い気味に言ってきたメリッサに気おされて、私は言われた通りにしてしまった。
「お・・お願いするです。メリッサ・・・おねーちゃん。」
メリッサおねー・・・師匠は、何やら顔を紅潮させて抱きついてきたけれど、私は久々に人の温もりを感じたようで嬉しかった。
「さぁ、弟子になったゆすらにおねーちゃんからのプレゼントよ♪」
師匠がスレイヤーカードを一振りすると、少し大きめのとんがり帽子と、マントが現れた。
「さぁ、身に着けてみて♪ふむふむ・・・あら可愛い♪」
普段スーツ姿で、こんな衣装は身に付けそうもない師匠。それが、どうしてそんな魔女っ娘セットをスレイヤーカードに入れていたのか。私が不思議に感じたのはもっとずっと先のことでした。
私が目を覚ますと、メリッサを含めた5人が慌しく戦後処理をしているところだった。神父姿の男が事務的な口調で話すのが聞こえる。
「・・・伯爵が人形と呼んでいた眷属ヴァンパイアは全て始末した。伯爵には逃げられたけどな。」
「ありえないよなぁ・・・日が少し陰った途端にコウモリになって消えちゃうんだから・・・。」
口をはさんだ少年は心底不機嫌そうだった。
「昼間の寝こみを襲ったとはいえ、十分な成果だろう。それで・・・。」
神父姿の男が続ける。
「そっちは、聞くまでもないな。やはりその子には素質があったか。」
4人はそれぞれこちらに視線を向ける。メリッサは、私が目を覚ましたのに気付いて優しく頭を撫でた。
「ええ・・・。なんだかこの子には私と同じ匂いを感じたからピンと来たわ。」
「やはり、学園に連れて行くのか?」
聞いたのは大柄な男。こうしたケースでは、それがセオリーになる。後々の安全を考えると、学園に連れ帰るのが一番というのが一般的な灼滅者の共通見解だった。
「ええ・・・そうしたいのは山々なんだけど・・・。」
そこで、メリッサはわざとらしく言葉を濁す。
「この子は私が育てることにしたの。私、この子を魔女にするわ!」
「「「はあっ・・・?」」」
メリッサの意外な言葉に、他の3人はみな度胆を抜かれていた。
「何を言ってるんだお前は・・・。」
神父姿の男は頭痛をこらえるように頭を押さえる。
「私、この子のおねーちゃんになっちゃったから♪」
正直、私からしても意味不明だった。
「大丈夫。この子の安全は責任をもって保証するから。私の実力は・・・分かってるでしょ?」
メリッサの手にはいつの間にか例の乗馬鞭が握られていた。神父姿の男は慌てて距離をとる。
「なぜ杖を出した。」
「どうしてでしょう?・・・なんてね。冗談。」
杖を下しながら、メリッサは続ける。
「この子は私と同じ。きっと同じような苦労をして生きていくことになるわ。そうなった時のために、出来るだけのことをしてあげたいの。」
そういった彼女の言葉には、平常時にはない真摯な響きがあった。
「・・・見逃してやったらどうだ?」
大柄な男が苦笑しながら言う。神父姿の男は、なおも難しい顔で唸っていた。が、何かを思いついたように、ポンと手を打つ。そして、意地悪そうな顔をして言った。
「分かった。今回ばかりは見逃そう。ただし、上にはメリッサが闇落ちしたとでも報告しておこうかな。」
「ちょ、ちょっと待ってくれるかな・・・?ジャン・・・?」
背を向けた神父姿の男、もといジャンを、顔を青くしたメリッサが呼び止める。
「そんなことしたら、あの雷爺が直々に灼滅しに来かねないんだけど・・・それも私が闇落ちしてないのを分かった上で。」
他の2人はその様子を苦笑いで見つめる。
「お前は少々独断専行が過ぎる。一度お灸を据えてもらったらどうだ。」
笑いを噛み殺しながら、ジャンはその場から姿を消す。程なくして、残りの2人もそれにならって帰っていった。
「さて・・・と。」
ぽかんと見ていた私にメリッサは視線を向ける。
「改めて自己紹介しようか?私の名前は、メリッサ・バーンスタイン。あなたと同じ吸血鬼で魔女。そして、今日からはあなたの師匠でおねーちゃんよ。」
そう言ってウインクしたメリッサの青い瞳はとても魅力的で、とても優しげだった。私も何か返事をしなければいけないと思い、
「わ、私は・・・山岸山桜桃。吸血鬼で・・・吸血鬼です。」
変な自己紹介をしてしまった。メリッサがおかしそうに笑うのがとても恥ずかしかったけれど、久しぶりに出来た人間らしい会話に胸の奥が温かくなるのを感じた。
「あ、あの・・・よろしくお願いするです。し、ししょ・・・」
「おねーちゃんと呼びなさい!!」
喰い気味に言ってきたメリッサに気おされて、私は言われた通りにしてしまった。
「お・・お願いするです。メリッサ・・・おねーちゃん。」
メリッサおねー・・・師匠は、何やら顔を紅潮させて抱きついてきたけれど、私は久々に人の温もりを感じたようで嬉しかった。
「さぁ、弟子になったゆすらにおねーちゃんからのプレゼントよ♪」
師匠がスレイヤーカードを一振りすると、少し大きめのとんがり帽子と、マントが現れた。
「さぁ、身に着けてみて♪ふむふむ・・・あら可愛い♪」
普段スーツ姿で、こんな衣装は身に付けそうもない師匠。それが、どうしてそんな魔女っ娘セットをスレイヤーカードに入れていたのか。私が不思議に感じたのはもっとずっと先のことでした。
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- 拝啓 師匠へ(手紙形式の近況報告)・・・9/20更新
- 学園生活の軌跡・・・10/2更新
- イメージボイス(CV:月城・結祈さん)・・・9/21追加
- 掲示板
- キャラクター名
- 山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
- 性別
- 女性
- ルーツ
- ダンピール
- ポテンシャル
- 魔法使い
- 設定詳細
- ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。