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入学前の物語(小説)・・・10/11更新

第1章2節 解放の日

 暗闇に塗れた日々の終わりは突然やってきた。

 とある日。あれは確か昼間のことだったと思う。

 日中における力の消耗が激しい伯爵や人形の女達は、強烈な眠気に襲われるようで、普段は夜になるまで微睡にふけっていた。かくいう私も、夜が明けると強い眠気が襲ってくるのは同様で、ぼんやりと意識を保つのが精いっぱいだった。

 そんな折のことだった。雷のような轟音を立てて、暗い広間の天井が崩れ落ちたのは。

「元気か?伯爵の爺さん!!逢いたかったぜ!!!」

 豪快に笑いながら飛び込んできた大柄な男に続いて、3人ほどの影が続けて広間に飛び込む。

「「「「「「ぎゃああぁぁぁ!!!」」」」」」

 壊れた天井から差し込む太陽の光を浴びると、眠っていたはずのヴァンパイア女たちは悲鳴を上げて苦しみ始めた。

「どうやらエクスブレインが言ってたことは本当だったらしいな。あの伯爵もその眷属ヴァンパイアも、今は随分弱ってるらしい。」

 言ったのは、線の細い神父姿の男。懐から2丁拳銃を取り出すと構え直した。と、最後に入って来たスーツ姿の女が口を開く。

「そんなことはどうでもいいの。こんな可愛い子ばかりを眷属にするなんて・・・あのじじい。生かしてはおけないわ。」

 キャリアウーマンのようなその出で立ち。金髪に赤眼鏡の似合うその顔をしかめる女性に、私はなぜか目を惹かれたのだった。

 だけど、そこで我に返った私は、はたと気づいた。自分の身体は日の光を浴びても何ともなかった。他の人形たちのように肌を焼かれてはいなかった。

『今しかない』

 おそらく、もうすぐ伯爵は騒ぎを聞きつけてこの場に現れる。この苦しい日々を抜け出すチャンスは、この機を置いて他になかった。

 もだえ苦しむヴァンパイアたちと侵入者の隙を見て、私は通路へ駆け出した。

「え゛・・・・。マジで?」

 侵入者の1人、少年といっても良さそうな人物がが驚きに目を見開く。

「今回は日の光で概ね眷属の足止めできるって話じゃなかったのかよ・・・。やっぱり天井ぶっ壊して飛び込むっていう篤志のアイデアに無理があったんじゃ・・・。」

 彼が大柄な男をジト目で見ると、神父姿の男が言った。

「まぁ、落ち着いてくれ。あれは、その概ね・・・の例外なのかもしれない。」

「そんないい加減な予測があっていいのかよ・・・。」

少年は唇を尖らせる。

「今回はバベルの鎖の量が並ではないという話を事前に聞いただろう?多分逃げ出したのは眷属ヴァンパイアの中でも特殊な部類・・・もしくは・・・。」

 神父姿の男が言いかけた時、壁を突き破って1体のヴァンパイアが現れた。

「おのれぇ・・・我がドールハウスに何たる狼藉を・・・。灼滅者め・・・許さん!!!!」

 目を怒らせて身を焼く太陽の光もものとはしない。

「おっと・・・伯爵様が直々にお出ましのようだ。逃げた吸血鬼は任せていいか?メリッサ。」

 神父姿の男が言うと、スーツ姿の女は眼鏡のブリッジ部分をクイッと持ち上げると一言だけ返事をした。

「おまかせ♪」
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キャラクター名
山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
性別
女性
ルーツ
ダンピール
ポテンシャル
魔法使い
設定詳細
ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。