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入学前の物語(小説)・・・10/11更新

第1章1節 伯爵様のお人形

 気が付けば私は人形だった。たった1つの名前すら思い出せないほどに・・・。

 日々を過ごす暗い広間には、私と同じく、人形にされた者たちが大勢侍っていたのを覚えている。人形、つまり、形は人なのに、人間ではない者たち。

 広間へ連れ来れられた者たちは、みんな命を失った。首筋に与えた伯爵の口づけとともに、人間の命を失い、人形の命を与えられた。吸血鬼の命を。

「さぁ人形たちよ!」

 伯爵は夜ごと広間を訪れた。ヴァンパイアとなった彼女たちに、人間としての自我はもうない。抗うことなく伯爵に隷属する彼女たちは、完膚なきまでに人形だった。伯爵は、人形たちから全てを奪う、そんな存在だった。

「うぬは、なぜ従わない?」

 そんな中、私は、私だけは、人間としての自我を失わなかった。今から思えば、幸運だったのかもしれない。もしかすると、不幸だったのかもしれない。人形の身体で目覚めるときに、私一人だけは人間の自我を失うことが出来なかった。

 伯爵は、そんな私を毎晩のように嘲笑った。失敗作だと。『鳥無き村のコウモリ』だと。人形としても出来そこない、人間に戻ることも出来ないと。いっそこの自我を失っていたのなら、長く、終わりのないあの苦しみを味わうことなく、新しい命を生きることが出来たかもしれない。伯爵が私を手籠めにしなかったのは、一重に伯爵が私の闇堕ちを気長に待っていたからだろう・・・。

 そうして時が経つ中で、私の自我は次第にすり減り、闇の中へ落ちていった。闇堕ちはもう間近だったと思う。

 見たくないものを見せられ続けた。聞きたくない言葉を聞かされ続けた。嫌だった。だけど、私はいずれは自分もそうなることをもう少しで受け入れそうになっていた。

 辛うじて、それを押しとどめていたのはたった1つの思い。

『出来ることならもう一度、かつて私が見たであろう外の世界が見たい。まだ見たことのない世界をこの目で見たい。』

 その思いが、希望のように、あるいは、呪縛のように私の自我を肉体に結びつけていた。
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キャラクター名
山岸・山桜桃(やまぎし・ゆすら)
性別
女性
ルーツ
ダンピール
ポテンシャル
魔法使い
設定詳細
ヴァンパイアを信奉する両親が生贄として捧げたために、吸血鬼になった少女。人間に戻る方法を必死に探し求めている。吸血鬼の赤い瞳を嫌い、魔法で茶色に見せかけている。純粋でうぶな性格だが、自分を眷属にしたヴァンパイアの影響で、異性の近くにいるとイケナイ妄想で頭が一杯になる。そのため、男性との接触を避けることが多く、男性恐怖症と誤解されやすい。普段は抑えているが、理性が限界に達すると、瞳が赤く染まり、妄想に突き動かされて大胆な行動に出てしまう。逆に、女性に対する接し方が百合っぽいのは師匠であるメリッサの影響である。甘いものとトマトジュースが好き。