- SFシリーズ『スタートレック』では、宇宙船がワープ航法によって高速移動する。
- 真空中での光速は、秒速およそ18万6282マイル(29万9792km)だ。『スタートレック』の世界では、ワープ・ファクター1が光速にあたり、ワープ・ファクター9.9は光速の2000倍を超える。
- 元NASAの科学者で、現在は日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)に所属するジェームズ・オドノヒュー(James O'Donoghue)氏は、スタートレックのエンタープライズ号をモデルに、太陽系におけるワープスピードを示すアニメーションを作成。その動画をTwitterに投稿した。
- オドノヒュー氏のアニメーションによれば、最高速に近いワープスピードで、太陽から冥王星に着くまでに10秒近くかかる。最も近い恒星までなら18時間を要するという。
- 惑星科学者であるオドノヒュー氏は、宇宙旅行の距離と速度に「がっかりした」という。このアニメーションを作成したのは「みんなにも、私と同じくらいがっかりしてもらう」ことが理由の一つだったという。
『スター・トレック』のSF世界では、宇宙船が「ワープ・ドライブ」により、通常は超えられない光速の限界を超えて移動できる。真空中での光速は、秒速およそ18万6282マイル(29万9792km)だ。
理論物理学を打ち破るこの技術を使えば、銀河を渡って異星人がひしめくさまざまな惑星まで行く旅も、テレビのCM休憩程度の時間しかかからない、手軽なものになる。
だが、惑星宇宙科学者のジェームズ・オドノヒュー(James O'Donoghue)氏が作成した最新アニメーションにより、そうした架空の宇宙船のワープ・ドライブの現実があらわになった。アメリカ航空宇宙局(NASA)の出身で、現在は日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)に所属するオドノヒュー氏によれば、そのアニメーションは、たとえ超光速であっても、宇宙旅行に対する「がっかり感」を抱かせるものだという。
オドノヒュー氏は以前、太陽系内での光速移動を描いたアニメーションを作成したが、その結果は我々の夢と希望を打ち砕くものだった。そのアニメーションが大きな注目を集めたことで、オドノヒュー氏は、もっと速度を上げたらどうなるのだろうかと考えはじめた。
そこでオドノヒュー氏は、『新スター・トレック』に登場するU.S.S.エンタープライズ号をさまざまなワープスピードで、太陽から冥王星まで飛ばしてみた。U.S.S.エンタープライズ号とは、ジャン=リュック・ピカード艦長(演じるのはパトリック・スチュワート)が率いる宇宙船だ。
オドノヒュー氏が10月7日にTwitterに投稿したの動画は、注目を集めた前回のアニメーションと同様に、我々の期待をしぼませるものだった。
オドノヒュー氏はBusiness Insiderに対して「太陽系と、その外の世界の距離に、心の底からがっかりした」と語り、こう続けた。
「私の狙いの一つは、みんなにも私と同じくらいがっかりしてもらうことにある」
CNNによれば、偶然にも、スタートレック・シリーズの最新作品『Star Trek: Picard(原題)』が、2020年1月に公開される予定だという。(日本ではAmazonプライム・ビデオで公開予定)
Incidentally, a follow-on series titled "Star Trek: Picard" is scheduled to premiere on CBS All Access on January 23 and on Amazon Prime the following day, according to CNN.
『スター・トレック』のワープスピードに関する最新アニメーションは何を示しているのか――そして、なぜがっかりするのか
『スター・トレック』の宇宙では、「ワープ・ファクター(ワープ係数)」に関して絶対不変の尺度は存在しない。50年以上にわたる作品の歴史のなかで、さまざまなシリーズやエピソード、映画作品で矛盾する数字が登場してきたからだ。
とはいえ、『新スター・トレック』シリーズの技術アドバイザーであるリック・スターンバック(Rick Sternbach)とマイケル・オクダ(Michael Okuda)が1991年に公開したテクニカル・マニュアルには、いくつかの確実な数字が記載されている。オドノヒュー氏のアニメーションは、その数字に基づいて、(Wikipediaのページと見比べながら)作成されたという。
その尺度に従えば、ワープ・ファクター1は光速と同じ速さ(以下の画像では、この速度での地球と月の移動を示している)。ワープ・ファクターの上限とされる値は9.99で、これは光速の2140倍にあたる。
オドノヒュー氏は、太陽から冥王星まで、太陽系全域を移動するエンタープライズ号の飛行を描くことにした。まずはワープ1でスタートし、最終的にワープ9.9、つまり光速の2083倍まで加速する。
- ワープ1(光速)で飛行するエンタープライズ号は、まるで太陽の上にじっととどまっているように見える。光速と同じこのスピードで移動する場合、太陽からおよそ36億7000万マイル(約59億km)離れた冥王星に行くだけで、5時間28分を要する。太陽に最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリまでは、4年3カ月という、気の滅入るほど長い時間がかかる。
- ワープ5は、光速のおよそ213倍の速さだ。このスピードなら、太陽から冥王星までの旅はわずか1分30秒になる。それでも、プロキシマ・ケンタウリまでは1週間かかる長旅だ。
- ワープ9.9では、冥王星までは10秒未満の小旅行。プロキシマ・ケンタウリまでは18時間の船旅になる。
最も速いワープ9.9という速度は、現実の宇宙の物理法則で可能とされる速度の数千倍の速さだ。だが、この9.9で移動しても、天の川銀河の端から端まで移動するには96年を要するだろう(天の川銀河は、数千億個の恒星から構成されており、最新の研究によれば、幅15万~20万光年にわたって広がっている可能性がある)。現在の人間の平均寿命よりも10年近く長い時間がかかることになる。
『Star Trek: The Next Generation ― Technical Manual』によれば、エンタープライズ号にとって最速の「トランスワープ」(「超ワープ」とも呼ばれる)は、光速のおよそ8323倍だ。その速度で考えたとしても、銀河を端から端まで渡るには24年を要する。天の川銀河に最も近く、およそ250万光年離れているアンドロメダ銀河までのトランスワープの旅には、およそ300年の年月がかかることになる。
四半世紀のあいだ暇つぶしをしようとしたら、ホロデッキでも、AIコンパニオンでも、品ぞろえ豊富な宇宙船バーでも、役に立たなさそうだ。3世紀をどう過ごしたらいいかなど、想像もつかない。
「とはいえ、彼らを気の毒に思うのは難しい」とオドノヒュー氏は『スター・トレック』世界の人々について語っている。
「我々が史上最速の宇宙船をつくったとしても、光速の0.1%にも到達しそうにないからだ」
人類の宇宙の旅は、とてもとても遅い
「人類のつくる史上最速の物体」が出せる、太陽に対する相対速度は、秒速119マイル(約192km/s)、つまり時速43万マイル(約69万2000 km/h)と考えられる。
2018年8月に打ち上げられたNASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」は、太陽を猛スピードで周回する際に、一瞬だけこの速度に到達する。この速度で太陽から冥王星まで飛ぶとすると、1年近くがかかることになる。
強力なレーザービームにより、アルファ・ケンタウリ星系に向けて発射される「ブレークスルー・スターショット」計画の超軽量宇宙船「ナノクラフト」のイラスト。
Breakthrough Foundation
「ブレークスルー・スターショット」計画のエンジニアたちは、超小型宇宙船「ナノクラフト」により、光速に近い移動を達成しようと力を注いでいる。光を反射する帆に強力なレーザービームを照射して急激に加速させ、最終的に、プロキシマ・ケンタウリ(生命が居住できる惑星を従えている可能性がある赤色矮星)などの近くの恒星を通過させるというアイデアだ。
だが、光速の20%という予定速度で飛行したとしても、ナノクラフトが近くの恒星系を通過して写真を撮るまでには、21年以上の年月を要する。そのうえ、画像データを運ぶ無線信号(光速で移動する)が地球のアンテナに戻ってくるまでに、さらに4.24年がかかる。
とはいえ、本当に孤独を実感したいと思うのなら、SFそのものを見るだけで十分だ、とオドノヒュー氏は考えている。
「めったに使われないワープ9.9の速さを使っても、最も近くにある恒星にたどりつくまで数十時間がかかる。それを知れば、われわれが孤絶しているという思いと、(宇宙へ向かう)勇気が、いっそう深みを増すと思う」とオドノヒュー氏は言う。
「視聴者はおそらく、宇宙の大きさと、エンタープライズ号とその乗組員の開拓者精神を、もっと感じられるようになるはずだ」
(翻訳:梅田智世/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)