韓国がICJ提訴に応じないのは、竹島占拠が違法であることを自覚し、負けるのを恐れているからだ、というのが“竹島は日本の固有領土”を主張する人々の主長である。そこから、“韓国は卑怯”だとか、“国際法が理解できない火病患者集団だ”、とかいう悪感情に根ざした憶測 / デマが日本語ネットで拡散しているのは非常に遺憾なことである。 しかし英語圏ネットを通してみれば事情はその逆で、韓国側の主張の方が歴史的かつ法的にも有利であるように書かれているのはなぜだろうか。 その決定的理由は、1951年に調印されたSF条約(サンフランシスコ対日講和条約)の竹島/独島 領有の解釈の違いにあるようだ。 日本の外務省は竹島が日本領土であることをこのSF条約に絶対的に依拠している。しかしながら、このSF条約には、竹島/独島の名は全く明記されていないのは周知の事実だ。それにも関わらず、外務省はSF条約で竹島は日本に返還された、と頑張っている。理由は、2006年にネットで公開されたラスク書簡である。サンフランシスコ平和条約締結直前の1951年8月10日、当時米国国務省の極東担当次官補だったラスク氏は韓国の李政権へ機密書簡を送っている。このラスク書簡は、李政権が竹島とパラン島を日本が譲渡する領土としてSF条約に明記するように要求したことを拒否するという返答であった。その理由は以下の原文で明らかである。 As regards the island of Dokdo, otherwise known as Takeshima or Liancourt Rocks , this normally uninhabited rock formation was according to our information never treated as part of Korea and, since about 1905, has been under the jurisdiction of the Oki Islands Branch Office of Shimane Prefecture of Japan. The island does not appear ever before to have been claimed by Korea 独島、竹島、又はリアンクール岩礁については、元来無人の岩島であり、1905年頃から、島根県隠岐島の管轄下にあり、私たちの知っている限りでは、これまで韓国領としてみなされていなかった。この島は過去に韓国側から領土として主張されたことはないように見える。 この箇所は法的文書にしては不明確過ぎる。むしろ逆に悪徳弁護士が相手、つまり韓国側、を脅しているような印象さえ受ける。案の上、米側はSF条約締結後もこの機密書簡を小出しにしては、李政権を黙らせようとするのである・・・・ しかし、日本の外務省が頼りにしているこのラスク書簡は、米韓間の全くの機密文書であり、日本側に公開されることはついになかった。 そして、SF条約そのものは竹島がどちらの国の領有なのかについては全く触れられていない。それは、SF条約の下書きの中で、竹島・独島の領有国が、初期には韓国、そして日本寄りへと反転していった軌跡とは全く違ったものであることからも、触れられていないという事実は偶然ではないということが明らかである。 1951年9月3日、SF条約署名日の3日前、米側代表であったダレス氏は、ポツダム宣言にもとずいて日本は独立を認められなければならない、米国はこの条約に加盟した48カ国の内の一国にしか過ぎない、連合国側が第2条(竹島/独島関連)で一致できないからといって日本の独立をこれ以上延期させるべきではない、という事を演説でも明らかにしている。 この条約の原文を読めば誰でも感じることでもあるが、今日では、SF条約は竹島=独島は故意に避けている、と解釈されるのが公平かつ標準的な見解となってしまっている。その理由についても見解はほぼ一致しつつあるようだ。 米を中心とする西側の冷戦戦略の影響である。 原貴美恵氏はサンフランシスコ平和条約体制と米の冷戦戦略の研究で国際的にも高く評価されている。原教授の基本的スタンス(=立ち位置?)は、Japan Focus に公開されている“The San Francisco Peace Treaty and Frontier Problem in the Regional Order in East Asia ”で知ることができる。 例えば、ネットで拾った論文に、Japan-Korea relations and the Dokdo/Takeshima dispute by Ralf Enmers というのがある。これはシンガポールのNanrayang Techincal U. のある客員教授によるものだが、ここでも、SF条約では竹島/独島問題の解決はなかったという見解が取られている。 しかも、ICJに提訴を、というのも、日本政府のオリジナルな発想ではなかったようだ。実は、これは米側から日本政府に払い下げられたポリシーである可能性が大きいのだ。だからアベッチ内閣はこれをそのまま猿真似のごとくSF条約締結から60年以上もたった今日でもお経のようにひたすら唱えていることになる。 ところで今日の米側の見解は非常に明確である。尖閣問題と同様に、米政府は二国間の領土紛争については、過去と同様にこれからも一貫して中立を守っていく、というのである。 ラスク書簡の本家本元がこういっているのに、外務省をはじめとする竹島日本領土派はなぜ60年前の機密書簡にしっかりとしがみついているのだろうか? 外から見るといささか滑稽としかいいようがない。 話がかなり横道にそれてしまったので、本道に戻ろう。 SF条約では竹島問題が棚上げにされてしまった。 だから、結果として竹島/独島の領有国はどちらか?にまた逆戻りとなってしまう。 ところで米のダレス代表の演説でも明らかなように、SF条約というのは1945年のポツダム宣言の終結であるはずだった。だから日本の領土割譲については条約で明確にされることが当然予想されていた。だからSF条約自体はきわめて予期せぬ結末であったと言えるのではないだろうか。 そのポツダム宣言だが、これは1943年末のカイロ宣言を継承したものである。 だから逆に言えば、SF条約というのは、カイロ宣言、ポツダム宣言と続く日本の敗戦という歴史上のひとつの流れの終結点であったはずなのだが、逆にこれが新たに領土問題を作り出したという感さえあるのだ。 1943年の末から1944年の初頭、Dデー(ノルマンディー上陸作戦)を念頭においた連合国側では一連の首脳会談が持たれ、連合軍攻勢と戦後処理の見通しについての合意に達した。日本に関してはカイロ宣言で領土及び占領地委譲の方針がラジオで世界に公開された。 このカイロ宣言の目的は、日本の侵略を阻止し、日本を罰する為である。 宣言当事国の米・英・中は日本との戦争で、何か、領土獲得を含めて、を得ようという下心は全く無いということを明確にした。 太平洋地域で、1914年以降日本の行政下にある領土は全部返還。 同様に、旧中国領土は中国に全部返還。 他の日本領土については、 Japan will also be expelled from all other territories which she has taken by violence and greed. 日本は、占領及び領土拡張政策下で獲得したその他の領土はすべて返還、 となっているのである。 公平な視点として、“violence and greed”という言葉使いについては、かなり感情的表現ということができる。他の学者達も解釈についてかなりの戸惑いを見せている様子であるが、歴史的事実に基ずいて、占領と日本の領土拡張政策(=植民地化政策)というように拙者は解釈した。 だから、竹島領有権に関しては、カイロ宣言は韓国側に有利に働くとみなされているようだ。 この点に関しては、Web竹島問題サイトで、中野徹也氏が深い懸念を表している。 このカイロ宣言の日本の領土に関する基本方針は日本に無条件降伏を要求したポツダム宣言に継承されていく。 |
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ラスク書簡は極秘情報と分類されています。これが当時の李政権の中でどれだけ知られていたかは?です。自国に不利なことは隠しておくのが当然でしょうから。
米国務省内でもダラス代表と一握りの親日派グループのみで、国務省の公的方針とはなっていませんでした、従って日本側に通告されることもありませんでした。誰かが洩らした可能性あり?
要するに米側は機密として永遠に押し通そうとしていたわけですが、米国では公的書類全公開法がありますし、最近のウィキーリークスで多くの米国の外交書簡が公開されてしまったようです。
ラスク長官や米側関係者はほとんどが弁護士出身ですから、米側の一方的立場(これは米書簡からの表現)を公的にすると、法的倫理義務から日本の主張を支持しなければならなくなりますから、SF条約そのものが不可能となる上に、ポツダム体制は事実上崩壊していたという認識を考慮に入れると、米国側も考えざると得なかったのではないでしょうか。
2014/3/13(木) 午後 1:35 [ chuka ]
Makoto氏が竹島問題に関してよくリサーチされていることは十分承知していますが、英語資料を誤解しています。
たとえばChammiey氏のブログコメント 3/8/14 です。
米大使は、日本の予定測量は違法ではないが、韓国側の感情的反応からさらなる事態の悪化を引き起こす可能性を憂慮し、米国としては、相方ともそういった行動を慎んで欲しい、という言い方で、日本側に韓国を挑発するような行動を止めるよう意見しているわけです。
この秘密書簡は米国の竹島日本領土支持とは何の関係もありません。竹島問題が韓国のナショナリズムを高揚させる、ということは国際的によく認識されていることで、全く珍しくもないことのですが、韓国側にはそういった事実を認められない人達も結構多いのでは。
2014/3/13(木) 午後 2:45 [ chuka ]
>米側は機密として永遠に押し通そうとしていたわけですが……
やっぱり出ましたね、保坂祐二説(笑)
根拠は1953年7月22日のアメリカ国務省が出した文書(Possible Methods of Pesolving Liancourt Rocks Dispute Between Japan And Republic of Korea)
ですか?
この文書のどこをどう解釈したら、ラスク書簡は今後も機密にする、となるのでしょうかね?
2014/3/13(木) 午後 2:54 [ パラン島 ]
SF条約締結前としてはラスク書簡が米の立場を機密として伝えた唯一のものというのは非常に興味深い。やはりこれは脅かしだったと考えられます。
しかし一旦立場を明らかにすれば、米国には法的外交的責任が生じます。米の立場を全く知らされていない(?)日本側は米国の仲介を依頼することを打診さえしてきているわけでしょうが、こうなると、法的倫理から米はラスク書簡でのスタンスを公開せざると得なくなる、ということです。できることならそういう事態を避ける為にICJを日本に推薦しているのです。明らかにワル知恵ですね。
2014/3/13(木) 午後 3:53 [ chuka ]
おわかりになられましたか?
確かにラスク書簡は1998年まで公開されませんでしたが、機密扱いにされていたわけではありません。
『ラスク書簡は機密扱いにされたから無効だ!』と言うのは、保坂祐二氏の曲解でしょう。
日本政府からの問い合わせがあったら、アメリカはラスク書簡の立場を明らかにするのもやむを得ない、と考えていた。
しかし、日本政府は二国間で解決すると言ったので、日韓間の領土紛争に巻き込まれたくなかったアメリカは、これ幸いと首を突っ込まないことにした。
これが真相でしょう。
2014/3/13(木) 午後 6:11 [ パラン島 ]
パラン島氏の指摘しておられる機密文書のウィキソースによる日本語訳は誤訳です。竹島日本領土派の熱心さを悪用して、そういった方々の頭脳のガラパゴス化を策したものです。非常に遺憾なことです。
ほさか氏の主張に依拠しなくても、原文を読めば明確です。
同年11月30日付けのTurner Memorandumでも米のラスク・スタンスを公開する究極の情況を想定しています。
仲介に立つには、中立であることが条件ですから、米は韓国側に機密として通告したスタンスについて公開しなければならない、ということです。これは書簡でも述べられているように、米にとって国際的信用問題にかかわります。
2014/3/14(金) 午前 0:36 [ chuka ]
Makoto氏
Chammiey 氏のブログの米外交文書は4月20日付け。谷内内務次官が2日後の4月22日に訪韓し、日本側は海底調査を、韓国側は名称変更をそれぞれが中止することで妥協しています。米国側の介入があったかどうかは?です。
2014/3/14(金) 午前 4:40 [ chuka ]
ウイリアム・ターナーの作成した覚書の内容は、簡単に言えば、
いずれ日本人にもラスク書簡の事は知れるだろうが、その時には我が国が知らせなかった事に憤慨するだろうから、その前に手を打ったほうがよい。
韓国にはラスク書簡を示して受け容れないなら、日本と和解するかICJでの解決を勧める。そして、調整がこれ以上長引けばラスク書簡を日本に示した上で、この件の仲介からは手を引くべき
ここにも、『ラスクノートはエターナル・シークレットだ』とは書いてませんよ。
ラスク書簡は極秘文書ではなく、また韓国政府の修正要求に対するアメリカ政府の回答書であるからいちいち他の連合国に通達して同意を得るべきものでもないし、有効無効を論じるべきものでもない。
2014/3/14(金) 午前 5:10 [ パラン島 ]
Turner Memorandum では、米が日韓の紛争に巻き込まれない為に、ラスク書簡の存在を日本側に知らせることを提案しています。
背景には米軍が竹島の演習地解除を両国に通告したことから、小規模ながら武力衝突が起こったということが背景となっています。
その後、ダレス国務長官自身が電報を送って、日本側に米国の見解を伝えないように指示しています。
確かに韓国は条約の当時国ではないので、米政府の回答書は日本や連合国側に通告することもなかったとも考えられます。
2014/3/14(金) 午前 10:41 [ chuka ]
>小規模ながら武力衝突が起こった……
細かな点ですが(笑)、以前にも申し上げた通り、日本側が韓国側に向けて発泡・船舶の臨検等を行った事実を私は知りません。
『武力衝突』とは、どの事件を指すのでしょうか?
2014/3/14(金) 午前 11:54 [ パラン島 ]
上のコメント、前回と同じでは?これは日本側が米軍が竹島を日本に返還したものと想定して竹島を実効支配しようとして起こったことのようでうす。
2014/3/15(土) 午前 6:13 [ chuka ]
Chukaさんのご指摘の通り、ラスク書簡は本当に機密文書だったのか、さらに調べておりましたら、1978年4月に機密指定が解除された、とMakotoさんがおっしゃっておりました。
ヴァン・フリード特命報告書の表紙には、『Top secret』と書かれていた記憶があるのですが、ラスク書簡も同様だったのでしょうか?
これが事実なら、私はまだまだ勉強不足・未熟ですね(反省!)。
2014/3/15(土) 午後 7:30 [ パラン島 ]
こんな馬鹿げたことがあっていいのでしょうか?
ラスク書簡はconfidential memorandum機密書簡として海外の研究者達にはとっくに認識されています。この書簡の存在自体はSF条約締結後の米国務省内でも知られていなかったのです。この重要な事実さえ日本の竹島マニアは知らないとは!
もちろんアベッチと側近の御用学者達は知っていたのでしょうが、日本のガラパゴス島化を悪用してネトウヨ集団を騙していたということになります。
遺憾にたえません。
2014/3/17(月) 午前 0:43 [ chuka ]
まるで鬼の首を取ったかのような物言いですね。
しかも、ネトウヨやら国家の陰謀説みたいな話まで出てきたけど(笑)、これは私の単純なミスですよ。
私は純粋に学ぶべきものは学ぼうという姿勢なので、誤りや勘違いがあれば素直に認めますよ。
それよりも、これまで幾つかの私の指摘に対して、引用先を示してきちんと返答すらしていない貴方に、私を責める資格はないと思います。
例えば、占領軍が領域主権の処分権を行使する権限があるのか?あるのなら、その根拠は何なのか?
貴方は何ら返答していないのですよ。
ところで、ラスク書簡で重要なのは、それが機密だったか否かではなく、その認識がアメリカの公式の見解だったのか否か、です。
得意満面のところ申し訳ないのですが、わかっていらっしゃいますか?
2014/3/17(月) 午前 2:23 [ パラン島 ]
ラスク書簡の存在が国務省内でも知られていなかったということはないと思います。むしろ、承知の事実だったとみるべきでしょう。
ただ、駐韓国大使館がラスク書簡の存在を知らない状態が1952年11月5日付のYoung極東局北東アジア課長から駐韓国米国臨時大使への書簡まであったと言えます。この書簡の中でラスク書簡についても触れており「竹島は日本の領土」との米国の立場が確認されています。そして同月27日付の通牒で駐韓米国大使館から韓国政府に対して「竹島は日本の領土」との立場が伝えられています。(つづく)
2014/3/17(月) 午前 3:13 [ Makoto ]
(承前)ラスク書簡を無きものにしたい人たちが色々屁理屈をこねまわしてきますが、それは悪足掻きでしかありません。
ラスク書簡自体に法的拘束力はありません。がしかし、サンフランシスコ講和条約(SF条約)起草の過程を見通し、曖昧な条文を解釈するに際して補助的な資料とすることは可能です。SF条約の起草者から発出されたものですから、SF条約がどのような認識のもとで起草されたのかの判断材料となり得るからです。ラスク書簡は明確かつ完全に韓国の領有主張を退けています。したがってこれによりSF条約が竹島を韓国領としたとの解釈が成り立たないのは明らかでしょう。
そしてこの「竹島は日本の領土」との米国の立場は、今日に至るまで変更されていません。
2014/3/17(月) 午前 3:15 [ Makoto ]
>>この秘密書簡は米国の竹島日本領土支持とは何の関係もありません。(2014/3/13(木) 午後 2:45 [ chuka ])
「大使は、アメリカは日本が国際法の下でその権利の内にあることを理解すると述べた。」とありますね。ある海域を測量することは領域主権と関わりのあることです。日本が当該海域において測量をすることは国際法の下で権利のあることだと言っているわけです。つまり、間接的な表現ではありますが「竹島は日本の領土」との米国の立場を表明しているわけで、この秘密書簡は米国の竹島日本領土支持とは何の関係もないとは言えません。
2014/3/17(月) 午前 4:06 [ Makoto ]
政治的意図により公開しなかったという理由で、ラスク書簡のアメリカの立場は消滅するものなのでしょうか?
2014/3/17(月) 午前 9:46 [ パラン島 ]
ラスク書簡を始め、一連の機密外交書簡の公開は、極東での米の冷戦戦略を理解する上で非常に重要な資料となっています。
のSF条約の目的はポツダム体制が完全に崩壊しない前に日本に独立を回復させること、竹島問題の表面化はかえって障害となるだけだったようです。また、米側からこれほどまでに信頼を得た吉田首相の外交的勝利としてみなされてもよいのではないでしょうか。
2014/3/20(木) 午前 8:45 [ chuka ]
Makoto氏は大きな勘違いをなさっているようです。
ウィーン条約中での曖昧な解釈について。
日本はSF条約で竹島を領土回復したと解釈しています。それでは他の48カ国はどうなのでしょうか。日本側はあの時点で相手国48カ国の見解を明確にさせるべきだったのです。
これがウィーン条約第31条、第32条で指摘されていることなのです。条約というのは加盟国が先行します。
2014/3/29(土) 午前 0:05 [ chuka ]