◇19日 日本シリーズ第1戦 ソフトバンク7-2巨人(ヤフオクドーム)
これが引退する人間の打球なのか。2回1死、打席にはこのシリーズを最後に引退を表明している巨人の5番・阿部。千賀の初球、152キロのストレートに振り遅れることなくフルスイングすると、打球は美しい放物線を描いて右中間スタンドへ飛び込んだ。
シリーズのチーム初得点を一振りで呼び込み、「先制点が取れて良かった」とにっこり。ベンチも、敵地のスタンドのG党も、7年ぶり日本一に向け上げ潮ムードだ。
喜びは一瞬。その裏、グラシアルの2ランで逆転されると、打線は千賀の前に沈黙。救援陣がバタバタと失点を重ね、黒星スタートとなった。
阿部は日本シリーズで、2008年の第5戦、09年の第3戦と第5戦でそれぞれ1本ずつアーチを放っており、今回は10年ぶり4本目になる。29、30歳だったとき以来、40歳での一発。プロ19年目の今季ペナントレースでは、初めて本塁打が2桁に乗らなかった。それでも大舞台で打てる勝負強さと、ホームランテラスではなくスタンドまで打球を運ぶ力がある。原監督も「見事な! 初球をね!」と感嘆した。
空砲となっても、阿部は「今日のことは忘れて、また明日。先頭バッターがなんとか出塁するとか、皆で心がけていけばいいんじゃない」と頭を切り替えていた。足早にバスに乗りこみながらも、目線はキッと前を見つめていた。