10/17、フロントガラスを叩き割る男の映像を最初にTwitterで見たとき、私はまず家族に連絡した。現在私は豊明市に住んではいないが、在所は豊明であり、両親は今も豊明の実家に住んでいる。
素手(後に石だと判明)でガラスを叩き割る馬鹿力の男がそこらへんをウロウロしていると思うと、家族の身の安全が心配でならなかった。
そして、この10月の4連休を使って実家に帰る予定のあった自分自身にも危険が及ぶのではないか、と強い不安を感じた。
翌日、10/18になって、逮捕のニュースが報道された。一安心したのもつかの間、記事の内容を読み進めて私は深く絶望した。
記事の中には、私の小学校時代の友人の名前と、すぐ後に続けて「容疑者」という単語が綴られていた。
ネットでは心無い人々が、「知的障害があったんだろう」とか「こんな容姿じゃ犯罪に走るのも当然だ」とか好き勝手に述べている。
でも、私の知っている彼は、賢くてどこか品のある爽やかな少年だった。
彼は偏差値60〜70の、いわゆる名門校に進学した秀才の類だった。ASD傾向もADHD傾向も見られない、定常者であったことを断言する。
彼が声を荒げたり、乱暴な振る舞いをしたことは一切見たことがない。温和な性格で、「育ちがよい」という言葉が似合うような男の子だった。
容姿に関して言えば、たしかに彼は激変していた。中学生ぐらいの彼は、柔和な印象を与える肌つやのいい少年だった。
私が動画を見ても、かつての友人だったことに全く気が付くことができないぐらいに、彼の外見は変貌していた。
それは、単に会わなかった間に経った年月のせいではないだろうと思う。社会から疎外され、身なりを整えず、体型を維持することも明るい表情を作る機会も無くなった時に、人間の容姿はあそこまで変わってしまうのかと驚愕した。
複数のアフィブログが「木崎容疑者の住所・電話番号が特定か?高校大学、Facebookは?」という釣りタイトルをつけて、その実、何一つ特定できていない。
名前が独特なので、記者や探偵など住所の調べ方を知っている人間ならすぐにわかるはずだが、そこまでしている人間はいないのだろう。個人情報が晒される場合、特定班の推理力というよりもリアルの知人がチクっているケースが多々存在する。
今回の事件でまだ彼の個人情報がおおっぴらになっていないのは、かつての彼を知る知人たちは彼の身を案じており、一方で、今の彼を知る人間の数が極端に少ないからだ。
だから、彼の情報はもうほとんど出てこない。Facebookはおそらく無い。Twitterアカウントがあったとしても、それと生身の彼の結び付きを知る人はいないだろう。
たぶん、彼は10年以上引きこもっていたと思うし、それが今回の事件の主たる原因だと思う。被害女性との接点はおそらく全く無く、無差別的な犯行だろう。
彼がどうして学校に行けなくなったのか、仕事に就くことができなかったのか、私は知らない。しかし、たぶん最初の小さな社会のレールからの脱線が、彼を大きく追い詰めてしまったのだと思う。
「こんな基地外隔離しておけ」「二度と社会に出てくるな」と真っ当な世間の人は言う。あの凶行が先天的な知的障害や統合失調症に見えるのだろう。
しかし本当は、彼が社会の中で暮らしてさえいればあんな事件は起こらなかった。
無職であるという理由で、世間の人は彼を激しく罵倒した。そういう世間の視線を痛いほど理解しているから、彼は耐えられなくなってしまったのではないか。
これは私の勝手な憶測でしかないが、彼は統合失調症ではなく、うつ状態にあったり強いストレスを感じ続けているにしても、現在も合理的な判断能力を有していると思う。
未来に希望を見出さない彼にとって、犯罪を行うことのデメリットが何一つ無くなってしまっただけのことで。
10年以上、私は彼と連絡を取っていなかった。ただただ疎遠になっていた。責任は無い、責任は無いと信じたいが、おそらく彼を無敵の人にしてしまった原因のほんの一部は私にある。