「よくもそんなマネができるわね(How dare you!)」
[ロンドン発]地球温暖化対策の加速を訴えて金曜日の学校ストを始め、現在、北米経由で国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)が開かれるチリを目指して旅を続けるスウェーデンの16歳、グレタ・トゥーンベリさん。
今年のノーベル平和賞受賞はなりませんでした。グレタさんの影響力を恐れて、米国やロシアなどエネルギー資源国の首脳や中年男性、右派メディアを中心に「グレタ・バッシング(叩き)」が止まりません。一部の極右政党を除いて「環境の欧州」ではグレタさんはヒロインです。
しかしグレタさんが今年9月、米ニューヨークの国連気候行動サミットで「あなた方、大人は私の夢や子供時代を虚ろな言葉で奪ってきた。人類は苦しんでいる。人類は死につつある。すべての生態系が壊れていく」と演説してから、一気にグレタ叩きがエスカレートしました。
グレタさんは「私たちは大量絶滅の入り口にいるというのに、どうしておカネや永遠の経済成長というおとぎ話を語ることができるの。よくもまあそんなマネができるわね(How dare you!)」と大人に向かって子供の怒りを率直にぶつけました。
嫌悪主義者の格好のターゲットになったグレタさん
全米310万人の購読者を誇る米紙USAトゥデーは「ネット上の嫌悪主義者はグレタを謀略説と偽の写真で攻撃している」と伝えました。同紙の報道を見てみましょう。
「グレタさんは精神の病でも、イスラム国テロリストグループの支持者でも、投資家ジョージ・ソロス氏の孫娘でもありません。父親はドイツで同性愛者のボーイフレンドと暮らしておらず、母親は中絶をティーンエイジャーに教える悪魔的なレズビアンでもありません」
「人間が地球温暖化の原因である可能性は99.9999%です」「彼女に対する攻撃は気候科学に関する事実を避け、代わりに彼女や家族に向けられます」「ネット上では彼女はオーストラリアの女の子役が演じる架空のキャラクターだという謀略説が流布されています」
「スウェーデンの極右政治家は『グレタはPR会社の操り人形だ』と発言しました」「(右派の全米ネットTV放送局)FOXニュースのゲストは彼女を『精神疾患』と呼びましたが、彼女はアスペルガー症候群と診断されたことをオープンにしています」
「保守派のコメンテーターはグレタさんをナチスのプロパガンダと比較して、1930~40年代にドイツの宣伝でも『三つ編みと赤いチェックの北欧の白人少女』が頻繁に使用されたと述べました」
気候変動など高度に政治化された問題ではネット上の嫌がらせを使うのは常套手段。自律型プログラムを利用し実際の人になりすましてメッセージを増幅させ、歪んだ草の根コンセンサスを作り出します。温暖化対策を訴える学者や活動家はこれまでも偽ニュース攻撃の対象にされてきました。
若い女性であればあるほど、ネット上で標的にされる危険性は高く、ポルノの合成写真を捏造されたり、死の脅迫を受けたりすることもあります。温暖化対策を訴える活動家であり若い女性であるという2つの条件を兼ね備えたグレタさんはネット上の嫌悪主義者の格好のターゲットというわけです。
どうして中年男性はグレタを嫌うのか
英紙フィナンシャル・タイムズのロバート・シュリムスリー論説主幹は「どうして中年男性はグレタさんを嫌うのか」というコラムの中で「グレタさんは虐待ではなく感謝に値します」と指摘しています。
「グレタさんの注目に値する活動のせいで、特に右派に対して最悪の事態を引き起こしているようです」「こうした大人の何人かはグレタさんに対してほとんど病的な嫌悪感を示し始めています」「ある人は米国に向かう彼女のヨットが沈んでいると冗談を言いました」
ある人とは英国の欧州連合(EU)離脱キャンペーンに資金提供している英投資家です。
菜食主義者のグレタさんは小泉進次郎環境相のようにステーキを食らうのが大好きな大人たちに地球規模で罪の意識を抱かせています。「子供たちに叱られることを好む大人はいません」(シュリムスリー氏)。家庭で思春期の子供にグレタさんのように叱られた大人はどうすれば良いのでしょう。
シュリムスリー氏はこう書きます。「子供たちに『グレタさんのように』なるよう促して下さい。『グレタさんが世界を救っている間、お前は友達と電話ばかりしているね。彼女から学べるだろう』とね」。そうすればグレタ嫌いの人も彼女にポジティブになれるはずだ、と。
しかし、グレタ叩きの深層心理には16歳の小娘が何を生意気なことを言っているんだという性差別的な意識も働いているように感じます。