16年リオデジャネイロ五輪カヌー・スラローム男子カナディアンシングルで銅メダルに輝いた羽根田卓也(32)=ミキハウス=が、4大会連続の五輪に“王手”をかけている。18日から東京五輪日本代表最終選考会を兼ねたNHK杯が東京・江戸川区のカヌー・スラロームセンターで行われ、この大会を経て正式に代表に決まる見通し。今季は思うような結果が出ていないが、持ち前の「チキショー精神」で2大会連続のメダルを見据えている。(太田 倫)
話しぶりはあくまでマイルド。だが時折、羽根田の核にある激しい部分が顔をのぞかせる。4度目の五輪を目前にした心境を聞くと、こんな言葉が返ってきた。
「チキショーという感じですかね」
国際大会の成績をもとにした五輪選考レースでは、谷口和也(TEAM FLIP FLOP)、佐々木将汰(万六建設)をポイントで大きくリード。出場が義務づけられている最終選考のNHK杯のレースを無事に終えれば、晴れて正式に代表入りとなる。
「東京五輪に出ることは大きなステップだし、自分の夢の一つ。出て当たり前とは思っていない。内容をもって自分を戒めている」
9月の世界選手権では25位で準決勝敗退。意外なことに、17年の世界選手権以降はW杯でも決勝に進めていない。周囲の期待を背負い、令和を迎えるにあたって「応」という文字をテーマに掲げているからこそ「チキショー」という思いがにじみ出る。
「自分が思っている成績や内容、周りが期待して求めている結果とは違うと思う。自分の仕事ができていないから純粋に悔しい」
リオ五輪で日本カヌー界初のメダルを獲得してから、スピードの強化など進化を求めて試行錯誤してきた。ただ技術や肉体の変化に伴い、本来なら体の一部のように操れていたカヌーとの感覚にズレが生じてきた。座る位置や高さ、カヌー自体の形も変えてみたり、元に戻したり…。全てがフィットするポイントを探しながら、見つけられていない。「なんか毎回が不完全燃焼なんですよ」とつぶやく。
「一番はターンが重い。思った速さでカヌーが回らないからタイムのロスにつながる。重心にしても、カヌーの先端が浮いているのが理想だが、浮かせているつもりでも波に引っかかって突っ込んでしまったり。僕のキャリアの中でも、今は特にゲートセット(障害のセッティング)が一番難しい時代になった。一つのミスが予選や準決勝敗退につながる」
カヌーの極意を「水と会話すること」と言う。今、会話はできているのか?
「水の呼吸をダイレクトに感じ切れていない。息遣いを感じてもカヌーが邪魔してしまう。ただ、こんなにわずかのズレは今まであまり感じたことがない。もしかしたら自分が成長して、感覚が研ぎ澄まされた結果かもしれない」
そう決して悲観ばかりしているわけではない。高校卒業後にスロバキアに単身留学した時から、逆境には慣れっこ。周りの評価をことごとく覆してメダルを取ったという自負がある。そして、来年も銅以上のメダルを、という目標はブレていない。
「うまくいっていない、この逆境に気持ち良さを覚えている自分もいる。チキショー精神というか、やってやろうと思えている。今は周りがどう評価しているか、はっきり分かっている。ひっくり返さないといけない」
NHK杯には海外の有力選手も参戦予定。五輪会場での前哨戦で、勝って出場権を得るという思いを秘めている。
「日本に人工コースができて初の大会。皆さんが本当に楽しみに来てくださる。求めているものは一つだと思うから、そこに応えないといけない。やるべき仕事のみを考えてやっていきたい」
徐々に熱を帯びた口調で言い切った。
◆羽根田 卓也(はねだ・たくや)1987年7月17日、愛知県生まれ。32歳。小学3年でカヌーを始め、杜若高を卒業後、単身スロバキアに渡る。2009年にコメニウス体育大に進学し、同大学院を卒業。175センチ、70キロ。ミキハウス所属。
◆カヌー・スラロームの東京五輪への道 カナディアンシングルは男女ともに1人ずつを選ぶ。選考レースは今年6月のW杯第2、3戦、9月の世界選手権、NHK杯の4大会。まず各大会の成績をポイント化し、NHK杯以外の3戦のうち成績の良かった大会2つ+NHK杯のポイントで最上位の選手が代表となる。羽根田は現在49点、谷口と佐々木はともに4.4点。NHK杯で優勝しても最大30点のため、羽根田は事実上当確。アクシデントなくNHK杯で完走を果たせば東京五輪出場が決まる。
◆NHK杯
18日から20日まで、葛西臨海公園に隣接する江戸川区のカヌー・スラロームセンターで開催。日程は以下の通り(種目は全てシングル)。
▼18日=男子カナディアン予選、女子カヤック予選
▼19日=女子カナディアン予選、男子カヤック予選
▼20日=各種目の準決勝、決勝
大会はNHK BSで20日午後2時から放送。無料仮設席が設置されるが、抽選は既に終了している。