1. ホーム
  2. 社会
  3. 県議会が外国人学校の学費補助制度を可決 対象は学校から児童・生徒へ

県議会が外国人学校の学費補助制度を可決 対象は学校から児童・生徒へ

社会 神奈川新聞  2014年03月26日 15:00

外国人学校に通う児童・生徒に対する学費補助制度を新設する議案は全会一致で可決された=県議会
外国人学校に通う児童・生徒に対する学費補助制度を新設する議案は全会一致で可決された=県議会

県が新たに提案した県内外国人学校に通う児童・生徒に対する学費補助制度が25日、県議会で可決された。新制度は支援対象を学校から子どもに移行する形で、2013年度から学校への経常費補助が打ち切られていた朝鮮学校の児童・生徒も対象となる。新制度をめぐっては、黒岩祐治知事が「国際情勢に左右されずに教育の機会を確保する」との理念で打ち出したものの、県議会では「朝鮮学校における拉致問題教育」が議案可決の最大の焦点として扱われた。県が新制度を提案した背景や議論の経過を振り返る。

■異例の対応に

「反日的な教育をしている学校に補助金を出すべきではない」。朝鮮学校に対する補助金支出をめぐり、県や県議会は、こう問題視してきた経緯がある。

10年には、当時の松沢成文知事が「教育内容を確かめる必要がある」として支給を一時留保し、教科書の「日本当局は『拉致問題』を極大化し、(中略)日本社会には極端な民族排他主義的な雰囲気が作り出されていった」という表現を問題視。記述見直しを教科書編さん委員会に働き掛けるとした朝鮮学校側の回答を受け、支給を決定した。

この教育内容にまで踏み込んだ異例の「教科書問題」が、いまの議論の底流となっている。

その後、県は朝鮮学校での拉致問題についての授業内容を確認した上で補助金を支出。しかし、教科書の一部改訂で「拉致問題」の文言自体が抜け落ちたため、県議会は12年度当初予算を可決する際、(1)拉致問題に関する適正な授業の継続(2)13年度の教科書改訂における拉致問題の明確な記述-を学校側に要請するよう付帯意見を付けた。

ところが昨年2月、黒岩知事は北朝鮮の核実験を理由に朝鮮学校への経常費補助を凍結。その後も状況は変化せず、補助凍結の長期化による子どもたちへの影響が懸念されていた。

こうした状況の中で昨年12月、黒岩知事は子どもたちが政治・国際情勢に左右されず安定的に学ぶ機会を確保する新制度を創設する考えを表明。「一人一人の子どもたちに罪はない。この理念を形にしたい」との思いを語る一方、「一つの有力な案。よい知恵があれば生かしたい」とも述べ、議会と議論しながら制度設計を進める考えを示した。

そして、今定例会。最大会派の自民党は、新制度で支援対象を学校から児童・生徒に切り替える趣旨に理解を示す一方、「拉致問題への県民感情や被害家族の心情を尊重していくことが必要」とし、再び教科書改訂を焦点に据えた。

■学園から提案

定例会の直前、県議会の一部が学校側への不信感を募らすことが起きた。

朝鮮学校を運営する神奈川朝鮮学園は、全国の朝鮮学校で使っている「現代朝鮮歴史」の改訂が3年先送りされる、と県に報告。先送りは教科書編さん委の決定で、学園側の判断ではなかったが、13年度の改訂という前提が崩れた上、学園からの連絡が遅かったこともあり、県議会常任委員会では「不誠実な対応だ」との声が相次いだ。

これに対し同学園は、教科書改訂までの暫定措置として拉致問題を記述した独自教科書を作り授業で使用する考えを提示。従来の高級部(高校)に加え中級部(中学)でも実施することや、授業の積極的な公開も文書で示した。

また改訂延期について「学園へのご理解をいただいていた皆さま方の期待に添えず申し訳ありません」と陳謝。拉致問題については、あらためて「国家犯罪で、決してあってはならないこと」との見解を示し、理解を求めた。

■実効性を担保

県議会は学園の回答を「踏み込んだ内容」と受け止めたものの、改訂の約束を反故にされたことへの反発は根強かった。

常任委最終日の18日、自民党は独自教科書作成の確認を予算執行の条件にすべきと主張。知事がこれに同意する意向を確認した上で、(1)学園は教科書の早期改訂を編さん委に要請すること(2)県は独自教科書作成・使用を確認した上で補助金を執行する-との意見を付けて全会一致で議案を可決した。

また自民党は、「神奈川朝鮮学園における拉致問題に関する取り組みを鋭意注視する決議」案を常任委に提示。すべての会派が同意できるよう文案を調整して25日の本会議で全会一致となった決議は、「議会全体で(議会側の主張に同意した)知事の判断を後押しする」(ベテラン県議)狙いがあった。

■事実上の条件

議会からの提案は読み方によっては補助金執行の「条件」とも映るが、結果的に「条件という文言は一切使っていない」(ベテラン県議)。そのあいまいさこそが、新制度の理念を曲げず、朝鮮学校に厳しい視線を向ける議員からの賛同も得られるぎりぎりの妥協点を物語っていた。

しかし、知事は19日の会見で、「独自教科書の中身を見てから判断する。ある程度のボリューム感や、日本人が見て正面から拉致に向き合っていると思うかどうかも問われる」と説明。制度の趣旨を損ないかねない発言だった。

これに対し記者団からは「すでに国際・政治状況に左右されている」と、当初の説明との整合性を問う声が集中。質問攻めに遭った知事が「ではどうしたらいいと思いますか」と、感情をあらわにして逆質問する場面もあった。

県当局と議会全体が妥協点を探り、ぎりぎりの調整で可決に持っていった新制度だが、今後の予算執行に課題を残したともいえる。庁内や議会から「会見での知事の発言は、やや踏み込みすぎた」と、当初の理念が揺らいだことを悔やむ声も上がっている。

【神奈川新聞】


シェアする