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三菱地所はラグビーW杯期間中に来日する重要顧客へのアプローチを強化している(写真:鶴来雅宏/アフロ)

 予選プールが終わり、いよいよ強豪同士の戦いが始まるラグビーワールドカップ(W杯)。関連する企業の間では「もう1つの戦い」が繰り広げられている。狙いが、9月に前年同月比で5%増えた訪日客による需要だ。W杯の試合を観戦するファンは全国各地を訪れており、経済効果も波及している。W杯を堂々と告知できるスポンサー企業では、「特需」で終わらせないための取り組みが進んでいる。

 「超近代的。世界のチャンピオンだ」。W杯開幕後、フランスのメディアがこう紹介したのが日本のトイレだ。今大会ではTOTOがスポンサーとなっている。TOTOは12会場のうち大会前に改装した9会場(既存も含めると10会場)のほか、成田空港にもトイレを設置。賞賛の的となっているのは、最新鋭の「ウォシュレット」だ。

 ビール業界では「ハイネケン」が突っ走っている。ハイネケンは1995年からラグビーW杯のスポンサーを担っており、試合会場やファンゾーンで独占的に提供できる。日本での9月の出荷量は前年の3.4倍。日本のビール需要が右肩下がりとなる中、異常ともいえる状況だ。

 実は効果が大きいのが、飲食店での取り扱いだという。訪日客へのアピールなどのためにハイネケンのW杯ポスターを貼りたい店舗が増えているからだ。一度取り引きが始まれば、その後のアプローチはしやすくなる。30年以上前からハイネケンを取り扱うキリンビールの関係者は「W杯万々歳だ」と相好を崩す。

 長らく国際オリンピック委員会(IOC)のスポンサーを務める高級時計のオメガの元首脳はかつて「五輪の効果は大会中だけではなく、その後の広がりも大きい」と語っていた。世界から来たファンやメディアが伝える「お土産話」が広がり、そこに登場する企業名も伝播していくからだ。

 ラグビーは英国で生まれ、オックスフォード大学とケンブリッジ大学の定期戦を伝統の一戦としてきた。そうしたルーツもあって上流階級のスポーツとしての歴史を持ち、愛好者には高所得者層が多いとされる。その世界大会であるW杯では、VIPの来訪が期待できる。ここに照準を絞って、大会の1年以上前から準備を重ねていた会社がある。東京駅周辺に多くの不動産を持つ三菱地所だ。

 2018年4月にW杯のスポンサー契約を結んだ三菱地所はすぐさま、大会期間中、英国などから日本に重要顧客を招くプロジェクトを始動させた。狙いの1つが「VVIP(Very Very Important Person)」の開拓。W杯への招待を名目に、普段は日本まで足を伸ばすことのない人物へのアプローチを続けてきた。

 選手の消耗が激しいラグビーでは、試合間隔が最低でも3日は空く。来日客は必然的に、余裕を持った滞在になる。この「空き時間」を活用して、日本と東京を紹介させてもらうというのが三菱地所の戦略だ。「日本を気に入ってもらい、最終的には丸の内にオフィスを構えてくれるようであれば理想的だ」と関係者は語る。

 日本では20年に東京五輪・パラリンピックが控えている。出場する国・地域はラグビーW杯の20に対し、五輪は200以上。初めて日本に来る人も多いとみられ、「にわかファン」を大量に増やすチャンスだ。五輪ではスポンサー企業以外による便乗商法へのチェックは厳しいが、来日客には工夫次第でアクセスできる。ラグビーW杯での「実験」には多くのヒントがある。

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