パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第21話 スカウト

 フォーサイトの4人は治癒魔法により傷が癒えたとはいえ、さすがに武王と戦った後で疲労困憊であり皇帝による呼び出しは翌日にしてもらうことにした。

 拒否されるかと思ったが帝国四騎士であるニンブルには「全快してたほうが丁度いいかも」との意味深な言葉とともにそれを許可される。

 宿屋に戻ると泥のように眠りしっかりと疲労を回復に努め、そして今、目の前にそびえる帝城の前へと出向いて来ていた。

 

「ここに俺らが入って……いいんだよな?」

「ま、まぁ呼ばれてるんだからいいんじゃない?」

 

 さすがに帝城に入ったことなどないし、入る機会など永遠にないと思っていたため緊張が走る。この国の皇帝は鮮血帝の異名を持ち、無能と判断する人物は容赦なく切り捨てるのとの噂を耳にする。

 

「しかし何の用なんでしょうね……」

「もしかして……スカウト?」

 

 アルシェの言葉に4人は顔を見合わせる。あの武王と途中までとは言え互角以上の試合をしたのだ。騎士としてスカウトされる可能性は十分あるだろう。そうなれば安定した高収入が約束されるのであるが……。

 

「もしそうだったら残念だな」

 

 ヘッケランの言葉に3人は頷く。彼らが冒険者にもならずにワーカーという仕事をしているのは金のためというのもあるが、それよりも束縛されるのを嫌うからという理由のほうが強い。

 特に信仰系法詠唱者のロバーデイクは治癒魔法の使用が教会により制限されるのが嫌で自由なワーカーという仕事に就いている。

 帝国に仕えることになってしまえば自由に困っている人を癒すことは出来なくなってしまうからだ。

 そんな思いを内に秘めつつ4人は恐る恐る門番へ要件を告げと、しばらくしてニンブルが現れた。

 

「皆さんお待ちしていました。では、こちらへどうぞ」

 

 ニンブルに案内されるがまま城門をくぐる。武器を持ったままでいいのだろうかと門番を振り返るが何も言われる様子はなかった。

 そのままどこかの部屋に案内でもされると思っていたフォーサイトであるが、案内されたのは中庭に設けられた訓練場を思わせる広場であった。

 

「あの……ここは?」

「ああ、少々お待ちください。もう少しで来ますので……」

 

 ニンブルにそう言われて待っていると顎髭を生やした大柄の騎士が現れる。

 

「お、来たな?あんたらの試合の話は聞いたぜ。あの武王をあと一歩まで追い詰めたんだってな、俺も見たかったのになぁ……」

「あなたは別の任務があったでしょう。ああ、彼はバジウッド。彼も帝国四騎士の一人です」

「おめぇだって四騎士じゃねえか、ニンブル」

「あなたがやりたいって言うから私が案内役をしているんでしょう」

「ああ、そうだったな。はははは」

 

 何やら二人で話をしているが、ヘッケランには話が見えてこない。スカウトされるのでは思っていたのだがどうやら様子が違うようだ。

 

「あの……それで俺ら何で呼ばれたんです?」

「彼、バジウッドがぜひ君たちと戦ってみたいと言ってね。一手お手合わせ願えないだろうか。報酬は支払いますので」

 

 そう言って手渡された袋の中身を見ると武王との戦いで得た金に匹敵するほどの白金貨が入っている。

 

「ど、どういうことですか」

「ヘッケラン……これ不味いんじゃ……」

 

 よく見ると入ってきた入口には騎士が複数名立っており逃げ道が無くなっている。

 

「安心してください。あなた方の力が知りたいだけなんですよ。大怪我をさせたりはしませんから……たぶん」

「たぶん……?」

 

 大怪我する可能性もあると言うことなのだろう。嫌な予感がするが逃げ道はない。

 

「なんだかな……やるしかねえか!」

 

 ヘッケランが仲間たちを見ると頷いている。『嵌められた』、そう思ってはいるがここで逆らっても良いことはないだろう。

 ヘッケランが双剣を構えるのを見たバジウッドは嬉しそうに大剣を引き抜くのだった。

 

 

 

 

 

 

「ぐは!」

 

 ヘッケランはバジウッドの大剣を受けきれず吹き飛ばされていた。それを戸惑ったようにバジウッドは首をひねっている。

 

「おいおい、どうした?俺は本気を出してほしいんだが……」

「はぁ……はぁ……いや、本気だしてますって!」

「はぁ?んなわけないだろ。あの武王とやりあってた時はそんなもんじゃなかったと聞いたぞ」

「あの時はたまたま調子がよかったんだ!」

「たまたまで武王をそこまで追い込めるかよ」

 

 バジウッドはヘッケランの実力に戸惑いを隠せない。少なくとも自分を越える実力を持っていると思い本気で打ち込んでみたがどう見てもそれほどの実力には思えなかった。

 本来であれば武王をあと一歩まで追い詰めるほどの実力を示したのであれば即座に帝国がスカウトするつもりであった。しかし観戦していたジルクニフにまずは四騎士で実力を試してみろと言われてこうして訓練場にいるというわけである。

 

「ニンブル。闘技場に出ていたのは本当にこいつらだったのか?」

「それは間違いありませんが……おかしいですね……あの時はもっと素早かったですし斬撃も鋭かった気がします」

 

 ニンブルとしても信じられない。確かに強いことは強い。少なくとも帝国の一般騎士、いや上位の騎士たちよりも実力は上だろう。しかし、武王相手にあれほど力を示した勇者たちと思うと今は見る影もない。

 そこでジルクニフに言われたことを思い出す。

 

「そういえば武王に最後に向かっていったあとに……違和感があったと言ってましたね。何か心当たりはありませんか?」

「心当たり?」

 

 言われてヘッケランはその時のことを思い出す。確かに武王を追い詰めたあと一気に形勢が逆転してしまった。あの時の感覚は鮮明に覚えている。

 

「あの時は急に力が抜けていくように感じたが……」

「力が抜けていく?えーと……調べたところあなた方はミスリル級に匹敵する程度の実力かと伺っていましたが実力を隠していたとか?武王に勝つ自信はあったのですか?」

「いや……全くなかった……今思えば力が抜けたというより……」

 

 あの時は調子がいいと思っていたが、よく考えてみると実力以上のものを出していたような気もする。

 

「むしろ力が抜けた後のほうが普段の俺だったのかもしれない……」

「では戦う前に急に強くなったと?試合前に何をしていましたか?誰かに会ったとか何か強力なアイテムをもらったとかありませんか?」

「アイテムなんて貰ってないが……何かあったか?闘技場に入る前に験担ぎをしたくらいだよな……?」

「験担ぎ?何をしたんですか?」

「試合前に同じ店で買った飯を食べるって言うだけなんだが……」

 

 ニンブルはヘッケランの言葉に頭をひねる。それは本当にただの験担ぎにしかないのではないか。食事をするだけで力が上がるとは思えない。

 それとも戦いの最中に食べた物のエネルギーを使い切ったとでもいうのだろうか。しかしヘッケランの次の言葉にニンブルは凍り付く。

 

「初めて食べる食べ物だったな。ハンバーガーセットって言ったか……。奇妙な料理で俺ら以外客はまったく寄り付いてなかった。そこで軍帽を被った変わったメイドから買った飯を食べることにしていたんだ……」

「今……何と?」

「いや、ハンバーガーセットって飯を……」

「いえ、そこではなく……そのメイドはどんな格好をしていたと……?帽子の色は?」

 

 ニンブルは皇帝から気を付けるように言われていたことを思い出していた。ラナー王女からけして敵に回してはいけないと忠告された人物の特徴を……。

 ヘッケランはあらためてその人物の特徴を告げる。

 

「だから……そのメイドは黒い軍帽を被っていたんだよ。店の名前は……BURGER(バーガー)ユリ。BURGER(バーガー)ユリだ」

 

 

 

 

 

 

 ニンブルはフォーサイトから聞いた情報をもとに帝都における中央広場に出向いていた。そこには多くの屋台が並び、人で賑わっている。

 しかし、その一角で明らかに客が入っていない店があった。BURGER(バーガー)ユリと書かれた看板の下には浮かない顔でメイドが佇んでいる。周りの店が行列が出来るほど繁盛している中でポツンと一つだけ客の一人もいない店舗。その様子はあまりにも惨めで寂しげであった。

 

(彼女か……確かに変わった軍帽を被っている……)

 

 黒髪の上に軍帽を被ったメイドは容姿だけで言えば非常に整った顔立ちをしており、眼鏡をした顔は優し気で親しみを与えるものである。しかし、残念ながらその売っている物は不気味としか言えない液体を含んでおり、誰も寄り付かないのに納得であった。

 

「あの……すみませんが……」

「はい!いらっしゃいませ!バーガ・ユリへようこそいらっしゃいました!お客さま!」

 

 ニンブルが売り子に話しかけると沈んでいた顔がパァっと明るく変わる。その様子がまるで美しい花が咲くようで魅入ってしまったニンブルであるが、気を取り直して話しかける。

 

「あの……この商品についてお聞きしたのですが……」

「はい!メニューはA5和牛のハンバーガーセットでございます!」

「ハンバーガーですか」

「はい。パンに肉や野菜などを挟んだものとお考え下さい。使わせはフライドポテトでございます」

「フライドポテト?」

「ジャガイモを揚げたものでございます。二種類のソースでお召し上がりください」

「ほぅ……それで……この液体は?」

 

 ニンブルは最後に一番気になっていたものを指さす。あのフォーサイトは非常に美味だったと言っていたがこの泡を吹く液体は怪しすぎる。

 

「こちらはコーラでございます。炭酸を含んだ甘い水とお考え下さい」

「炭酸?」

「えー何といえばいいのでしょうか。シュワシュワします」

「シュワシュワ?」

 

 要領を得ないが何となく意味は分かったような気がする。

 

「それでは1ついただけますか?」

「ありがとうございます!1銅貨でございます」

 

 手ごろな金額だ。ニンブルはカウンターに銅貨を1枚置く。

 

「お買い上げありがとうございました。制限時間は1時間、効果は最大HPの上昇に筋力、俊敏性、物理防御、魔法防御の上昇効果になります。それでは制限時間にはお気を付けください」

 

 ニンブルは売り子から丁寧な礼を返されるが、今言われた内容に頭が追い付かない。

 

(今……なんて言いました?筋力が……上昇する?)

 

「あ、あの……今の説明をもう一度……」

「あ、はい」

 

 売り子にもう一度説明してもらうも聞き間違いではないようだ。嘘や冗談を言っている雰囲気はないが、言ってることが正しいとも言い切れない。

 

(これは持ち帰って陛下に報告するしかありませんね……)

 

 ニンブルは商品を受け取ると広場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「それでこれがその商品というわけか」

 

 帝城の訓練場に集まったジルクニフ達前のテーブルにはニンブルが銅貨1枚で購入したと言う『A5和牛のハンバーガーセット』なるものが並べられていた。

 

「何と言うかまぁ……飲み物以外は食べられそうではあるな」

「そう……ですね……」

 

 返事をするニンブルの顔は青い。これまでの経験からジルクニフが何を言うか何となく予想がついている。すぐにでもこの場を離れたい欲求に駆られるがその前にジルクニフがその言葉を口にしていた。

 

「よし、ニンブル。せっかくだ。お前が食べて見ろ」

「はぁ!?こ、これをですか……」

「ははは、これはお前の金で買ったのだろう。お前が食べるのが当然ではないか」

 

 冗談のように言っているがジルクニフの性格からして断れるものではないだろうとニンブルは判断する。

 

「しかし、これで体力や筋力があがるねぇ……信じられねぇな」

 

 バジウッドがまじまじと食べ物を見つめている。気になるなら変わってくれと言いたいが、そうもできまいと覚悟を決めるとニンブルはハンバーガーを手に取りかぶりつく。

 

「むぐっ?こ、これは……」

 

 警戒していたが食べて見るとあまりのおいしさに手が止まらない。コーラという飲み物も売り子が言っていた通りシュワシュワしている。

 

(確かにこれはシュワシュワとして言いようがありませんね……)

 

 慣れるとそのシュワシュワした感覚が癖になってくる。

 やがてすべてを食べきったニンブルは小さくげっぷをすると満足そうに息を吐いた。

 

「これは……いいものですね……」

「てめぇ……旨そうに食いやがって……」

「あなたも一度試してみるといいですよ、バジウッド」

「いや、その前にその効果が本物かどうか知りたい。ニンブル、バジウッド、当初の予定どおり試合をしてもらうぞ」

 

 ジルクニフの言葉に二人は頷き、剣を引き抜くと対面する。

 

「ニンブル、お前とこうしてやり合うなんてここで初めて会った時以来か?」

「そういえばそういうこともありましたね。しかしこれは……何だか負ける気がしませんね。力があふれてきます」

「本当か?隙だらけだぜ!!行くぞ!」

 

 バジウッドはその漲る力ゆえに警戒心の薄まったニンブルの隙をついていきなり斬りかかる。しかし、本当に警戒心がないのかニンブルは動かなかった。

 そのあまりの無防備さに本当にそのまま斬ってしまうかバジウッドが躊躇ったその時、ニンブルの姿は消えていた。

 

「バジウッド……何をしてるんですか?そんなゆっくり動いて……」

「なに!?」

 

 いつの間にかバジウッドはニンブルに背後を取られている。まるで動きが見えなかった。

 

「ど、どういうことだ!?いつの間に後ろに回り込んだ!?」

「その態度は……本当に気づかなかったんですか?私にはあなたがゆっくり動いているように見えるのですが……手を抜いてるのでは?」

「ああ!?ふざけんな!誰が手を抜いたりするかよ!おらぁ!」

 

 バジウッドは斬撃をフェイント入れ、ニンブルのみぞおちに蹴りを入れるがそれをあっさりと体で受け止める。全く効いている様子がない。

 

「本気……のようですね……あまり効きませんよ……では次はこちらから!」

 

 逆にニンブルが鎧を蹴りつけるとハンマーででも殴られたように陥没してバジウッドは白の壁を突き破り突き刺さる。

 

「おい、ニンブルそこまでやれとは言ってないぞ?」

「いえ、陛下……私もここまでやるつもりは……バジウッド……?ねえ……ちょっと……返事してくださいよ……バジウッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 

 

 

 

 

 

 帝城の訓練場。そこで戦う四騎士たち。その場に呼ばれなかった一人の老人が窓からそれを覗いていた。真っ白な髪のその老人は長いひげを撫でながら呟く。

 

「あれほどの能力の向上……ポーションかの?それにしても凄まじい。どれほどの魔力を注げばあれほどの効果が出せる?第4位階?いや第6位階以上か?ふふふっ……魔法の深淵がまさかそこに……?ふはははははは、これはこれは見逃せませんなぁ……」


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