ご訪問ありがとうございます。
乳癌治療の国際的なコンセンサス会議は
2年に一度ザンクトガレンで開催されて
いることを以前も書いたかと思います。
私の主治医は、術前化学療法を強く推奨
することと、その化学療法の内容の根拠
として、「ザンクトガレンのコンセンサス
に基づいて」とも明言していました。
(その時は、ザンクトガレンコンセンサス
会議など知りませんでしたが、検索キー
ワードは教えていただけたということで ^^;)
乳癌治療は、勿論、個々人の癌に合わせて
治療を決めて治療をしてもらうのだけど、
その時点の医学で判明している癌の特徴に
応じて、その時点で利用可能な治療法の
中から、治療法をどう選んで患者に適応
したらよいかについて、
患者を、癌の特徴に応じてグルーピング
したうえで、
判断基準や方針、ガイドラインを決めて
各国の乳癌専門の臨床医の先生方は、
その方針に沿って、個々の乳癌患者の
治療をしていて、
新薬の開発など、乳癌治療も刻々と
進歩しているので、
2年に一度、
各国の権威ある乳癌の専門医の先生方が
集まって、
そういった新しい研究・開発、臨床試験の
結果を議論し、
治療の方針、ガイドラインを見直し、
新たにコンセンサスを形成する
そういう会議のようです。
今年の3/20~23に開催され、
8/2に記事も出ていますので
だいぶ経ってしまいましたが
ご紹介、共有させていただきます。
Estimating the benefits of therapy for early-stage breast cancer: the St. Gallen International Consensus Guidelines for the primary therapy of early breast cancer 2019
■腋窩リンパ節郭清省略の可能性
・乳房切除後に腋窩領域への放射線治療が
が予定されている場合、
また、
腫瘍径5cm以上で乳房温存手術受け、
全乳房への放射線照射が予定されている
場合、
センチネルリンパ節転移1-2個であれば
腋窩リンパ節郭清の省略は可能。
■術前化学療法
●ステージ2−3,HER2 陽性、トリネガでは
術前薬物療法が推奨される。
ー 術前薬物療法により腋窩リンパ節郭清
省略可能例を増やせる。
ー HER2 陽性、トリネガでは、
術前薬物療法により、長期予後を期待
できる個別化医療が可能となる。
non-pCRへの術後化学療法の追加の流れ
●ER+陽性の術後補助療法
・多くの場合、全身化学療法は回避できる
だろう。
● HER2陽性、トリネガの術後補助療法
・ステージ2-3HER2陽性では
ハーセプチンにパージェタを追加すべき。
・術前薬物療法でpCRとならなかった
HER2陽性の場合、カドサイラの
術後補助療法を追加すべき。
・術前薬物療法でpCRとならなかった
トリネガの場合、術後にゼローダの
追加を考慮すべき。
●ER陽性閉経後乳がん症例では
bisphosphonate を標準的全身療法と
すべき。
■2017年からの臨床研究の進歩
● ER陽性 (進行/転移・再発)
・SOLAR-1 study
PIK3CA変異有のER陽性進行乳がんに
PI3K阻害薬 alpelisib が PFS改善
・Palbociclib(イブランス)、ribociclib、
abemaciclib(ベージニオ)などの
CDK4/6阻害剤が、ER陽性進行乳がんの
一次、二次治療でPFS改善
●ER陽性 (アジュバンド)
・アロマターゼ阻害剤による5年以上の
アジュバント療法は、わずかではあるが
有意な臨床的利益をもたらす一方で、
相応の不利益を伴う。
・TAILORx trial で、
21-gene recurrence score 11-25の
ER陽性/リンパ節転移陰性乳がん例では
ホルモン療法に化学療法を追加する
意義がないことが明らかに。
● HER2陽性 (進行/転移・再発)
・抗HER2抗体薬物複合体DS-8201は
高奏効率、その効果はHER2 1+ や2+例
でも認められる。
・NALA study HER2陽性進行再発乳がんで
lapatinib + capecitabine
(タイケルブ+ゼローダ) と比較して
neratinib + capecitabine がPFS改善
・KATE2 (randomized phase 2 study)
PD-L1発現HER2陽性進行乳がんで、
ハーセプチンに抗PD-L1抗体 atezolizumab
テセントリクを追加するとPFS改善
・PANACEA (Phase 2 study)
trastuzumab 耐性HER2陽性進行乳がんで
ハーセプチンに抗PD-1抗体 pembrolizumab
キイトルーダを追加すると抗腫瘍効果
● HER2陽性 (アジュバンド)
・KATHERINE study
ハーセプチン ベースの術前薬物療法で
pCRが得られなかった症例に対して、
術後 ハーセプチンに代わりカドサイラ
投与で、DFSとOS改善
・ShortHer trial 、 PERSEPHONE trial
術後ハーセプチン6ヶ月投与の成績は
ほぼ12ヶ月投与に相当するが同等でない
ハーセプチンは1年
・NSABP B-47 は、HER2 1+あるいは
2+でFISH陰性乳がんでは
術後ハーセプチンは予後を改善しない
・APHINITY trial
術後ハーセプチンにパージェタ追加で
再発リスクが低下、
特にリンパ節転移陽性例や高ステージ例
でその効果が顕著
● トリネガ (進行/転移・再発)
・Impassion130 trial
PD−L1陽性のトリネガ乳がんで、
抗PD-L1抗体 atezolizumab テセントリク
と nab-paclitaxel の併用がPFSを改善、
OSも改善する可能性。
・IMMU132
抗Trop-2抗体とイリノテカンの活性代謝
産物SN-38を結合させた、抗LIV1 抗体と
微小管重合阻害剤 monomethyl auristatin E
を結合させたSGNLIV1は、
治療抵抗性進行トリネガ乳がんで
高奏効率。
●トリネガ (アジュバンド)
・CREATE-X study
術前化学療法でpCRしなかったトリネガ
乳がんへの、術後ゼローダの追加で
DFSが改善。
・メタ解析で dose-dense 化学療法は
再発を減らし、OSが改善。
・トリネガ乳がんの術前薬物療法に、
抗PD-L1抗体 durvalumab または
抗PD-1抗体 pembrolizumab キイトルーダ
を追加することで pCR 率が向上。
● アジュバンドのレジメン
・Docetaxel / cyclophosphamide (TC) と
アンスラサイクリン・ベース・レジメン
の多数の無作為化比較試験から、
TCは、特にER陽性、HER2陰性、
低リスクトリネガ乳がんでは
アンスラサイクリン・ベース・レジメンの
代替となり得ることが示された。
・COX-2阻害剤のcelecoxibは乳がん再発を
減らさないことが、
無作為比較試験により示された。
・術後化学療法と術前化学療法に関する
メタ解析から、遠隔転移とOSに差はないが
術前化学療法で局所再発リスクが増加する
ことが示された。
● バイオマーカー
・Tumor infiltrating lymphocytes (TILs) は
術前後化学療法を受けたトリネガ乳癌で
予後因子であることが示された。
● 腋窩リンパ節郭清
・ACOSOG Z11 trial の長期解析により、
1-2個のセンチネルリンパ節転移陽性例では
腋窩リンパ節郭清は局所再発やOSを
改善しないことが示された。
●遺伝性乳癌
・BRCA変異陽性の進行乳がんで
PARP阻害剤 olaparib リムパーザおよび
talazoparib は、標準化学療法より
PFSを延長、QOLに優れることが示された。
・cfDNA によりBRCA1または2の遺伝子変異
が確認された場合、プラチナ製剤や
PARP阻害剤に耐性の可能性。
・現在の遺伝子検査アルゴリズムでは、
多くの遺伝子変異例を見逃す可能性。
・BRCA変異陽性乳がんに対する
PARP阻害剤 talazoparib 単剤による
術前治療は、一定の臨床的有用性を示す。
● 放射線療法
・ RAPID trial
低リスク乳がんに対して、
加速乳房部分照射法 accelerated partial
breast irradiation (APBI) の
乳房内再発コントロール成績は
全乳房照射と同等だが、
整容性に劣ることが示された。
・ER陽性/低リスク (recurrence score18未満)
の乳房部分切除例を対象とする乳房照射の
有効性を検討した試験のメタ解析により、
乳房照射省略は局所再発のリスク因子では
あるが、OSには影響しないことが
示された。
● 非浸潤癌DCIS
・DCISが外科切除によって浸潤性乳がんへ
アップステージされるリスクは
特にグレードに依存している。
低リスク集団でのアップステージ率は
5-20%。
● Supportive Care
・Oxybutinin (ポラキス) は乳がんサバイバー
のホットフラッシュを低減させる。
・Duloxetine (サインバルタ) はアロマターゼ
阻害剤関連の骨格筋/関節痛を低減させる。
・鍼治療はアロマターゼ阻害剤関連関節痛を
低減させる。
・体重減少を目的とした生活スタイルへの
介入は乳がん再発に影響しない。
・アジュバント化学療法、
特にアンスラサイクリンを含まない
レジメンで、頭皮冷却は脱毛を軽減させる
ことが前向き試験により示された。
■術前薬物療法後の腋窩制御
●治療前に画像上
腋窩リンパ節転移なしの場合
▼術前治療後に画像上
腋窩リンパ節転移なしの場合
・センチネルリンパ節生検で
リンパ節転移なしの場合
ー 腋窩リンパ節郭清や腋窩照射は不要
ー 領域リンパ節照射は不要
・センチネルリンパ節生検で
リンパ節転移ありの場合
ー 腋窩リンパ節郭清または腋窩照射
ー その他リスク因子があれば
領域リンパ節照射を検討
●治療前に画像上
腋窩リンパ節転移ありの場合
▼術前治療後に画像上
腋窩リンパ節転移なしの場合
・センチネルリンパ節生検で
リンパ節転移なしの場合
ー 腋窩照射を考慮
ー その他リスク因子があれば
領域リンパ節照射を検討
・センチネルリンパ節生検で
リンパ節転移ありの場合
ー 腋窩リンパ節郭清または
腋窩照射が必要
ー 領域リンパ節照射が必要
▼術前治療後に画像上
腋窩リンパ節転移ありの場合
・腋窩リンパ節郭清 で
リンパ節転移なしの場合
ー その他リスク因子があれば
領域リンパ節照射を検討
・腋窩リンパ節郭清 で
リンパ節転移ありの場合
ー 領域リンパ節照射が必要
※腋窩リンパ節郭清したら腋窩照射は
しない
■HER2陽性またはトリネガの治療
●ステージ 1
▼T1a
・HER2陽性:
タキサン+ハーセプチン (case by cace)
・TNBC:化学療法 (case by cace)
▼T1b
・HER2陽性:タキサン+ハーセプチン
・TNBC:TC
▼T1c
・HER2陽性:タキサン+ハーセプチン
・TNBC:AC + タキサン
●ステージ2~3 術前治療を推奨
▼HER2陽性
AC →
タキサン +ハーセプチン (± パージェタ)
または
タキサン+ ハーセプチン(± パージェタ)
※pN2ではNeratinibを追加。
ER陽性ではパージェタを追加しない。
▼TNBC:術前治療を推奨
AC → タキサン± プラチナ製剤
●術前薬物療法後に浸潤がん残存の場合
・HER2陽性:カドサイラを追加
・TNBC:ゼローダを追加
■ホルモン陽性、HER2陰性の治療
●ステージ 1
▼T1ab
・卵巣機能抑制治療:なし
・内分泌療法:アロマターゼ阻害剤 (AI)
またはタモキシフェン (TAM) を5年
・化学療法:なし
▼T1c
・卵巣機能抑制治療:なし
・内分泌療法:AIまたはTAMを5年
・化学療法:個別に判断
●ステージ2
▼リンパ節転移なし
・卵巣機能抑制治療:高リスク
(腫瘍径大、35歳以下、高グレード、
遺伝子検査で高リスク) では
卵巣機能抑制治療+AIまたはTAM
・内分泌療法:AIが望ましく、
5年以上の投与が望ましい
・化学療法:個別に判断
▼リンパ節転移陽性
・卵巣機能抑制治療 :
AIまたはTAMとの併用で実施
・内分泌療法:5年以上
・化学療法:個別に判断
●ステージ3
・卵巣機能抑制治療 :
AIまたはTAMとの併用で実施
・内分泌療法:5年以上
・化学療法:必要
*化学療法を個別に判断する場合は、
T因子、N因子、組織型、リンパ管侵襲、
グレード、増殖活性、
ホルモン受容体の定量評価、遺伝子検査、
患者の希望で個別に決定
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