菊地健志

多様な人が交わる「普通じゃない」魅力――全国から生徒呼ぶ「しまね留学」とは

10/18(金) 8:48 配信

地元以外から生徒を募集する公立高校が各地で増えている。その先駆けは島根県が推進する「しまね留学」だ。現在は島根県の22の高校で募集があり、今年は195人の県外生が「留学」している。この9年間で「留学生」は3.5倍になった。なぜ公立高校が全国から生徒を呼ぼうとするのか。留学している生徒の思いとは。現地の高校をルポした。(ライター・菊地高弘/写真・菊地健志/Yahoo!ニュース 特集編集部)

県外からの「留学生」を求める声

「どうですか、お話聞いていかれませんか?」
「ご質問があれば遠慮なく!」

そろいのTシャツを着た男女が、威勢よく声をかける。背後には、大きく高校名を記したのぼりが立っている。2019年6月、都内で開かれた「地方留学」の説明会、地域みらい留学フェスタでのひとコマだ。

声の主は、島根県をはじめとする全国54の公立高校の関係者たち。説明会は地元以外の高校への進学を検討する中学生とその保護者が対象だ。東京、大阪、名古屋、福岡の4カ所で開かれ、来場者数は2093人。前年よりも1000人近く増えた。

全国54校が参加した説明会は、東京会場(ベルサール渋谷ガーデン)だけで1122人の来場者数を記録した(撮影:編集部)

各高校は個別のブースで、来場者にアピールする。学校紹介のビデオを流したり、資料を投影してプレゼンしたり。学校職員だけでなく、留学中の生徒やその保護者が経験談を語る高校もある。

54校のうち、14校は島根県の高校だ。もともと2年前までは、島根県単体で都市圏での説明会を開催していた。

島根県立津和野高校のブース。教師、スタッフだけでなく「留学OB」の保護者も説明役ひと役買う(撮影:編集部)

島根県は「しまね留学」と銘打ち、県全体で県外生を積極的に受け入れている。

その始まりは、隠岐諸島の島根県海士(あま)町にある県立隠岐島前(どうぜん)高校。2008年に生徒数が89人まで減り廃校寸前に陥ったため、島前地域の3町村が学校改革に乗り出した。施策の柱が「県外生の募集」だった。

公立高校が全国から生徒を募集することは、各教育委員会の判断で可能になっている。島根県教委は、2003年度から各校4人程度まで県外中学出身者の入学を許可してきた。そこで海士町の関係者が県教委に枠の拡大を提案。県教委が同校の県外枠を撤廃した。

学校と地域の魅力向上に取り組んだ結果、隠岐島前高校の生徒数は増加に転じ、各学年1クラスだけだったのが2クラスになった。さらに地域に魅力を感じたIターンによる移住者も増加。島外からの視察や観光客も増えている。

県外生の募集が、ひいては地域を活性化させることにもつながる――。隠岐島前高校の成功で、島根県全体が「県外生徒」の募集に舵を切ることになった。県教委は2011年度に「しまね留学」として、予算化。各校の県外枠を順次撤廃し、現在では実施校が22校まで拡大している。

隠岐島前高校の生徒数は、2019年5月現在で157人。そのうち留学生は72人だ。

高校生の購買力も無視できない

しまね留学を熱心に進めている学校のひとつが、県立津和野高校。津和野町民から「ツコウ」の愛称で親しまれる、全校生徒182人の小規模校だ。県外からの入学者は東京、大阪など16都府県にまたがり、全校生徒の約3分の1にあたる53人が県外生となっている。

津和野は島根県西部、鹿足郡の山あいにあり、人口7300ほどの小さな町だ。旧津和野藩の城下町で今も武家屋敷が残り、その気品と自然が一体となった町並みが特徴で、「山陰の小京都」とも呼ばれる。

県内から津和野高校に進んだある寮生は「関西弁は口調がきついので、最初は怒っているのかと思った」と県外生とのやり取りでカルチャーショックを受けたという

毎朝、校舎の正面玄関前で生徒の登校を待ち受け、「おはよう」と声をかける校長の熊谷修山(おさま)さん(57)に、「しまね留学」導入の背景を尋ねた。

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