・IF設定が更に独自の進化を遂げた世界を舞台にお送りしております。
・キャラ崩壊注意です。
以上を踏まえた上でお読み下さい。
「素晴らしい……。この汚れた世界に、未だ強く花咲く紫陽花がこれほどに。」
「いえいえ!モモン様の気高き力強さに比べれば!粗末な花畑ですが……いえ、そう言えばモモン様に失礼ですね!仰る様に素敵な花畑です。」
一面色取り取りの紫陽花が咲き誇る花畑に2つの影。漆黒の鎧を纏い、赤いマントを靡かせた巨躯。そして赤いローブで小さな身体を覆い、顔を隠す仮面から可憐な金の長髪が見える少女。漆黒の英雄モモンと……言動がチグハグになっているイビルアイが立っていた。
戦場を疾駆する漆黒の鎧姿も美しいが、一面に花咲く大地で赤いマントを靡かせる英雄という姿も絵になる。いや、モモン様という存在は何処にいようとも、その魅力が色あせるなどありえない。イビルアイは胸の前で祈る様な仕草をしながらそんな考えを巡らせていた。……普段の彼女を知る者が見れば、呆然としてしまうような甘い声を挙げて。
……蒼の薔薇一同は魔導王から褒美を貰うという話が出たとき、どう断るかで頭を悩ませた。一国の王が冒険者の働きに下賜品を贈るというのは、受け取る側が断れるものではない。しかし、彼女たちはリ・エスティーゼ王国を拠点とする冒険者であり、王国は魔導王による大虐殺によって怨嗟に染まっている。
もし蒼の薔薇がアインズ・ウール・ゴウンから褒美を貰ったなどと知られれば、その呪詛は彼女達にまで向くだろう。剣が憎ければ鍛冶屋も憎いというやつだ。そのためラキュースは、モモンを通じて事情を説明し何とか褒美を取り消して貰えないかと相談した。
しかしモモンとしても、魔導国で起きたネイア・バラハ暗殺未遂事件で立派に戦ってくれた彼女達に、ただ報酬の金貨を渡すだけでは恥になると意見を持っていた。褒美を与えたいという魔導王、何らかの報酬を形にしたいというモモン、それらを断りたい蒼の薔薇。その折衷案となったのが――
「もし蒼の薔薇の皆様にわたくしがご協力出来る事があれば、半日だけですが何でも命じて下さい。これは魔導王陛下からも承諾を得ています。」
――という、【漆黒の英雄モモン半日貸出券】だった。〝何でも〟と聞いた際のイビルアイから発せられたオーラは時空を歪めかねないもので、背後から刺された気分のラキュースは、どっちの意味でも提案を断れなかった。
そして今回蒼の薔薇が着手したのは、山岳の僻地にある寒村へ出没した
今の王国には僻地の寒村にまで兵を回す力はなく、蒼の薔薇はこの依頼を引き受け。未知の脅威も存在することから、モモン様の力をお借りすることにした。
――道中に名所と言われる花畑があったり、美しい青の広がる洞窟の湖がある事は、蒼の薔薇側の秘密。
――それを知った上で、山岳の寒村に
「しかしこれほど色取り取りの花々を麗しの
「麗しぃ!フロイラ…?え、ええ!モモン様は流石お優しいです!」
未知の言葉が聞こえてきたが、そんなどうでも良いことよりも〝麗しい〟という一言がイビルアイの身体を赤色に、脳を桃色に染め上げる。
「わたしは閃光と紅蓮の花ばかりを咲かせ過ぎました。ならば今は一輪の花弁たりとも奪いたくはないのです。」
「モ、モモン様!そんな、あなた様の剣は常に正義のためにあるのです!」
「そう言って頂ければ助かります。……さて、この辺りに危険な存在はいないようですね。」
「ええ、次はあちらにある……湖の洞窟が怪しいです!」
「では、そちらへ参りましょう。」
2人は<
洞窟に足場はなく、深く透明な青い水面が広がる。魔法の灯りが照らされると、泳ぐ魚たちが見えるほどの透明度を持つ澄んだ湖だった。
「なんと幻想的な光景でしょう。名所にもなりえるでしょうに、船などは走っていないのですか?」
「余りに辺境すぎる上、オーガなどの生息区域でもあります。
「そうですか。宝石のようなマリンブルー、2人だけの思い出に出来ればどれほど幸運だったでしょう。……なんて、傲慢な考えですね。恥ずべき事です。」
(2人だけの思い出!?え、この流れ!ま、まさか!こここっここ……こくは、ダメ!まだ心の準備が!)
心が動転しまくっているイビルアイはそのまま酔歩ならぬ酔飛をし、危うく洞窟の壁にぶつかりかけ……
「大丈夫ですか、イビルアイさん。狭い内部、水面に反射する光、洞窟は平衡感覚を失いがちですので、お気を付けて。」
イビルアイはそのままモモンの腕に抱かれる。言葉が出ない、感謝しなければと思うのだが、頭が忙しくそれどころではない。何とか絞り出すように、恍惚とした甘い音色が響く。
「はひ、ありがとう、ございます。」
モモンはそのままイビルアイを腕に抱きながら、洞窟を飛ぶ。脳内で〝モモン様に恥ずかしい姿を見せるな!〟というイビルアイと、〝このまま欲望に流されてしまいなさい〟というイビルアイが脳内で争い合い……。厳しく威厳あるイビルアイは桃色の軍勢に蹂躙された。
「気にすることはありません。今この場にはわたしと魚たちしかいないのですから。有事の際にイビルアイさんのお力を借りられるよう、お手伝いをさせてください。」
当然、気を遣った言葉だとは解る。イビルアイからすればそんな気遣いさえも嬉しく、天に昇るような言葉であった。
(ああ、強さだけではなく、お優しさまで持ち合わせているなんて、底知れぬ御方。)
こうしてイビルアイの人生で最も幸せな日々が過ぎていく。……蒼の薔薇の面々に話せば〝ついに妄想するまでに頭が壊れた〟と憐憫の目を向けられ怒り狂うのだが、それは余計な話。
ついでにパンドラズ・アクターより報告を受けたアインズが、本気で寝室で枕を抱え奇声を挙げながら転がり回るはめになることは、もっと余計なお話。