パンドラズ・アクターの冒険   作:kirishima13

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第20話 制限時間(タイムリミット)

 帝都に到着したパンドラズ・アクターが次に変身したのは戦闘メイド、プレアデスの長女ユリ・アルファであった。

 それには理由がある。アイテムボックス内の魔物の肉が有り余って容量を圧迫してきたのだ。王国で武具を作るために冒険者ナーベとして魔物を狩りまくった結果でもある。そのため1レベルではあるがコックの食料レベルを持っているという理由で選択した。

 ルプー魔道具店についてはツアレ達メイドに任せ、ロフーレ協会のコネを使い広場のいい場所に屋台を出したのはいいのだが……一向に売れる気配がなかった。

 

(なぜ売れないんでしょうか……至高の存在が作った料理だと言うのに……)

 

 この世界の料理に比べて負けているとは思えない。むしろこれほどの品質のものは見たことがないくらいだ。

 

(飲食による効果も問題ないと思うのですが……)

 

 このハンバーガーセットを飲食した場合の効果は最大HPアップや筋力増強等多くの効果を含んでおり問題なく作用するはずである。

 

(食材が問題だったんでしょうかね……)

 

 人間は魔物の肉など食べないと聞く。しかし、このハンバーガーは料理スキルにより作成したもの。材料がどうであれ出来上がるものは完全に同じはず。魔物の肉から作ろうが和牛ハンバーガーと言ったら和牛ハンバーガーなのだ。《道具上位鑑定》でも確認したので間違いない。

 

(おかしいですね……)

 

 魔物の肉が有り余っていたため大量に作成したハンバーガーセットはアイテムボックスに山ほど保管されている。

 しかし開店以来、来た客と言えば冒険者風の4人の男女くらいのもの。一応はリピーターになってくれたらしく本日も買っていってもらえたがそれ以外にはまったく売れる気配がない。

 まさかコーラのせいだとは思っていないため、ユリは考え方を変えることにする。

 

(そもそもこのハンバーガーセットは私にしか作れないわけですし、飲食店として知名度を上げるには他の従業員にも作れるものを用意したほうがいいのでは……もう少し質を落とし汎用的な品を……)

 

 もしかしたら現地の材料を使用して現地の料理人が作ったものほうが売れるかもしれない。ユグドラシル由来のレシピには現地でも受けそうなものもあるため、それを現地の材料で作成して売り出すのも良いかもしれない。しかし、そこには問題があった。

 

(あとはこの地の食材の質が悪すぎることですか……)

 

 はっきり言って帝国で手に入れた食材は野菜は痩せ細っており、肉類も消して質が良いものではなかった。逆に王国で手に入れた食材は瑞々しいものが多かったように思える。

 これは各国が王国へ攻め入ろうとしている理由の一つでもあった。

 王国は肥沃な大地を持ち、その恩恵を十分に受け豊かな生活を出来る土壌を持っている。しかし、それ故にその恩恵に依存し政治は腐敗してしまったため国力を落としているが本来は豊かな土地を生かし人口も増え、近隣一の大国家になっていたもおかしくないほどなのだ。

 

(やはり……土が違うからでしょうね……であるなら……そこから始めなければいけませんか……)

 

 料理スキルを使えば粗末な素材からでも料理を作成は可能であるが、それでは商売としての手は広がらず知名度も上がらない。ひいては創造主たるモモンガの手がかりを手に入れる足掛かりを失うことにもなりかねない。

 

(まぁ、その前にこのハンバーガーセットの在庫をさばかないとですね……)

 

「売れないですね……」

 

 今日も寄り付いてこない街の住人達を見つめながらユリはため息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

 本日は大イベント、チャンピオンである武王と挑戦者の試合があるということで街は大いに賑わっていた。

 闘技場周辺には集まってくる客を目当てに出店が集まり、中に入れなかった客たちはせめて声だけでもと周囲にたむろしている。

 当然闘技場の中は満員御礼。貴賓席には有名な貴族たちに加えてこの国の皇帝まで観覧に来ていると言う話である。

 そんな闘技場の控室の一室でフォーサイトはハンバーガーに噛り付いていた。

 

「くぅー、うめぇー!最高だなこれは」

「また買ってきたのヘッケラン。最近こればっかじゃない」

 

 イミーナの言葉にヘッケランはニヤリと笑う。

 

「いいだろ。前回はうまいもんを食って元気が出たんだ。験担ぎだよ、験担ぎ」

「まぁいいけどさ。美味しいのは変わらないんだから」

 

 イミーナも幸せそうにパティから溢れ出す肉汁の旨味を噛みしめる。しかし、顔色が優れない人物が一人。

 

「みんな……今ならまだ間に合う。試合放棄をさせてもらうこともできる。だから……」

「あー、まだ言ってんのかね、この娘は。アルシェ、言っただろ。俺たちはこの試合に勝って生き残る!絶対だ!」

「そんなの……相手は武王。負けたらきっと殺される……」

 

 武王の試合を見たことはないが噂では聞いている。そもそも武王とは人間であるとは限らない。この闘技場のトップに立てば人間だろうと亜人だろうそれこそ魔獣だろうと武王と呼ばれるのだ。

 そして現在の武王はトロールという亜人である。その肉体能力は人間を遥かに凌ぎ、何より恐ろしいのはその再生能力だ。多少の手傷を与えたところで何事もないように回復してしまう。今までフォーサイトが戦ってきた相手とは別次元の強さを持っているのは間違いない。

 

「アルシェ。今やめたら違約金でこれまで闘技場で稼いだお金がパーになるのよ?私たちを破産させる気?」

 

 イミーナは冗談のように笑ってアルシェを安心させる。

 

「でもこれは私の借金の……」

「それは関係ないと言ってるでしょう?大丈夫です。神はあなたの正しい行動を見ておられますよ」

 

 ロバーデイクの優しい言葉にアルシェは涙ぐむ。本当にいい仲間だ。この仲間たちならばきっと生き残ることもできるだろう。そうであってほしいと祈る。

 

「さぁ!美味いもんも食ったし!行くぜ!」

 

 リーダーのロバーデイクの言葉にフォーサイトは気合を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 闘技場で観戦している観客たちは興奮の渦に飲まれていた。

 武王と挑戦者の決闘。その戦いは壮絶を極めていた。

 そしてその興奮の理由は挑戦者たちのその連携と武王を凌ぐともいえる強さだ。

 神官が仲間たちを強化魔法や回復魔法で補助しつつ、双剣の剣士が武王の棍棒による恐ろしい攻撃を巧みに捌きつつその体を切り刻んでいく。

 あわややられるかと言う攻撃もレンジャーの弓と魔法詠唱者の魔法による援護に阻まれ決定打にはなりえない。

 

「ふっ……ふはははは。強い!強いな!」

 

 興奮しているのは武王ゴ・ギンも同じである。初めて出会う自分を倒すかもしれないほどの強者たち。初めて見たときは自分に匹敵するとは思えなかったが戦ってみればその強さをひしひしと感じる。

 斬りつけられた傷が治る前にさらに深く斬りつけてくる斬撃は脅威であるし、援護してくる仲間たちとの連携も申し分がない。

 武王の攻撃も時には当たるのであるが、武技《要塞》などを駆使した防御により致命傷までには至らず信仰系魔法詠唱者により回復されてしまう。

 

「この俺が……負ける?いや、そんなわけはない!この俺こそ最強の武王だ!」

 

 武王は兜を含む鎧を投げ捨てると気合を入れる。手数の多いこの相手には鎧は重さとしてのハンデになる。

 一方、フォーサイトの面々も手ごたえを感じていた。

 

「行ける!行けるぞ!やつは鎧を脱いだ!一気に決めてやる!」

 

 ヘッケランは覚悟を決めると取っておきの武技を発動する。

 

「<限界突破>!<痛覚鈍化>!<剛腕剛撃>!」<肉体向上>!」

 

 複数の武技の同時発動により肉体が悲鳴を上げる。特に<限界突破>の武技はその代償として攻撃後かなりのデメリットを生じるためここで決めなければ敗北する可能性が高い。しかし、自動回復能力を持つ武王を仕留めるにはここしかないということは歴戦の感が叫んでいる。

 

「《武器魔法化(マジック・ウェポン)》、《下級筋力増大(レッサー・ストレングス)》、《下級敏捷力増大(レッサー・デクスタリティ)》」

「サンキュー!ロバーデイク!」

 

 ロバーデイクが絶妙のタイミングで強化魔法をかけてくれる。本当にいいチームだ。チームメンバーに恵まれたことを感謝しつつロバーデイクは棍棒を構える武王へと颯爽と駆ける。

 対する武王も武器を構えながら迎撃の体制を整えている。そして先に仕掛けたのは武王であった。

 

「<流水加速><剛撃><神技一閃>!」

 

 武王の持つ棍棒の速度が格段に上がり、恐ろしい威力でヘッケランの体を襲う。しかし、持ち前の身軽さと現在の漲る肉体能力はそれを紙一重で避けることに成功した。

 そのまま相手の武器の内側へと身を乗り入れヘッケランは全力の斬撃を武王の首へと叩きこむ。

 

「おおおおおおおおお!<双剣斬撃>!!」

 

 一撃目、二撃目と刃が武王の首を深く深く切裂いていくのを感じる。三撃目、四撃目。武王の首が半分以上切裂かれ血を噴出している。

 

(……勝った!)

 

 このまま首を斬り飛ばさせる。そう思った刹那……。ヘッケランの体から急激に力が抜けてしまう。

 

(な……なんだ……)

 

 先ほどまで漲っていた力が失われていく。それでも何とか剣を振り続けるが武王の首はあと少しというところで斬り飛ばせない。

 そして武技の発動が終わった瞬間、ヘッケランは腹部に衝撃を感じたと思った刹那に吹き飛ばされていた。

 

「ぐっ……」

 

 そのあまりの威力に内臓をやられたらしく口から血を吐き出す。

 

「ヘッケラン!!」

 

 仲間たちが心配して声をかけてくる。しかし、ヘッケランはその声よりも目の前の光景に絶望してしまう。

 

「見事だ……見事な攻撃だった……お前たちは俺の前に立つに相応しい……お前たちと戦えたことに感謝しよう」

 

 目の前で斬り飛ばされる寸前であった武王の首の傷が見る見るうちに治っていく。

 

「なっ……力が……」

「これは……どういうことなの?」

 

 アルシェとイミーナも異変を感じていた。まるで体が一回り小さくなったように今までの力が出せない。

 

「さて……恐るべき挑戦者たちよ……次は俺の力を見せてやろう」

 

 まるで今までより一回り大きくなったように力を感じる圧倒的な強者。武王の前にフォーサイトはこの試合で決して引かなかった足を一歩引いてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 闘技場の控室。そこにフォーサイトはいた。いや、フォーサイトだったものと言ったほうがいいだろう。その顔はどこが目なのか鼻なのか分からないほど腫れあがり、手足についてはもはや使い物にならないだろうほどグチャグチャになっている。

 そう、彼らは敗北したのだ。勝利まであと一歩までいったフォーサイトであったがその後に起こったのは強者による弱者の蹂躙でしかなかった。彼らを血塗れにした後、武王は殺すにも値しないとばかりに肩を怒らせ闘技場を後にした。

 

「イ……イミーナ……生きてる……か?」

「……」

 

 返事は出来ないようだがわずかに息をしているだろうことを感じる。もうしばらくすれば闘技場に詰めている信仰系魔法詠唱者が来てくれるはずだ。かなりの治療費を取られるだろうが仕方がない。命があっただけでも儲けものだ。

 しかしノックもなしに控室に入ってきたのは望んでいた人物ではなく黒い鎧を来た騎士であった。

 

「ここです」

「そうですか。ああ、これは酷い……。早く治癒魔法を……」

「はっ!」

 

 突然入ってきた闖入者は驚いたことに金を払ってもいないのに治癒魔法を行使する。

 この国では教会により治癒魔法の行使には代価を求めなければならないと厳しく取り締まられているはずというのにどういうことなのだろうか。

 不思議に思っている間に治癒は終わったようで全快とはいかないが何とか体が動かせるほどには回復した。

 

「何だか分からないが……金を払ったほうがいいのか?」

 

 まずは金の心配をするヘッケランの問いかけに目の前の騎士は笑い出す。

 

「ははっ、ワーカーらしい質問ですね。そんな必要はありませんよ」

「だけど金をとらなかったら教会が黙ってないだろう?」

「その程度どうとでもなります。それよりももし治癒が間に合わなくて死んでしまったりしていたら私が罰を受けてしまいますよ」

「はぁ?なんだそりゃ……」

 

 教会の権力を物ともせずに治癒魔法を行使する。そんなことが出来る人物がいるのだろうか。

 

「っていかあんた誰だ?」

 

 よく見ると目の前の男はひとかどならぬ人物ではないかと思わせるものがある。

 金髪に深い海を思わせる青瞳という端正な容姿、唇は引き締まり強い意志を感じさせており、騎士はかくあるべしという凛々しいな表情をしている。おそらくは貴族、それも相当の地位にいる人物だろう。

 

「ああ、これは申し遅れました。私はニンブル・アーク・デイル・アノック。帝国四騎士を務めさせていただいております。さて、実は皇帝陛下が皆さまをお呼びなのですがご同行いただけますでしょうか?」


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