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【暮らし】<障害者のきょうだいたち 広がる支え合いの場> (下)結婚、介護、その先のこと
英語で兄弟姉妹を意味する「sibling(シブリング)」に由来するインターネットの交流サイト「Sibkoto(シブコト)」。障害のある兄弟姉妹を持つ「きょうだい」が集い、悩みや家族への思いなど互いの「コト」を、自分の「コトバ」で語り合う。二〇一八年四月に開設され、現在、会員は八百人を超える。年齢も十~七十代と幅広い。 今年四月、名古屋市で交流会「きょうだい会@Nagoya」をスタートさせた戸谷知弘(かずひろ)さん(34)は、ここで仲間を募った。二カ月に一度開く会に訪れる人は徐々に増え、サイトの影響力を実感している。「『話したい』と願う人がこんなにいるのかと知るきっかけになった」と話す。 シブコトを運営するのは障害者の支援活動などを通じて知り合ったきょうだい五人。その一人、東京を拠点に活動する弁護士藤木和子さん(36)には、聴覚障害のある弟(34)がいる。ずっと悩んでいた。「結婚したくなった時、弟のことをどう話せばいいのか。相手が負担を感じないか。そもそも自分は結婚できるのか」 家族に障害者がいない友人らに相談しても、悩みの深さは伝わらない。一人もんもんとしていた八年前、「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)」(東京)の集いに足を運んだ。一九六三年に設立された同会は、日本でいち早くきょうだい支援の重要性を訴えた団体だ。 そこにいたのは、世代も、兄弟姉妹の障害もばらばらな二十人ほど。自分と同じような境遇で育った人ばかりだからだろうか、「まるで親類のように感じた」。相談してみると、参加者の中には結婚している人もいれば、子どもがいる人もいた。気持ちが晴れた。その後も「人生の先を行く」彼らと交流を続けながら、二〇一五年、同い年の夫と結婚した。弟のことは初対面の時に話した。 兄弟姉妹の障害が原因でいじめられることもある子ども時代、交際や結婚について迷う若いころ、親と兄弟姉妹を同時に介護する必要が出てくる中年期、親亡き後…。悩みは年代ごとに違う。シブコト運営者の一人で、「ケアラーアクションネットワーク」(東京)代表の持田恭子さん(53)は〇四年から十四年間、昨年亡くなった母とダウン症の兄(55)を同時に介護した。その時感じたのが、時間を選ばずに相談ができる場の必要性だった。 持田さんは「きょうだいに必要なのは情報。私たちは情報難民」と言う。障害者が使える公的な福祉サービスはいくつもある。しかし「迷惑をかけたくない」と、きょうだいには詳しく伝えない親が多い。国際障害者年記念ナイスハート基金(東京)が〇七~〇八年、十八歳以上のきょうだい四百二十四人に実施したアンケートでは、親が面倒を見られなくなった場合について「親とよく話す」と答えた人は10%だった。 きょうだいへの支援はあまり議論されてこなかったため、何が大きな悩みなのかを示すデータは少ない。「自分の生きづらさが『きょうだい』であることに関係していると気付かずに苦しむ人もいる」と持田さんは指摘する。シブコトでは今後、一万人を目標に会員を集め、「結婚」「介護」などと検索すれば、それに関する体験談が読めるようにしたいという。 障害者もきょうだいも、より良い人生が送れるように-。顔を合わせる交流会であれ、ネット上であれ、経験を共有する試みへの期待は大きい。 (出口有紀) PR情報
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