JR東海のリニア中央新幹線建設は、東京(品川)-名古屋間の着工認可から五年。工事に課題は山積し、二〇二七年の開業がずれ込む可能性も指摘される。丁寧な説明で解決していくしかない。
時速五百キロで品川-大阪間を一時間七分、先行着工の品川-名古屋間を四十分で結ぶ巨大プロジェクト。名古屋までの二百八十六キロのうち、九キロの静岡県の工区が未着工で、最大課題になっている。
この工区は南アルプストンネル(全長二十五キロ)の一部。同県は、湧水が大量にトンネル内に流れ込み、上方で交差する大井川の流量が減って下流域の生活用水に大影響が出る、と主張する。
「湧水の全量を大井川に戻さねば、着工に同意できない」とする川勝平太・静岡県知事に対し、JR東海はいったんは全量を戻すと表明したが、後に「一定期間は戻せない」と修正し、対立が続く。
九月、川勝知事と、早期着工を求める大村秀章・愛知県知事が会談したが、不調だった。直後の静岡県とJR東海の会議には、国土交通省の高官が“行司役”として出たが成果は乏しかった。このままでは、開業遅れもありうる。
品川-大阪間の総事業費は、九兆三百億円と見込まれる。この巨額は建設・営業主体のJR東海が負担するが、着工後に国から財政投融資三兆円が注入されており国家的なプロジェクトでもある。
名古屋までの開業が遅れれば、名古屋-大阪間の着工もずれ込み、沿線の再開発に大きな影響を与える。国はもっと積極的に協議を主導して解決を図り、工事進捗(しんちょく)の推進を図るべきではないか。
他にも課題が。南アルプストンネルの工区は糸魚川-静岡構造線などが走り、難工事は必至だ。これを含め、全区間の86%を占めるトンネルの掘削残土の恒久処分場は未確定。一部で用地買収の遅れもある。リニアは新幹線の三倍以上の電力を消費するため「原発再稼働が前提」とも言われている。
人の動きを劇的に変え、ひいては社会を変えるインパクトも持ちうる一大事業だが、時速五百キロという「速さ」よりも、車内と沿線の安全性や経済性の確立を優先させるのが当然である。
課題は一つずつ取り除かねば前には進めない。JR東海には、一層積極的に情報を開示して地元などに説明していく姿勢が求められる。その上で、各方面の間で、冷静かつ理を尽くした協議を行っていくしかない。皆が納得できるリニアであってほしい。
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