トランプ氏、トルコのシリア進攻は「我々の国境」の問題ではないと
アメリカのドナルド・トランプ大統領は16日、トルコとシリアの問題が起きているのは「我々の国境ではない」と述べ、シリア進攻に関与しない姿勢を強調した。過激派「イスラム国」(IS)掃討で重要な役割を果た、アメリカに協力していたクルド人については「天使でもない」と述べた。
トランプ氏はホワイトハウスで記者団に対し、アメリカは「警察ではない。もうみんな帰国する時間だ」と述べ、トルコによるクルド人攻撃の「青信号」に等しいと批判されている米軍撤退の正当性を主張した。
自分たちの命を失うべきではない
複数報道によると、トルコによるシリア進攻についてトランプ氏は、「我々の問題ではない」と述べたとされる。実際にトランプ氏は、「トルコとシリアは国境で問題を抱えている。我々の国境ではない。我々がそのせいで命を失うべきではない」と述べた。
「米兵はあの地域から撤退した。米兵は絶対に安全だ。(トルコとシリアが)問題を解決しなくてはならない。戦わないでも解決できるかもしれない。我々は状況を注視し、交渉し、トルコに正しいことをさせようとしている。我々はとにかく戦争を止めさせたいから」
クルド人は「天使」ではない
トランプ氏はさらに、クルド人は「天使」ではないとも述べた。
「(クルド人は)我々と一緒に戦った。一緒に戦うためたくさんの金をクルド人に提供した。それは構わない。クルド人は我々と一緒に戦った時はよくやった。我々抜きの戦いでは、それほどでもなかった」
「愚かなことはするな」
トランプ氏は記者団に対し、トルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領に対し、軍事作戦の「青信号」を出したわけではないと主張。エルドアン氏との電話会談後に、同氏宛に「非常に説得力のある書簡」を作成したと強調した。
この後、トルコがシリア進攻を開始した9日付の書簡の内容が明らかになった。ホワイトハウスが内容を認めた書簡の中で、トランプ氏はエルドアン氏に対し、「タフガイの真似はするな。馬鹿な真似はするな!」と書いている。
「あなたは数千人の虐殺の責任を負いたくはないだろうし、こちらもトルコ経済の破壊の責任は負いたくない。でもそうする」と書いた。
共和党も軍撤退に反対
トランプ大統領が6日にシリア北東部からの米軍撤退を発表すると、トルコは9日、クルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」が支配するシリア北部への進攻を開始した。
米下院は16日、シリア北東部からの米軍撤退に反対する決議案を、354対60の賛成多数で可決した。野党・民主党のほか、トランプ氏率いる共和党の議員も、大勢が決議案に賛成した。
この決議可決後、議会指導部はシリア進攻についてホワイトハウスで大統領と会談した。
民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長はその後、記者団に対し、会談dトランプ氏が「怒り狂っていた」と明かした。民主党のチャック・シューマー上院院内総務によると、トランプ氏がペロシ氏を「三流政治家」呼ばわりしたため、民主党議員が退室する事態となったという。
これに対し、トランプ氏も同様の批判をペロシ氏にぶつけた。会談中に立ち上がって話すペロシ氏の写真と共に、「神経質なナンシーが錯乱して怒り狂った!」とツイッターに投稿した。
共和党指導者は、会議中のペロシ氏の言動は「不相応」なものだったと指摘。議長が「激怒して部屋を飛び出した」と批判した。
トルコ、クルド、米国の関係
トルコは、シリア国境から約30キロにわたる一帯を「安全地帯」として確保し、安全地帯からYPGの戦闘員を完全に排除したい考え。シリア内戦などでトルコ領内に避難してきたシリア難民360万人のうち、最大200万人をこの安全地帯に移住させたいとしている。
トルコは、YPGをテロ組織と認定しており、クルド人地域のトルコからの独立を訴えているクルド労働者党(PKK)も、YPGと関係していると考えている。
アメリカはPKKをテロ組織と認定し、過去にはPKKとYPGの関係を認めていたものの、トルコのこうした主張は否定している。
アメリカを中心とした連合国がシリアで過激派勢力「イスラム国」(IS)を破ることができたのは、クルド人勢力の協力によるところが大きい。
YPGは、トルコ南部と国境を接するシリアで活動している。YPGはシリア民主軍(SDF)の大部分を占めており、SDFはアメリカ軍の支援を受けてイスラム過激派組織IS掃討に貢献した。
トルコ軍の進攻による混乱に乗じて、シリア北部で拘束されている数千人のIS元戦闘員や家族が結集する可能性が不安視されている。
シリア北東部の現状は?
YPGは13日、トルコ軍の進攻を受けている北部への部隊派遣にシリア政府が合意したと発表。シリア政府軍は14日、国境地域への進軍を開始した。
一方、トルコ軍は国境の町タル・アブヤドとラス・アルアインを制圧したとしている。
16日に直接交渉
米政府はトルコ側に直接、即時停戦を求めるため、マイク・ペンス副大統領とマイク・ポンペオ国務長官を派遣。2人は16日、トルコの首都アンカラでエルドアン大統領と面会する予定。
米財務省は14日、シリア進攻を受け、トルコの2省庁と政府高官3人に対し、経済制裁を課すと発表。トランプ氏は、トルコ経済に打撃を与えると警告している。
トルコ大統領府報道官は16日、同国外務省が米国に対する報復措置の用意をしていると述べた。エルドアン大統領は「目的が達成される」まで軍事行動を続けると強調し、クルド人部隊との交渉を拒否している。
コバニへ進軍
在英非政府組織のシリア人権監視団は16日、シリア政府軍とロシア軍がシリア国境の町コバニへ進軍したと述べた。
国連によると、トルコ軍の進攻により、これまでに民間人数十人が死亡し、少なくとも16万人が避難を余儀なくされたという。
こうした中、国連安全保障理事会は16日、軍事作戦を止めるようトルコに再度求めた。
マンビジを制圧
シリア政府軍は15日、戦略上重要な、クルド勢力が支配するシリア北部の町マンビジへ進軍した。マンビジはトルコが安全地帯を想定しているエリア内に位置する。
ロシア国防省によると、シリア政府軍は、マンビジ周辺の1000平方キロメートル以上を制圧したという。
トルコ軍、トルコが支援する親トルコ勢力とシリア反体制派の戦闘員もマンビジに接近している。
過去2年の間、数百人もの米兵がその存在を明示しながら、マンビジ市内を巡回してきた。2017年3月には、米国防総省が同地域に米兵を配備。トルコによる軍事行動をあからさまに阻止し、双方を安心させるため、目立つ形で星条旗を車両に取り付けた。