前回、避難所が決して「臭いから」ホームレス受け入れを拒否したわけではないことを説明した。その後、拒否されたのはホームレスではなかったという話も出てきているが、いまさら振り出しに戻るのも面倒なのでホームレスだったということにしておこう。
この問題について、10月15日の参議院予算委員会の質疑における安倍首相の答弁が観測された。以下にNHKの記事から引用する。
安倍総理大臣は「避難所は、災害発生後に被災者の生命身体などを保護するために、被災者が一時的に生活を送るために、設置されたものであり、各避難所では避難したすべての被災者を適切に受け入れることが望ましい。関係自治体に事実関係を確認し、適切に対応していく」と述べました。
文字通り読めば、「避難所は時と場合によってはホームレスの受け入れを拒否できる」と言っていることが分かるはずだ。これは当ブログの主張と完全に一致している。
まず災害発生時における「すべての被災者」とは、その地域に滞在している者全員を指していると考えられる。地域住民や地域外からの通勤者、旅行者はもちろん、ペットやホームレスもそこに含まれる。
その全員を避難所は「受け入れることが望ましい」。だが台東区には住民だけでも18万人以上いる。避難所には物理的な限界があるから、ただちに全員を収容できないことは明らかだ。だからあくまで「望ましい」として努力目標であることを示している。
また「受け入れる」とは、必ずしも避難所建造物内への物理的な進入を許可することに限っていない。「受け入れ」のあり方には多様性があるはずだ。「ご期待に添えない結果となったが、今後のご活躍をお祈りする」といった受け入れ方もある。
最も留意すべきは「適切に」という但し書きだ。「適切に受け入れる」「適切に対応していく」と2回に渡って適切さを強調している。避難所だからといって誰彼構わず受け入れるのは不適切になる場合があるからだ。たとえば防犯上の観点から、本人確認ができる地域住民を優先するといった判断はあり得る。
弱者保護の視点も必要だ。ホームレスは路上生活のノウハウに長けたプロフェッショナルである。だが日常的に住宅に住んでいる人間は路上では弱者であり、避難所に入れなければ生命や身体の危機がある。路上生活において強者たるホームレスを優先的に保護することは、弱者への差別になりかねない。
10月15日には多摩川河川敷でホームレスとみられる男性の遺体が発見されるという痛ましいニュースがあった。多摩川は台東区からは遠く離れており、台東区の避難所と直接的な関係がないのは不幸中の幸いだった。エベレストで命を落とす登山家のように、訓練を積んだプロといえども時には判断ミスをする。ご冥福をお祈りしたい。