ユーザーにない知識を補わないと、UXを損なう
調査型のタスクに適した情報の提供ができていないWebサイトは多い。そうしたサイトでは、ユーザーはさまざまな情報ソースを手作業でつなぎ合わせるという不必要な手間をかけなくてはならないのだ。
デジタル製品のデザインチームは、ユーザーの技術レベルや情報探索スキルを過大評価していることが多い。2016年にOECDは、中程度の複雑度のタスクを正常に完了できる成人は全体の3分の1しかいないことを明らかにした。このレベルのタスクを完了するには、ユーザーはページやアプリケーション間の移動をする必要がある。また、ステップを複数こなさなければならない上に、ツールやソフトウェアの機能(たとえば、ソート機能など)も利用しないとこうしたタスクを解決することはできない。さらに、このタスクのためのアクティビティでは推論や情報の関連性の評価も求められる。
言い換えれば、中程度の複雑度のアクティビティはシンプルではない。その結果、OECD調査の参加者の3分の2はこの難易度のアクティビティを完了することができなかったというわけだ。
アメリカ人は複雑な調査型アクティビティのためにインターネットを多用している。1週間にわたる日記調査をおこなって、参加者から、オンラインでおこなった重要なアクティビティについて報告してもらったのだが、報告されたオンラインアクティビティの21%は調査型に分類されるものだった。そして、報告されたアクティビティで最も多かったのはこの種のアクティビティ(特定の事実の検索、オンラインショッピング、オークションへの出品など)だったのである。
最近、我々が実施したLife Online(オンラインでの生活)についての調査プロジェクトでは、ユーザーが情報を統合する複雑なタスクを実行するのに苦労している事例が多く見られた。OECDの調査で定義された中程度の複雑度のタスク同様、こうした調査型のアクティビティでは、ユーザーはさまざまなソースから情報を見つけて統合し、ツールを利用しないと結論にたどり着けないことが多い。この調査で、参加者は以下のようなタスクに苦労していた。
- パリでの休暇の計画
- 5人家族向けレンタカーの最低価格の発見
- 運転免許証の登録要件の特定
(これらのタスクは、参加者からセッションに提供してもらった私的なタスクであり、リサーチャーが指定したものではない。そのため、どのタスクもアクティビティとしてはまったく妥当で、達成するのに高度な学位は必要ないはずである)
ユーザーがこうした調査タスクを完了するのに苦労したのは、多くの場合、Webサイトやアプリケーション側の不備によって、そうしたアクティビティがうまくサポートされていなかったためである。その結果、ユーザーはGoogleに行って、複数のサイト(と、ときには競合サイト)を調べてから、答えを探したり、タスクをあきらめたりする、ということをよくしていた。場合によっては、複数のサイトやアプリでこうした不備が見られることもあった。
こうした不備の根底にあるのは、ユーザーの目標や情報ニーズへの理解不足だ。具体的には、こうした不備は、Webサイトやアプリで提供されている内容が以下のような状態になっていることで生じていた:
- 情報不足、または、
- 情報の内容は十分だが、情報の構造あるいは提供方法が間違っている
情報不足
一部のサイトは、ユーザーの知識が不足していることを十分に予測できず、それを補うのに必要なだけの情報を提供することができていなかった。ユーザーは作業中のワークフロー内で提供されていない情報が必要になると、ワークフロー外の場所に移動して、(たとえば、新しいタブを開いて詳細情報をさらに見つけ出すなどといった方法で)疑問を解決する必要がある。その結果、こうした情報不足のせいで、情報が十分にあれば完了していたはずのタスクの進行が妨げられたり、重大な決断をおこなうことができなくなっている事例が多く見られた。
情報不足のせいでタスクが放棄される
今回のRaleigh(ノースカロライナ州の州都)での調査のある参加者は、大学院に通っている人だったが、自分の家の裏庭のリフォームを計画していた。彼が裏庭の造園に関するDIY系の記事を読んだところ、そこには玉砂利を買う必要があるということが書かれていた。
「えっ」と彼は言った。「そもそも玉砂利はどうやって買うのでしょうか」。そこで彼は「玉砂利の購入方法」というWeb検索をした。すると、ページの上部にはショッピング検索の結果もいろいろと出てきた。価格にかなり幅があるのを見て、彼は尋ねた。「なぜこの砂利だけ、こんなに高いのでしょうか」。
Home Depotのサイトで、この参加者曰く、「5立方ヤード(約3.82立方メートル)分の玉砂利」(5 Yards Bulk Pea Gravel)が575ドルで販売されているのを見た。「どのくらい玉砂利が必要なのだろう」と彼は口に出した。「Xという量の玉砂利があるとして、それでカバーできる広さはどのくらいになるのでしょうか」。
このページには、彼が必要な砂利の量を判断するのに役立つ情報が何もなかった。参加者は新しいタブを開き、検索を続けた。ようやく、彼はhunker.comで、「50ポンド(約23キロ)分の砂利でどれくらいの広さをカバーできるか」という記事を見つけた。記事には必要とする砂利の量の計算方法が書かれていたが、そうした説明のあった段落はWeb向けの書式になっておらず、読みづらかった。
高学歴のこの参加者でさえ、Home Depotのページの情報と他のサイトにあった情報を組み合わせて、裏庭をカバーするのに必要な玉砂利の適切な量を割り出すのには苦労していた。そして、結局、彼はWalmart.comの玉砂利の説明ページに行き着き、そこで玉砂利を購入することにしたのだった。
この事例で、Home Depotが逃したチャンスは大きい。サイトで、ユーザーの疑問を予測し、それに答えることができていれば、今回、Home DepotがWalmart.comに売り上げを奪われることはなかっただろう。また、今回のエクスペリエンスは、このユーザーのHome Depotに対する認識に対しても悪い影響を与えた可能性がある。
実際のところ、Home Depotは、この種の情報が必要なときのための計算ツールをしっかりと提供していた。材料やそれを敷きたい空間の広さ、希望する厚みを入力すれば、ユーザーは必要な材料の量を正確に知ることができるようになっていた。
このツールは、家を買ったばかりである、先ほどの参加者が、彼の疑問を解決するためにまさに必要としていたものだった。しかし、残念ながら、彼がこれを見ることはなかった。砂利の詳細ページにはこのツールページへのリンクがなかったからだ。この計算機の材料の種類の選択肢に砂利が含まれていなかったためだろう。
この計算機は、ユーザーが何を知らないかということを理解して、ツールと彼らの不足している知識を補う情報をうまく提供した例といえる。Home Depotは、該当のページに、単に砂利の量の計算方法の説明や、ユーザーが自分で計算するための数式を入れることもできたはずだ。しかし、実際の計算ツールのほうがユーザーの知的労力をかなり節約できるだろう(砂利には使えなかったことが残念だったが)。
この事例では、情報(裏庭のそのエリアに必要な砂利の量)が不足していたため、このユーザーはプロセス(玉砂利の購入)を進めることができなかったということになる。
情報不足のせいで自信をもって意思決定ができない
また、意思決定をするのに必要な重大な情報が不足しているため、複雑なタスクを完了するのにユーザーが苦労する事例も多く見られた。
Kansas Cityでの調査の参加者は、地元の劇場である、Kauffman Centerでおこなわれるショーのチケットを購入することを検討していた。彼女は劇場のWebサイトでチケットを検討していたが、どの席にするかを決めるのに苦労した。サイトでも座席表は提供されていたが、それは「その席からの眺めはどんな感じか」というこのユーザーの中心的な疑問に実際に答えてくれるものではなかったからである。
サイトでそうした情報が提供されていなかったため、参加者はGoogleに行き、彼女の疑問に対する答えを得ようとして、以下のような手順を実行した。
- 新しいブラウザタブを開き、「Kauffman Centerの座席」というGoogle画像検索をおこなった。
- ホール内部を撮影した写真に目を通して、購入したいと考えている席のエリアの近くで撮られたと思われる画像を見つけようとした。
- そして、そうした席に座っている自分を想像しようとした。
彼女は座席を選ぶのに十分なだけの情報が得られたと思うまで、劇場の複数の座席セクションについてこのプロセスを繰り返した。
参加者曰く、「席からの眺めがどんな感じなのかわかったらいいのに、と思います。チケットを買ったことのある他のサイトでは、席からの眺めがわかるところもありました。そういう情報があるとその座席が本当に自分の希望どおりのものなのかを確認するのにとても便利です」。