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【社説】

北陸新幹線水没 「まさか」に備えてこそ

 台風19号は北陸新幹線にも大打撃を与えた。千曲川の堤防が決壊しJR東日本の車両センターが浸水した。水没した車両は当面使えない。通常ダイヤでの運転再開は見通せず、影響は計り知れない。

 車体の半分程度が泥水に漬かった写真や映像に絶句した。JRによると全車両の三分の一にあたる十編成百二十両が水没した。

 新幹線の床下にはモーターなど電気系統の機器類がある。補修や交換に相当期間を要するとみられる。廃車の可能性を指摘する専門家もいる。百二十両の製造費は三百二十八億円にも上る。

 車両センターは千曲川から約一・三キロ離れ、浸水までの速さ、ましてや水没は「まさか」の事態だっただろう。しかし長野市の洪水ハザードマップでは、一帯で今回の推定四・五メートルを超える最大十メートル以上の浸水を予測している。その警告は生かされなかった。

 地下に設置された非常用発電機が水没し、全電源喪失に至った福島第一原発の事故が頭をよぎる。

 万が一の浸水の可能性を考慮して車両を予(あらかじ)め高架線へ退避させるなどの対応はとれなかったのか。専門家によれば、一九六七年の豪雨で、事前に大阪府内の車両基地の新幹線車両を本線に移動させて事なきを得た事例もあるという。

 JRは立地の問題点を含め危機管理態勢を十分に検証し、再発防止策を確立してほしい。鉄道各社にも自らの車両基地について、今回の二の舞いにならぬよう点検と対策を求めたい。

 北陸新幹線は長野-飯山間の線路も冠水し、復旧には一~二週間かかるという。それまでは東京-長野、金沢-上越妙高間で折り返し運転を続ける予定だ。

 今後、東京-金沢間が全線復旧しても運転本数は通常の五~六割程度となる。大幅な間引き運転を強いられ、ビジネス、観光両面に多大な影響が出る。通常ダイヤに戻るには一年程度かかるとの見方もある。まさに由々しき事態だ。

 北陸新幹線は北陸と首都圏を直結する大動脈だ。開業四年半、過去の台風や豪雪時にも安定運行を続けてきた。開業前と比べ三倍近い利用客を維持してきた。

 今回の水害で北陸の観光地ではキャンセルが続出している。折しも秋の行楽期。開業五周年のキャンペーンも始まったばかりだ。

 輸送力の低下が長引けば、東海道新幹線や航空便を利用した誘客戦略が必要となる。南海トラフ巨大地震時の代替役を担うはずの北陸新幹線にとって皮肉な話だ。

 

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