(後編)桜島伝統の遠泳大会「諦めない心」で4キロの大海原に挑む少年少女たち

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2019.9.7

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そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない。

桜島で行われる伝統行事、「錦江湾(きんこうわん)横断遠泳」カナヅチ小学生たちが遠泳に挑んだ、ひと夏の物語に密着した。遠泳に挑むのは、鹿児島市立松原小学校の水泳同好会。帽子の色分けは、参加した回数で赤い帽子は初挑戦。

(前編)桜島伝統の遠泳大会「諦めない心」で4キロの大海原に挑む少年少女たち

その中で気になる少年が。小幡大和くん。練習初日、泳力テストで真っ先に足をついた2人のうちの1人。ちなみに記録は、2メートル。自ら志願して入った水泳同好会。練習前に、お母さんと約束した。

「泣かないで我慢してちゃんと最後までやる」

練習開始から15日、すっかり水にも慣れた大和くん。しかし、さらなる問題が。

泳力がないため、思うように前に進まないのだ。このままでは「40周検定」に合格出来ない。プールを40周、70分以内に泳ぐ力がないと遠泳大会には参加できないのだ。
他のメニューは問題ない。あとは、70分以内に泳ぐスピードだ。この課題を克服しない限り、海には出られない。

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お母さんは自信を失いかけた息子に優しく諭した。

母「(海に)行きたい。でもあなたが40周検定受からないと行けない。どうしたらいい?」 

甘えん坊でも答えは出ていた。大好きな母を海に連れていきたい。

検定まで9日。5年生のようたくんが大和くんのコーチを買って出た。2人は少年野球のチームメイトだ。初挑戦の赤帽を、上級生がマンツーマンで教える。これこそが鹿児島に伝わる、郷中(ごじゅう)教育。
郷中教育とは薩摩独自の青少年教育で、先輩が後輩を指導する教師なき教育が最大の特徴。つまり下級生を海に連れていくのは上級生の責任なのだ。

そして、検定当日。

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1周70mのプールを40周、70分以内に泳ぎきれば合格だ。途中、足をついたり、周回遅れになると、失格。大和くんは赤帽の先頭でスタート。先導する上級生に付いていく。

7周目、大和くんが、隊列から遅れ始めた。10周目、最後尾まで下がってしまった大和くん。そして14周目、コーチが周回遅れと判断し大和くんは隊列から外された。ただこれで夢がついえたわけではない。
大和くんは、再検定に回ることとなった。再検定に向け、徹底的に泳ぎ込み泳力を鍛える大和くん。「お母さんを海に連れていきたい。」その一心で泳ぎ続けた。

そして迎えた再検定。再検定に参加したのは大和くんの他に泳力が危ういと判断された9人。正真正銘の最終テスト。海に出るための挑戦が始まった。スタートから必死に食らいついていた大和くんだったが9周目、徐々に遅れはじめる。

11周目、すぐ後ろに先頭が。そして・・・周回遅れで失格。大和くんの再検定は終わった。涙に暮れる母。その涙のワケは落選したことではない。母の視線の先には1人、隊列の内側を泳ぐ大和くんがいた。
もう泳がなくても良い。だが、大和くんは泳ぎ続けた。誰よりも長く泳ぎ続けた。

この日イチバンの拍手に包まれ、大和くんは、プールから上がった。再検定の結果、合格できなかったのは大和くん1人だった。「強さってなんだろう?」もしかしたら大和くんは遠泳の練習でその答えをつかんだのかもしれない。

そして迎えた「錦江湾横断遠泳」当日。午前9時、遠泳大会、スタート。海にでれば、風や波、潮の流れもある。大海原に挑む4.2キロの挑戦。検定に見事合格した元カナヅチの珠吏(しゅり)くんと莉乃愛(りのあ)ちゃんの結末は?

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隊列の中に、珠吏くんを見つけた。練習初日に50センチしか泳げなかった少年がひと夏で、この成長。身も心もたくましくなった。一方、莉乃愛ちゃんも堂々とした泳ぎっぷり。もう泣き虫なんて呼ばせない。遠泳を通じて培った諦めない心は生涯の宝物。

スタートから1時間半でゴールが見えて来た。先頭がゴール。それに続き莉乃愛ちゃんも珠吏くんも見事ゴール。

この夏育まれた諦めない心は、子ども達を支えていくだろう。そして育った才能が鹿児島、そして日本の未来を作っていく。

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