(前編)桜島伝統の遠泳大会「諦めない心」で4キロの大海原に挑む少年少女たち

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2019.9.6

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そこに秘められたドラマをあなたはまだ知らない。

鹿児島県の桜島で毎年行われる伝統の遠泳大会。泳ぐのはカナヅチ小学生。

先生「次の練習が始まるぞ戻れ」

先生「そう簡単に弱音を吐くな 諦めるな」

諦めない心を育む薩摩の教え。4キロの大海原に挑む少年少女のひと夏の挑戦に密着した。

桜島から市内の海水浴場まで、およそ4キロを泳いで渡る伝統行事「錦江湾(きんこうわん)横断遠泳」。泳ぐのは、鹿児島・松原小学校の水泳同好会の子供達。赤い帽子は今年入ったばかりの4年生、30人。この日は練習初日、みんな志願して入ったとあって泳ぎは達者。・・と思いきや30人中、5メートル以下が21人という結果に。

その中でも、遠泳どころの騒ぎじゃない男の子を見つけた。水に顔をつけただけでギブアップ。記録はなんと50センチ。誰よりも早く足をついた彼が主人公、福元珠吏(しゅり)くん。

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自らの意思で入部したはずだが一体どうしたのか?本人に真意を尋ねると

珠吏くん「ちょっと怖いからやりたくなかったんだけど怖がるのは嫌だから。厳しさにも耐えられるように遠泳を始めた」

遠泳で学ぶのは、泳ぎだけじゃない。「諦めない心」遠泳を通して育まれる子供達の心の成長に、最後私たちは驚かされることになる。

元々珠吏くんは水泳が大の苦手。小学校2年生の時、プールの授業に出るのが嫌でわざとプールバッグを家に忘れていったほど。でも、諦めることがダメなことは重々分かっていた。だから遠泳の話を聞いた時、小さな体で必死に一歩を踏み出す決意をした。

「いまの自分を変えたい、だから苦手な水泳をやろうと思った。」

水泳を始めてから、お母さんが驚いたことがある。それは率先して宿題をする珠吏くん。今まで見たことのない光景だ。

珠吏「宿題を終わらせないと遠泳中は立たされるから」

遠泳にかける夏。宿題ごときで諦めるわけにはいかないのだ。心の成長に追いつこうと、泳ぎのほうも少しずつ上達を見せ始める。なんと、15メートルも浮いて進めるように。初日の50センチを思えば目をみはる成長だ。

今年で54回を数える伝統行事「錦江湾横断遠泳」。帽子の色分けは、遠泳に参加した回数。基本的に6年生が青色、5年生が黄色の帽子を被っている。そして初めての挑戦となる赤い帽子の4年生にもう1人、心配のタネを見つけた。彼女の名は莉乃愛(りのあ)ちゃん。

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クラスのリーダー的存在で明るい性格で運動神経の良い莉乃愛ちゃんだが、水泳は苦手。辛抱たまらず、コーチに駆け寄り弱音を吐くが・・・。

コーチ「みんなも同じところで練習しているんだぞ?次の練習が始まるぞ!戻れ!」

いざ海に出れば4.2キロを泳がねばならず、命に関わる危険が伴う。厳しくするのは子どものため。そして諦めない心を育むため。

翌日、練習開始前、プールの前で立ち止まる莉乃愛ちゃんがいた。昼休みには、元気に走り回っていたというのだが・・・急遽、お母さんが学校に呼び出された。診察の結果、熱はない。「今負けると全部諦めることになる」母が娘を諭す。30分後、プールに戻ってきた莉乃愛ちゃん。お母さんに背中を押されて、少しずつ芽生え始める、諦めない心。もう泣くのは、やめた。あの日以来、莉乃愛ちゃんは明らかに変わった。待っている間も、ひとり、泳ぎのフォームを作り続ける。そう、持ち前は頑張り屋さんだ。

このあと最大の試練が子どもたちを待ち受けている。大会に参加するためには避けては通れない「40周検定」だ。プール1周70メートルを40周で2800メートル。70分以内で泳げないと海には出られない。運命の検定まで、あと2週間。いまだ息継ぎができない莉乃愛ちゃん。このままでは遠泳なんて、夢のまた夢。実際に代表の大月コーチも「かなり難しい状況になって来たなと思います。ここ数年の中でかなり厳しい状況です。」と厳しい言葉を発した。

コーチの激を受け、行動に移したのは青帽子の上級生たち。6年生・青帽のマコちゃんが初挑戦の赤帽へ居残り練習の提案をした。「海に出たい。」鹿児島独自に伝わる郷中(ごじゅう)教育がある。薩摩の時代から受け継がれる先輩が後輩を指導する、教師なき青少年教育だ。この伝統に育てられ、薩摩は数々の英傑を世に送り出してきた。居残り練習では、上級生がマンツーマンで下級生を指導。莉乃愛ちゃんを教えるのはマコちゃん。2年前は自分も赤帽だった。帽子の色は、責任の証。学びつつ教え、教えつつ学ぶ。薩摩に伝わるこの教育が今も息づいているのだ。

いよいよ海へ出るための「40周検定」。2800mを70分以内に泳げば合格。足をついたり、周回遅れになると失格だ。本番を想定して隊列を組んで泳ぐ。皆、同じペースで泳ぐのが大切なのだ。そして泣き虫・莉乃愛ちゃん、水嫌いだった珠吏くん。2人は家族と先輩たちの応援を背に見事、泳ぎきった。

しかし、喜びも束の間。遠泳本番の舞台は海。プールと違い、波も風もある。珠吏くんと莉乃愛ちゃんは4キロを泳げるのか?

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