6 監察制度の悪用 秋田県警はなぜ、民間人にまで監察をおこなったのか 警察による民間人へのお礼参り p198-200 警察組織には監察制度というものがある。新潟の長期少女監禁事件ではからずも発覚した「カラ監察」事件に代表されるように、警察内部における自浄作用にも大きなゆがみが生じている。 この監察制度については、巻末の「おわりに 警察は立ち直れるか」でとりあげるので、ここでは、本来、監察というのは警察内部の問題に対しておこなわれるものであるにもかかわらず、警察官みずからが起こした不祥事を正当化するために、監察の名を借りて民間人までも巻き込んだという驚くべき事件について述べてみよう。 秋田県北秋田郡鷹巣町は県北に位置する、秋田空港近くの静かな農村だ。平成十二年四月四日午後八時すぎのこと。鷹巣警察署のA署長(五十五歳)以下九名の署員は、B次長(五十三歳)の赴任飲迎会の二次会で、管内のあるスナックに入った。 店内にはすでに約二十五名ほどの客がいて、満席に近い状態だったが、同店のママC子さんは、かねてから常連客として出入りしていたA署長のために、優先的に飲食の準備をしたという。 二次会の席も盛り上がり、同署の生活安全課長がカラオケで歌いはじめた。曲が二番を迎えたころ「署長、踊れー」という声が署員から飛んだ。日ごろから人づきあいのよい署長は同店のホステスD子さんを相手にダンスをはじめたが、カウンターにいたママが、「ダンスはダメ。D子はあっちに行きなさい」と両手をクロスさせて数秒でダンスを中止させたという。 すると署長は、「その怒り方は接客する店の人間の態度ではない」と怒りだしたという(署長本人は「指摘した」という言葉を使っていたが)。 ここまでは一般社会でもよくある、酒の上の些細なトラブルである。 しかし、問題はここからだ。その後、B次長や保安課長らが「明日から店を閉めろ、署長に謝れ、明日、署に出頭しろ」と、突然わけのわからない「職務権限」を行使したのである。 そして、約三時間ほどたった翌午前零時五分、鷹巣警察署の警察官三名がそのスナックに現れ、「時間外営業だ、明日警察に出頭しなさい」と、その場で風俗営業法違反(時間外営業)を通告したという。スナックなどの風俗営業の営業許可時問は午前零時までだから、立ち入り検査に入った鷹巣警察署の警察官は、わずか五分間の時問外営業を指摘し、出頭命令を下したのだ。 翌日、スナック経営のC子さんは鷹巣警察署に赴き、同署二階にある生活安全課取調室で課長じきじきに取り調べを受けた。 「たとえ五分であっても、警察に違反だといわれてしまえば違反なんだ」とC子さんは自分に言い聞かせ、言われるままに始末書を書いたという。取り調べが終わるころ、生活安全諜長は「これからのこともあるから、署長に謝ったほうがいい」と言いだした。 いぶかしく思っても、相手は自分たち風俗営業店の生殺与奪の権限を持つ警察官。しかたなくC子さんは署長室に入り、課長に言われたとおり、署長に頭を下げたという。 |
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