内規でかんじがらめにされる警察官 p214-217 こうした監察制度に「法的根拠」を与えているのが、内規である。 内規はどこの杜会にでも存在する。しかし、警察の内規は一般杜会から見ると明らかに異常だ。私も在職中はあまり考えもせず、自然に受け入れていたのだが、警察には、組織の恐ろしさを幻影によって支配するために、驚くほどたくさんの内規が存在している。これはけっしてウソでも誇張でもない、事実である。今の時代に本当にこんな内規があるのかと、目を疑うものばかりである。 たとえば「監督事項」である。 幹部は職員を監督中に特異な事項を見たり聞いたりしたときは、ただちに決められた様式で署長に報告しなければならない。では、どんなことが「報告事項」になるのか、以下に列記してみるとこんな感じだ。 「行状、借財、宗教活勤、交友関係、飲酒癖、外泊・旅行の届出、居住地の制限、部外の受験届出」 さらに、この各報告事項の解釈で監察が動き出す場合がある。それは以下のとおり。 ●退職勣告を受ける事柄(=監視対象項目) 不倫関係発覚、サラ金借人れ ●生活指導を受ける事柄(=監視対象項目) 競馬、競輪、競艇、パチンコ、麻雀、株式投資、通勤定期券の購人の確認(月に一度出勤時に定期券検問がある)、レンタカーの借入れ、ゴルフ、バイクの購入、車の購入、船舶の購人、土地家屋の購人、スキー、マリンスポーツ、登山、高級酒場への立ち入り、外泊、国内旅行、海外旅行、外部の受験、携帯電話・PHSの所持など。 なぜ一見このような些末(さまつ)なこと、ふつうのことが監視対象になるかだが、所属警察署としては自所属のなかから一人の事故者も出したくないという、お家第一主義(署長第一主義)のためなのだ。ひらたく言えば「オレ(署長)の在職中だけは、事故(不祥事)を起こすなよ」ということなのだ。 退職勧告を受ける事項は、本来、警察職員勤務規程で規定されている第三二条(署長の報告)に該当する事柄だ。しかしこれを報告すれば署長の汚点となるため、所属警察署の公安係などを使って証拠を握り、当事者に突きつけ、依願退職に追い込むのだ。 その手目は、人事一課監察係のやり口とまったく同じで、まず自発的退職を勧告し、聞かなければ、懲戒免職にする(退職金、年全支給停止)と脅して、最後は自己都合による依願退職を求めるという寸法だ。 幹部はこの制度を使えばいくらでも下っ端のクビが切れる。一般警察官の身分はきわめて不安定で、けっして上司に逆らうことができない仕組みになっている。 この事態を適切な言葉で表現すれば「アナクロニズム」だ。時代錯誤もいい加滅にしていただきたい。 警視庁警察職員勤務規程第二九条(監督範囲および連絡協調) 幹部は、必要ある場合は、担当以外の職員についても監督を行わなければならない。 第三一条(監督事項の報告) 幹部は、監督上重要または特異な事項があることを知った時は、担当の部下職員であると否とにかかわらず直ちに署長に報告しなければならない。 第三二条(署長の報告) 署長は、監督上重要または特異な事項があることを知った時は、警務部長および所轄方面本部長に報告しなければならない。 記載された「報告」と「監督」の部分を、『密告』と読み替えてみるとその意味がよくわかる。だから署員同士、笑顔で語り合いながら、腹の中では「何を密告されるかわからない」と言葉を選ぶ。とくに前記の「生活指導を受ける事柄」の項をよく見ていただきたい。これらがすべて禁止というわけではないが、監視事項だからこれを完全に守れというなら、警察官は人並みの、平均的日本人の文明生活をしてはいけないということになろう。 そんなことは不可能だが、誰に密告されるか不安なため、仲間にも隠さなければならない。そんな奇妙な人間関係が、同じ署員同士で生まれてしまうのも、この監察制度の存在が最大の原因なのである。 警察内規の凄まじさがおわかりいただけただろうか。結果的に警察官の誰しもが警察内規に縛られ、日々監察の目を気にし、警察的洗脳教育によって生みだされた幻影を抱き、たとえ同僚でも腹を割って真実を語れないという現状があるかぎり、警察官に人並みの人権があるとは言えないのである。 |
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