公安と監察による警察官監視システム p206-210 警察不祥事と一ロに言うが、大きく分けて二つある。 ひとつは警察官個人が起こす不祥事(覚醒剤、わぃせつ行為、盗みなど)で、もうひとつが警察が組織として手を染めている不正行為だ。どちらも許されることではないが、前者は警察が組織として本来あるべき姿を取り戻せば、必然的に解消に向かうと私は考えている。したがって、より深刻なのは後者である。 にわかには信じられないことかもしれないが、警察は、超過勤務手当のピンハネから警備手当の搾取、さらにはニセ領収書による裏全作りといった「公金横領」、さらには許認可事務における公然たる「収賄」、日常化した「交通違反もみ消し」、風営業者など取り締まり対象者からの「上納金の吸い上げ」など、数え切れないほどの組織的な不正を犯しているのだ。 ところが、警察キャリアはこうした組織犯罪が存在することすら認めようとしない(認めたら既得権益がパーになる)ため、再発防止などには動かない。当然だ。彼らにとっては「裏金」など、タテマエ上存在しないのだから、対策など立てようがない。しかし、警察改革は遅滞なく進めなければ国民が納得しない。そこで、「やってますよ」というせめてものポーズを見せるため、末端警察官への締め付けを強化するのである。 こんなことで警察は本来あるべき姿を取り戻すことができるのだろうか。答えは否だ。 こんなことを繰り返せば、地域の治安を預かる現場警察官の士気は下がり、国民にとってはむしろ大きな損失になりかねない。マスコミは警察不祥事が多発する原因は「監察が正常に機能していないからだ」などと世論をリードしているが、これはまったくの誤りだ。 マスコミがイメージしている監察(内部犯罪の摘発および抑止)と、現状の監察(組織防衛の役目を担立はまったく別物だからである。じつは、警察腐敗の病巣はここにある。 現在の警察の組織構造、教育方法、言論封殺のありようを一言で言えば、成功した社会主義、共産主義杜会と同じである。キャリア(党員)による独裁や、監察・公安を二本柱とする監視システムは、さながら秘密警察のようである。 任官時から警察的洗脳敦育を駆使することで組織に逆らうことの恐ろしさを植えつけ、密告を奨励する。こうした管理体制は、警察を本来の目的から逸脱させ、一種の暗黒組織をつくりあげた。 警察組織のおこなう洗脳教育の目的は、一般警察官を沈黙させることにある。 「見ざる・聞かざる・言わざる」に徹するという組織の掟を守っていれば、昇進、高給、天下り先の確保など「生涯安泰」という甘い蜜が用意される。 しかし、組織に逆らい、一度でも反組織的な言動をすれば、たちまち「思想に問題あり」と見られ、「警察官不適格者」の恪印が押されてしまう。その後は名誉回復のチャンスもなく、いずれは退職という道を選ばざるを得なくなる。 しかも退職したとて安心できない。退職後、いっさい警察と関係のない人生を歩んでいても、長年の洗脳教育によって刷り込まれた幻影から抜け出すことができないのだ。 その恐怖の源泉となっているのが、監察と公安なのである。 公安情報の取り方、情報のファイルのしかたについては、警察官なら全員が身をもって知っている。左翼であろうが、謀反者であろうが、なんでもかまわない。 警察組織に逆らう者すべてが視察対象となり、この一連の手続きがデータ化され、ファイルに永久保存されてしまうのだ。警察と過去になんらかのトラブルがあった人は、間違いなくファイルがあると思ったほうがいいだろう。 このファイルは警察目的以外にも使用される。 たとえば企業の採用試験などの身元調査で、民間企業に天下っている警察OBを通じて頻繁に利用されている。内部では、これをF(ファイル)チェックと呼んでいる。万一このファイルで「警察の敵」と認定されていれば、本人のみならず親兄弟、子供、孫、親戚にまで累(るい)がおよぶ可能性があるのだ。 したがって、一度でも警察組織に身を置いたことがある人間は、みずからが監察・公安にマークされていると感じると、四六時中、不安と恐怖が去来し、熟睡することもできなくなるという。 これが、私の言う警察的洗脳教育というものだ。 この公安と並び、一般警察官の口封じとして機能しているのが、監察制度だ。「監察」とは「警察の警察」である。 その目的は、警察官個人、あるいは組織内部の不正を発見し、その責任の所在を明らかにしたうえで軌道修正し、以後の抑止力として効果を発揮するものである。 しかし現実には、組織防衛をはかるために警察官の自由な発言はおろか、自由な考え方も統一的、網羅的に管理する「警察官抑圧装置」として機能している。 ちょっと振り返っていただきたい。神奈川県警のスキャンダルをはじめとする一連の不祥事で、本来の監察制度が機能していたと読者は思われるだろうか。答えは明らかである。神奈川県警の事件では、監察官みずからが、組織犯罪の隠薮工作の中心的役割を演じていた。 つまり、本来の意昧からは、まったく役に立っていなかったのだ。 しかし、マスコミに押された世論は、より強力な監察を求めた。 その結果、実現した特別監察では、監察官みずからが仕事を切り上げ、「雪見酒と図書券マージャン」に興じていたというのだから話にならない。しかし現実を知らない国会議員やマスコミは、さらなる監察強化をぶち上げるのだから、現場警察官にとってはたまったものではない。 監察官は、このチャンスに点数を稼ごうとして鵜の目鷹の目、傍目から見ると「現場いじめ」としか思えないような残忍な手口を使って現場警察官にプレッシャーをかけまくることになる。 現場は、ただでさえ忙しい目常業務をこなしながら、つまらない内規を遵守するための緊張を強いられる。その結果、治安維持にマイナスになるかもしれないというのだから、本末転倒もはなはだしい。 |
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