Sizzyというツールがあります。
様々なサイズの画面を同時に表示し、レスポンシブレイアウトがどうなるかを一気に確認できるという便利なツールです。
スマホ向けWebサイトを開発している人なら、持っていると非常に便利でしょう。
参考:レスポンシブの確認ツール、後発だけに便利!スマホ・タブレットの主要なデバイスでの表示確認が同時にできる -Sizzy / 『Sizzy』様々なデバイスでのサイト表示を確認出来る便利サイト
さてこのSizzy、元々無償のChromeエクステンションだったのですが、先日2019年7月に単独のアプリとして有償化されました。
一人あたり月5ドル(団体割引あり)のサブスクリプション制です。
以下は作者のKizte( Twitter、Medium、Webサイト )がその理由や経緯を綴った記事、GitHub stars won't pay your rentの日本語訳です。
実体験だけあって切実で楽しい(楽しくない)、実に読ませる内容でした。
GitHub stars won’t pay your rent
こんにちは 👋
ここで前回の記事を書いてからずいぶん経ちましたが、単に生存証明だけのためにどうでもいい記事をねじ込みたくなかったというだけのことです。
しかし、今の私には伝えるべき物語があります。
先月(2019年7月)、Sizzyの新たなバージョンをリリースしました。
元々はシンプルなWebアプリだったものが、デザイナーや開発者向けの本格的なブラウザアプリに生まれ変わりました。
リリース以来のこの一ヶ月はとてもエキサイティングだったのですが、実際はリリースに至るまでの2年半にわたっても浮沈を経験してきました。
私は多くの間違いを犯し、多くの教訓を学んだため、その記録をみんなと共有したいと思います。
Solve your own problem, everything else will follow
これまで取り組んできた全ての仕事において、私は自分自身の問題を解決しようとしていました。
当時私はフリーランサーとして働いていましたが、作ったスマホ向けWebアプリを複数のデバイスでプレビューすることが大変な苦痛でした。
クライアントは、アプリがあらゆるデバイスのあらゆる向きで完全に動作することを求めていました。
そのため、アプリを更新するたびにChromeのデバイス設定20種類を切り替えて全ての動作確認を行うというクレイジーな作業が必要でした。
そんなときこそ自動化です。
自動化を行うプロダクトを数時間かけて作り、その後は一回に3秒かかるタスクを何度も何度も繰り返す必要はなくなりました。
同じころ、妹は離れた2地点でひとつのバッテリーを使い回すために一日10回バッテリーを抜き差しする作業を一年間続け、二つ目のバッテリーを購入するという解決策を採らなくても全く平気な顔をしていました。
人によって忍耐度は違うのでしょう。
作ったアプリを初公開したときのオリジナルの記事はこちらで読むことができます。
話を戻しましょう。
翌日早々と、私は多くの時間を節約することに成功しました。
アプリをオープンソースでGitHubに公開したため、誰もがそれを使用し、コントリビュートすることができました。
みんながこのアプリを気に入り、プロジェクトは5000のスターをゲットし、アクセス解析は狂ったような値を出力しました。
ちょっと何が起こっているのか信じられませんでした。
Hopefully, people will donate, right?
私はOpen Collectiveを始め、2年半でなんと93ドルもの金額をゲットすることに成功しました。
このことをツイートしたとき、幾人かの反応は『たぶんみんなアプリを使ってないだけ』でした。
彼らが私を追い落とそうとしてるだけなのは知っていましたが、分析は別の結論を出していました。
毎月7千~1万人ほどがこのアプリを使っていたのです。
寄付のリンクは常に表示していたので、使用者がそれを見逃していたということはないでしょう。
ひとつ教訓を得ました。
何かを無料で配ったとき、それに対してわざわざ金を払おうとする人はいません。
これは人間として自然な考え方であり、目新しいものでもありません。
何らかのアプリを使っていて出てきた『希望金額を寄付する』のスライダーを1ドル以上に指定したのはいつですか?
え、一度でもやったことがある?
はい、あなたは酔っ払ってうっかり2.5ドルを選択してしまった聖人です。
I made a huge mistake
SizzyをWebアプリとして提供することが大きな間違いであったことに気付くまで、さほど時間はかかりませんでした。
やりたいことを全く実現しきれない、多くの制限がWebアプリにはありました。
私は多くのアイデアを持っていましたが、それらのほとんどはWebアプリで実現することはできないものでした。
本当のブラウザを作りたかったのです。
従って、私はElectronに手を出しました。
Electronの最初のバージョン0.0.0.0.0.1
が動くようになったころ、みんなが同じ経験をしないで済むように、ReactとElectronを連携させるために苦労した記事を公開しました。
私は前に進んでいました。
誰も全く寄付なんてしなかったので、私はこのアプリの有料版を作ることにしました。
しかし、どのようなアプローチを取るべきかわかりませんでした。
・オープンソース版を削除するのは、いかにも金儲けのための器の小さいムーブに見えてしまう
・オープンソース版と有料版を両方提供していくのはとても大変そう
私はGregに連絡し、彼のプロダクトInsomniaはどうしているのか尋ね、そして彼は親身に助けてくれました。
しかし、目標が遠すぎて、そこまで到達するための明確な道筋を思いつかなかったとき、我々は常に同じ、世界で最も有名な引き出しに手を伸ばします。
私はマケドニアで生まれ、当時オランダに住んでいましたが、両国ともにStripeにアクセスすることができませんでした。
Stripeに尋ねてみると、すぐにオランダでもアクセスできるようにすると言われました(そして実際数ヶ月後にロンチされた)が、私は既に課金なんてできないよという言い訳に囚われていたので、それを実際に使うことはありませんでした。
つまり、全てのクールな開発者がStripeを使っていますよね。
彼らは派手でクールなWebサイトと誰もが気に入るダッシュボードを持っていますよね。
私は自分のアプリを、丸い角とくっきりした影を持つ可愛くてカラフルなダッシュボードに仕立てなければなりません。
お金を出して買えるアプリが私のアプリ以外に108351もあるのです。
こんな競合の中で売れる?無理でしょ。
アプリを自動更新する方法を考えないといけません。
インストーラをどこに置いておく?
多額の費用がかかる場合、どうやって工面する?
これらの混乱をどうやって鎮める?
ライセンス、登録、メール、ニュースレター、その他諸々、やらなければならないことは山積みです。
私はこれらの問題を全て忘れることにし、そして2年が経過しました。
Shifting focus
Sizzyをリリースしたあとでフリーランスを辞め、React Academyを立ち上げたことで、そちらの仕事が手一杯になり、Sizzyは全く使わなくなっていました。
アプリのissueなどへの対応も辞め、完全に放置していました。
しかしアプリの使用者はまだまだ多く、むしろさらに増加していました。
基本的な機能しかなかったとしても、このアプリは多くの開発者にとって有用だったのです。
このアプリの権利を購入したいという開発者からいくつかのオファーを受けましたが、私はこれを売りたくはありませんでした。
私は、いつの日かまたSizzyが必要になるだろうことを知っていました。
If it doesn’t work for me, I don’t want to sell it
昨年の夏、ひさしぶりにアプリを使ってみましたが、そのときの感想は『どうしてみんなこんなものを使っているんだ?もっと良くできるだろう』でした。
しかし、皆がそう考えているわけではありません。
考え方を転換してみることで全ての問題が見えてきます。
頭の中にこのアプリの次のバージョンが既に存在するからこそ、現状のアプリが気に入らなかったのです。
従って、私は遂に再びこのアプリに取り組みたいと決意しました。
このアプリを、毎日使う道具のようにごく自然に起動するものにする、それが目標でした。
A second chance
私はワークショップやカンファレンスで忙しかったため、そのうえ他のプロジェクトにまで集中して作業する時間がほとんど取れませんでした。
また、私は毎週旅行していたので、次のような言い訳を思いつきました。
長期的に一カ所に留まっていないかぎり、集中して適切な仕事を行うように自らのコンディションを整えることはできない。 - Kitze
しかし、私はここでSizzyを諦めたくなかったので、Praneetを雇って一日数時間アプリのために働いてもらうことにしました。
彼は技術的観点からSizzyをモダナイズしてくれました。
多数あった古い依存を整理し、幾つかのライブラリを変更し、コードをクリーンにしてくれました。
真の問題は、プロジェクトの目標を明確に定めていなかったことです。
やり残したことはたくさんあり、どこから始めればいいのかわかりませんでした。
課金処理はまだ組み込まれておらず、ランディングページもありませんでした。
彼がバグ修正や新機能の追加に取り組んでいたころ、ようやくランディングページを作り始めました。
新機能のほとんどは、私が深く考えないまま進めていたので、一度の実装で完成することはありませんでした。
私たちは1歩進んで2歩下がりました。
時間を完全に無駄にしたとまではいいませんが、物事の優先順位付けと見積りをうまく設計していくべきでした。
残念ながら、私はそうではありませんでした。
一週間ごとの目標も最終目標期日も設定せず、ただ単にコーディングしていました。
もうひとつの問題は、私が集中してまっすぐ目的まで作業できないことでした。
私はランディングページの作成を開始しましたが、いつの間にかランディングページを作成するためのReactライブラリを作成していました🤦
これらの問題を解決したかったのですが、最終的に中途半端に終わりました。
やるべきことが多すぎて、ゴールがあまりに遠く感じたため、燃え尽きて再び興味を失ってしまいました。
PraneetはフルタイムでSizzyに入りたいとは思わなかったため、ここで彼とは別れました。
The final chance
私はまた旅行、カンファレンス、ワークショップの日々に戻りました。
さらにビデオブログも始めました。
それは充実していたし、旅行のせいでアプリに手を付ける暇がないという言い訳は完璧でした。
2019年のはじめのころ、Praneetにフルタイムで入ってくれないかと再びお願いに行きました。
何度も折衝したのち、彼は1年間の契約に同意し、アプリの作業に戻ってくれました。
収益を上げる目処も立っていないのに、自分の財布から毎月お金を支払わなければならないという行為が、私に言い訳を諦めさせる大きな動機付けになりました。
正直なところ、全てを私一人で行っていたとしたら、このアプリが日の目を見ることはなかったでしょう。
そのころカンファレンスとワークショップに明け暮れる日々から解放され、ようやく自宅で多くの時間を過ごせるようになりました。
私は自分のゾーンに戻ったのです。
客観的にはトラベルワーカーやノマドワーカーとして働いていた日々のほうが興味深いと思うかもしれませんが、しかし常に同じ場所で集中して働くという古いやり方のほうが、私にとってはより良かったと信じています。
子供達がマルコポーロで遊んでいる傍ら、プールサイドで仕事をしている写真を見ると、眩しくてまともに仕事ができたものではないとしか思えません。
それらはインスタ映えのために作られた偽物です。
ともあれ、私はようやくこのアプリをリリースすることを決意しました。
最初からドラッグアンドドロップツールを使ってランディングページを作っていれば、それは一日で完成していたかもしれませんが、しかし完璧主義者の私にとってそれは満足できるものではありませんでした。
私はそれをゼロから始めなければなりませんでした。
全てを最適化し、アニメーションを動かし、最後の細部に至るまで考え抜く必要がありました。
アプリを売るにはランディングページが大切だと考えています。
私はそれをTwizzyで証明し、IndieHackersでそれについて記事を書きました。
ゼロマーケティングでありながら、イースターエッグで満たされたユニークなランディングページを作ったことで、人々にアプリを買い求めさせることに成功しました。
Sizzyのランディングページはようやく完成し、アプリは次の段階に進みました。
Oh boy, the payment part
私が現在拠点を置いているポーランドではStripeを利用できますが、EU居住者のVATを自動的に処理できるという理由で決済プロバイダとしてPaddleを選択しました。
オランダでPaddleを使うのに苦労し、私はまた言い訳ボックスに手を伸ばすところでした。
なぜならばアプリをElectronで作っていたため、ライセンスの関係でPaddleの公式SDKを使うことができなかったためです。
『数行のコードを追加する』で済んだはずの工数は、『全てを理解するための数週間』に変化しました。
文字どおり、支払いまわりのロジックをゼロから書き直す羽目になりました。
バックエンドをはじめ、ライセンスとサブスクリプションを管理するために別のアプリを作り、そしてライセンスの有効化無効化と、そしてそれらを検証するためのElectronコードを全て実装しました。
完成したアプリの機能だけ見ると、「なんだ、この程度自分でも数週間でできるよ」と思うかもしれませんが、しかしユーザが利用できる形で配布するまでにはさらに多くの作業が必要になりました。
もうアップデートさせないでくれ。
私はこのプロセスで多くのことを学びましたが、他のみんなにも同じ苦労を味わってほしくはありません。
私はこのインフラ全体をサービスとしてリリースする計画を立てており、いずれ開発者はElectronアプリで簡単にPaddleを利用することができるようになるでしょう。
リリースまでたった3年しかかかりません。
Deleting the GitHub repository
正直なところ、リポジトリを削除して、自分のGitHubプロフィールからプロジェクトを消去するのは、良い気分ではありませんでした。
少々気が引けましたが、肩書きを投げ捨てる必要がありました。
私は自分が何も悪いことをしていないと、自分を納得させなければなりませんでした。
このアプリは人々に2年半サービスを提供しましたが、その見返りはほぼ全くありませんでした。
現実を直視して、重要なことについて考えるときが来ました。
遂に来てしまいました。
私はここで、Mの付くワードに言及し、そして多くの読者を失うことでしょう。
Money
金は重要だ
ほとんどの開発者、さらにほとんどの人々は、金は何か悪いものであり、重要なことではない、などと思い込もうとしています。
金についての話はタブーなのです。
彼らは、今月は十分な収入がなかったり、支払いができなかったりといった不満を、友人同士でたびたび話しあいます。
彼らは会話が好きであり、みんな自分の貧乏自慢をしたがります。
さあ、あなたはそこで、今月たくさんのお金を稼いだことを伝えましょう。
緊張の糸が一気にぶった切れることでしょう。
たわごとなど、ききたくないわ!
お金は重要ではない。
その話をやめてください。
私は生きていけるだけの金は稼いでいる。
今はそのことについて考えたくない。
少なくとも私は学んでいる。
きっとある日魔法のように全てが変わるはずだ。
祖父が金持ちだから金儲けの才能があるのだろう。
それは運が良かっただけだ。
それで不満はないのかい?
素晴らしいツールを開発している才覚の高い開発者はたいへん多く、そして彼らは利益を上げることについて一瞬たりとも考えていません。
かつて私がより良いサラリーを求めて会社を辞めたとき、友人は私を貪欲だと評しました。
実にばかげた話です。
利益を考えなくてもよいのは高校生までの考え方であり、私は私の主張を世界中の開発者に広めたいと思っています。
オープンソース、ブログ記事の投稿、Lint設定やエディタのテーマの調整を一日中行うことは、全く問題ないことです。
家主があなたの部屋のドアを叩くか、スーパーに行ってレジで財布を取り出すまでのことですが。
あなたは毎日2時間を『少なくとも私はSVGについて多くを学んでいる』に費やしています。
そうですか。
そのような生活をどれだけ続けられるか、私はわかりません。
我々が10年後も今のような収益性の高く、甘やかされた業界に居続けられるのか、誰もわかりません。
工場長は、ある日オーナーがやってきて彼をラジオに取り替えるまで、自分の仕事は安泰だと思っていました。
工場長には、ラジオが工場長の仕事を引き継ぐことを伝えるMediumもHacker Newsもありませんでした。
しかし開発者たちはみな、AIやMLが勢いを増し、自動化されつつある仕事の範囲がどんどん広がっていることを知っています。
我々はその事実を全く無視し、CSSで四角形を書いて高給を得る仕事が永遠に続くと信じています。
( プリンタを修理できる人は例外です。あなたは永久に仕事を得られるでしょう )
私はずっと前に、スターやライクの数に惑わされないことを覚えました。
私は今でもOSSが好きで、多くのアプリをOSS化していますが、しかし全てをOSS化しなければならないわけではありません。
おっと勘違いしないでください。
オープンソースであれば絶対に金を稼ぐことはできない、ということではありません。
コミュニティには素晴らしい人がたくさんいます。
生活のためにOSSをしている人もいます。
BabelやWebpackのように高額の報酬が提供されるプロジェクトも存在します。
しかし、ほとんどの開発者がOSSから稼ぐ金額は、ゼロです。
ゼロです。
私にはたくさんの友人がおり (友人とは、私のツイートに2回以上返信した人を表します) 、彼らは素晴らしいアプリやサービスを構築していて、様々な理由で報酬を得ずに問題を無料で解決しようとしていて、そしてIssueの海で溺れています。
どれほど残酷に聞こえようとも、これが悲しい現実です。
GitHub Sponsorsの登場で状況が変わることを本当に期待してはいますが、あくまでオプションでしかないため、有料のSaaSに人々は近寄らないでしょう。
私の思想は、世界中のユーザや企業の時間を大幅に節約できるツールを作るために多くの時間とお金を費やした人は、それだけの報酬を得るべきだというものです。
この点については、このトークでより詳しく解説しているので、興味があれば見てください。
えーと、この記事は何について話していたのでしたっけ。
そうそう、Sizzyです。
ローンチのときが近付きました。
あらゆる計算を行い、既存ユーザのほんの少しでも有料ユーザに移行してくれることを望んでいました。
時間です。
アプリのバージョン0.0.1を公開する準備が整いました。
テストは全て正常に終了しました。
アプリの全ての機能をデモンストレーションするビデオを作成しました。
Twitterにポストする準備ができました。
Product Huntに投稿する準備もできました。
あとはボタンを押すだけでしたが、それはたいへん抵抗のある作業でした。
ツールが無料でなくなったことにより、既存のユーザ全員が鎌を持って自宅の前で待ち構えることになるのではないかと心配していました。
しかし、実際に起こったことについては、心の準備が全くできていなかったのです。
The big launch
マジかよ!
これは完全に予想外だった!
SizzyはProduct Huntで2352票を得て、日間1位、週間1位、そして月間3位の評価を得ました。
Facebookの出したLibraや、Raspberry Pi 4よりも上の順位だったのです。
そんなバナナ?!
さらにリツイートが増えるように、リツイート者から3人に永久ライセンスをプレゼントするキャンペーンをTwitterで実施し、そして実際それはうまくいきました。
応募期間が終わった後、当選者を選ぶための適切なツールが見つからなかったのでLucky Retweetを作りました。
あなたも製品のいくつかをプレゼントしてみてください。
それがうまくいくことに驚くかもしれません。
最終的に3人だけではなく、30人に永久ライセンスをプレゼントしました。
知人のごく一部はののしり声をあげてリツイートしないかもしれませんが、当選者の全員は諸手を挙げて感謝するでしょう。
全体として、とてもポジティブな経験です。
最初のフィードバックは素晴らしいものでした。
最初の購入者が現れ始めたとき、とても信じられませんでした。
発売から1ヶ月半経ちましたが、購入者が現れるたびに同じ気持ちになります。
Haters are always louder
あなたとあなたのチームの時間を月あたり数百時間節約するために、一ヶ月に数ドル払うのは簡単なことです。
今から思えば、私はもっと高く値付けするべきでした。
Sizzyはすごい勢いで売れました。
ランディングページを見れば、Samsung、Bentley、Comcast、Toyota、Sketch、Hallmark、Basecamp、Algoliaといった錚々たる企業が並んでいることがわかるでしょう。
いったい何が起こったのですか?
ツールが時間を節約し、節約した時間で支払った以上の金額を作り出せることを理解できる人であれば、すぐにそれを買って使い始めるというだけのことです。
しかしながら、SaaSプロダクトの値付けのプロフェッショナルであらせられる方々は、より大声で拡散します。
実際の統計を知らずに、外部のコメントだけを見ていると、Sizzyは全然うまくいっていないように思えるかもしれません。
最もよくある彼らのご意見は次のようなものです。
「一回だけの買い切りにさせろ!!!111!11!」
「サブスクリプションにするほどのものではない」
「こんなの無料で配るべき」
「自分で同じもの作って無料配布するわ。こんな強欲企業ぶっ潰してやるぜ。I’m gonna make my own version and distribute it for free because screw these greedy companies that are charging users for something like this」(マジであったコメント)
「これGoogleChromeと同じじゃん」
「2007年にリリースされたChromeエクステンションと同じだから、それを使い続けるよ」
素晴らしいですね。
あなたがこれを使わないこと、あるいは他の類似品を使うことを、誰も止めたりはしませんよ。
衣料品店に入って叫んでみてください。
「これが20ドル?ばかじゃないの?隣の店に行って同じようなものを7ドルで買うわ。自分で縫ったらもっと安くできるわい。」
あるいはスーパーのレジで主張してください。
「この牛乳3ドルもするの?別の店なら2.5ドルで売ってるよ。それどころか自分で牛を飼ったら毎日無料で牛乳を飲めるよ!」
あなたは即座に警備員に叩き出されるでしょう。
しかし悲しいことに、インターネット界隈ではそんな言説が罷り通っています。
製品の値付けに納得がいかなければ、それを購入しないでください。
そのお金でかわりにトールサイズラテを買って、そして手動で画面サイズを変更するために毎週25時間使ってください。
君の実力を見せてやれ!
Focus on the customers
ありがたいことに、私は否定的なコメントを無視することを覚えていたので、無意味な論争に時間を浪費することはあまりありませんでした。
彼らを説得してアプリを購入させようと無駄な労力を費やすかわりに、既に購入した顧客が最高の価値を得られるように注力することにしました。
アプリの立ち上げ以降、我々は絶えずアプリの改善に取り組み、5回のバージョンアップで多くの新機能を盛り込みました。
またユーザがロードマップを確認し、欲しい機能に投票することができるようにTrello Boardも公開しました。
未読メールは山積みになり、私一人では到底捌ききることができなくなりました。
いくつかのツールを試してみましたが、いずれもうまくいきませんでした。
一人でどうにかするのは無理だ、と認識しなければなりませんでした。
プロジェクトのQAを手伝ってくれていた私のガールフレンドが、メールや他の管理タスクを手伝うと申し出ました。
一週間後、私は彼女をパートタイムとして雇い、仕事に使った時間の対価を適切に補償することに決めました。
一部の人々にとっては奇妙に聞こえるかもしれませんが、我々のような人種にとって、仕事と私生活の線引きをすることは、正直なところ困難です。
彼女はあらゆる種類のグッズを売ってプロジェクトを大きく宣伝することも欠かしませんでした。
顧客の全ての要望や苦情に速やかに対処したかったので、彼女の手助けは非常に有用でした。
問題のレポートを修正したあと、アップデートで問題が修正されたことを個別にメールします。
みんながこのカスタマサポートを気に入ってくれました。
このようなスタイルのまま大規模にスケールすることができないことはわかっていますが、できるだけ保てるように最善を尽くすつもりです。
Next steps
現在、Sizzyには1600人のユーザがいます。
これは驚くべきことです。
何故ならば、私がこれまでに行った唯一のマーケティングが、先週あるひとつのニュースレターにスポンサーしただけだからです。
流入のほとんどは、製品に満足したユーザの口コミです。
マーケティングに多くの投資を始める前に、アプリの安定性をさらに高めたいと考えています。
私は、Sizzyをあらゆる開発者やデザイナーが日常的に信頼して使用できるツールにするためのアイデアを幾つも持っており、最終目標にはまだまだ遠いものです。
いずれ100万人のユーザにリーチしたい。
誇大妄想に聞こえるかもしれませんが、私は自分がそこに辿り着けることを知っています。
私と目標の間に経っているものはただひとつ、私だけです。
しかし、私はもう二度と迷いません。
現在の私の焦点はSizzyであり、他の全ては二の次です。
たくさんの客が私に依存していることを知っているため、じっくりと熟睡することは難しいです。
奇妙な感じですが、しかし嫌な感覚ではありません。
次に何が起こるかはわかりません。
5つの大きな投資会社から話がありましたが、ベンチャーキャピタルに売り飛ばすのがいいのかよくわかりません。
私は再び上司が欲しいとも思っているし、しかし上司がいたときは常に仕事で苦労していたからです。
スタートアップの100%を所有しているため、今はできるだけ投資を受けずに成長しようと考えています。
誰にも頼らずにそれを育てるというのは、味わったことのない感覚です。
スタートアップ!?
私、もしかしてスタートアップとか口走ってしまった?
私はこの言葉が大嫌いです。
木っ端開発者がこぞってハローワールドプロジェクトを完成させて速やかにTwitterのプロフィールを『XXのファウンダーCEO』に変更したため、スタートアップの正しい意味は完全に失われました。
私のプロフィールは妄言ではありません。
私はアプリを作っていて、あなたが私をどう呼ぶかは知ったことではありません。
プロフィールを変更しても現実が変わることはありません。
おっと、自分語り記事がこき下ろし記事に化ける前に、これ以上の言及は辞めておくことにします。
Conclusion
- 自分自身の問題を解決する。
- そのソリューションを他者にすぐに見せる。
- 速やかに パッケージ化して配布する (自己批判)
- 売ることを怖がったり恥じたりせず、そしてお金を払わせたからにはがっかりさせないこと。
- プロダクトに価格を付けるのはあなたの仕事であり、他人の言うことなど聞く必要はない。
プロダクトを有償で販売したことに対して他の開発者などがとやかく言ってくるせいで、あなたが次のプロダクトを無償提供してしまうのではないかと危惧しています。
罠に落ちてはいけません!
あなたの仕事に価値があるならば、いくらアンチが声高に非難してきたとしても、それ以上にあなたのプロダクトに喜んでお金を払う顧客を多く得られることでしょう。
かつて有名なレジェンドは言いました。
Cause the players gonna play, play, play, play, play
And the haters gonna hate, hate, hate, hate, hate
Baby, I'm just gonna shake, shake, shake, shake, shake
I shake it off, I shake it off
何かもっと話したいことがあるようでしたら、TwitterのDMなどにどうぞ。
また次の記事で会いましょう👋️
Thanks to Marija Stamadzieva.
コメント欄
「これまでに見たMediumの記事で最高の読み物だ。」
「ちょうどフロントエンドの仕事を得たばっかりでSizzyを購入するとこだったので、Sizzyの100万分の数千のうちひとりになれたみたい。」
「今ReactNativeの仕事やってるけど、Webに戻ったときには是非使うわ。」
「"しかし悲しいことに、インターネット界隈ではそんな言説が罷り通っています" 妻が最近リアル店舗を開いたのだが、同じことを対面で言われた回数は数知れないよ」
「"価格は自分で決めろ" 素晴らしいアドバイスをありがとう」
「結局この世のほとんどは無料ではないのだから、誰かがお金を出さないと何れ持続不能になる」
「あなたの製品は素晴らしいから、その仕事で報酬を受け取るのはよいことだ。」
「あなたは金を出さない顧客を失ったが、金を出さない顧客は何の役にも立たないから切り捨てて正しい。」
「自分もChrome拡張で同じ目に会ったわ。色々やったけど結局邪魔な返信は全削除するのが一番。」
「その引き出しに手を出したくなったとき、この記事を思い出すことにします。」
「開発者が忘れがちな、収益化やビジネスといった要素を思い出させてくれてありがとう。」
「OSSで金を稼ぐことはほとんどできない。それどころか無償で公開したとしてもアンチで溢れ、皆を喜ばせることは難しい。」
「Sizzyのページを見たけど、機能と経験談しか載ってない。これは何をするものなのか、どうしてこれを使うべきかみたいなのも書いてほしい。」
「投資家は高値で売ることしか考えてないから、投資を受けることはプロダクトの使用者にとっていいことだとは思えない。」
コメント欄もほぼ絶賛でした。
訳注
Open Collective:一回のみ、毎月といった単位で寄付できる投げ銭プラットフォーム。
GitHub Sponsors:GitHubに展開しているOSS開発者に寄付できる、GitHub公式の投げ銭サービス。
Stripe / Paddle:オンライン決済代行サービス。
Insomnia:APIの動作確認ができるRESTクライアント。類似品としてPostmanやPostwomanなど。
マルコポーロ:プールで行う鬼ごっこのような遊びらしい。東方見聞録とは全く関係ない。
Twizzy:メニューバーからTweetやDMできるiPhoneアプリのようだ。
VAT:付加価値税。日本の消費税に相当。国毎に税率が違うのでそのへんの対応が面倒らしい。
Lucky Retweet:ツイートと当選者数を入れると、リツイート者の中から当選者を選んでくれるサービス。
Trello:シンプルでわかりやすいタスク管理ツール。
有名なレジェンド:Taylor SwiftのShake It Off。全くどうでもいいが私はこの人を知らなかった。
感想
私はスマホ向けWebサイトを作っていないので(そもそもフロントエンドエンジニアではない)Sizzyも購入していないのですが、そういう要件があったとしたら真っ先に購入すべきアプリであることは間違いありません。
記事中では1600ライセンスということでしたが、軽く数万は売れてもおかしくないであろう優れたツールです。
しかしさすがに100万は言い過ぎな気がしますね。
そもそもそんなにフロントエンドエンジニアいるんですかね?
OSSは市場として最悪なターゲットだというのはよく知られている話です。
日本でもカンパウェアやビールウェアといった任意寄付形式のソフトウェアはすっかり廃れました。
残っているのは最初から有料のソフト、フリーミアムや基本無料といった追加コンテンツ形式、およびユーザ以外から徴収する広告タイプといった、ユーザの良心に一切期待しないタイプばかりです。
この開発者やこれらのアプリは、五月蠅いだけで金も出さない何の役にも立たない連中を切り捨てて、有料アプリに金を出してくれる優良ユーザを囲い込むことで成功した例と言えるでしょう。
もっとも、元のアプリが優れたものであるというのが大事な前提なのですけどね。
私もなんかアプリ売ってだらだら暮らしたいわー。
でも売れるアプリを作るのもめんどいから誰か作って全権利を無償で譲ってほしいわー。
ところで"isn't that bananas?!"って「そんなバナナ?!」以外になんと訳せばいいんだろう。