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【芸能・社会】

松本白鸚「ラ・マンチャ」奇跡の50年…これほど幸せな作品と俳優の巡り合わせは、そうそうない

2019年10月15日 22時58分

ドン・キホーテを演じる松本白鸚(東宝提供)

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 連日スタンディングオベーションが止まらない。ミュージカル「ラ・マンチャの男」が、初演以来50周年を迎え、大阪、仙台、名古屋と巡ってきた最新のカンパニーが帝国劇場を、大人の熱気で満たしている。

 1969年の初演当時26歳だった主演の市川染五郎は、松本幸四郎と名を代え、さらに松本白鸚となって演じ続けていることは、まさに「奇跡」。華やかなミュージカルばかりの中で、一見暗く重厚な作品を、製作の東宝スタッフが「どう宣伝していいか分からない」という暗中模索の船出だった。

が、翌年、ブロードウェイに招かれた染五郎は、外国人キャストばかりの中で英語で60回のステージをつとめあげ、成功を収める。日本の演劇史に残る偉業は、すぐに名古屋、東京の凱旋公演で歓迎を受けた。

詩人で税官吏のセルバンテスが投獄されるのが物語の発端。そこでは、本来の裁判の前に、囚人達によって“裁判”にかけられ、その申し開きとして劇中劇が展開される。セルバンテスが田舎郷士のキハーナにふんし、さらに遍歴の騎士ドン・キホーテとなって冒険を繰り広げる。

三重構造を理解すれば、決して難解ではなく、ユーモラスなシーンはたびたび笑いも誘う。

かつて歌舞伎の世界と現代劇やミュージカルを演じるのに、マニュアルで切り替えていた白鸚は、いつしかオートマチックでギアチェンジできるようになったという。

年輪を経て、役と演じ手が重なって見えることが、より深く観客の胸に響いてくるのではないか。騎士などとうの昔にいなくなったはずなのに、「見果てぬ夢」に向かって旅する姿は、芸の道を究めようといばらの道を走り続けてきた、今を生きる白鸚そのものに映る瞬間がある。

 珠玉のセリフと名曲の数々。これほど幸せな作品と俳優の巡り合わせは、そうそうない。そして、50年。やはり奇跡と言うしかない。

ほかに瀬奈じゅん、駒田一ら。脚本デール・ワッサーマン、音楽ミッチ・リー、演出松本白鸚。(本庄雅之)

 

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