文政権をめぐる韓国の「分裂」の現在地〜「200万人デモ」の実態

韓国の人々は怒り、心配し、困っている
伊東 順子 プロフィール

詳しくは後述するが、韓国は検察の権力が極めて強く、文在寅大統領にとって検察改革はかねてからの悲願であった。その改革の理論的支柱とも言えるのが、現在、疑惑の渦中にあるチョグク氏である。文大統領がチョグク氏を法務部長官に就任させたのも、まさに検察改革のためだった。

大検察庁前では以前からも、その改革を支持する人々の集会が行われてはいたが、小さなものだった。それが28日に突如、みんながびっくりするほど大きなものになったのだ。

「あそこで200万? いくらなんでも無理でしょう」「あり得ない。どれだけ集まっても20万人ぐらいじゃないか」「まあ主催者発表とはそんなもんだよ」「いや、盛りすぎだ」

たちまちにしてSNSでは疑問の声が上がっていた。韓国では警察が参加者の人数を発表しないため、メディアは主催者側の発表と独自調査で数字を出す。実際、一部のメディアは200万人という数字をそのまま見出しにして掲載した。

 

「あれは検察の罠だ」

この数字がある意味、起爆剤になったとも言える。その数字に陶酔する人、その数字に反発する人。それは今の韓国における対立を象徴するものだった。その日のうちに、私の身近でも対立が起きていた。

現場近くに住む友人の夫(50代)はSNSで集会の情報を入手し、一人で出かけていったという。

「ちょっと様子を見てくる」

そして帰ってくるやいなや、興奮冷めやらぬ様子でまくし立てたそうだ。

「おい、200万人だぞ、わかるか。これが韓国民主主義の真骨頂だ。もう検察の好きにはさせない」

「200万人?! うっそでしょう。あそこにそんな集まれるわけないし。それになんであなたがチョグクのためのデモに行くの? チョグクはいろいろ問題があるじゃないの」

夫が持ち帰ったチラシには「チョグク守護」と書いてあった。

「検察の罠なんだよ、あれは」

その日は夫のテンションはとても高く、ずっと話を止めなかったという。