文政権をめぐる韓国の「分裂」の現在地〜「200万人デモ」の実態

韓国の人々は怒り、心配し、困っている
伊東 順子 プロフィール

「途中で反論するのをやめました。早く寝たかったから。それに検察改革は必要だとしても、チョググ守護というのはおかしいと思うんですよ。もう喧嘩になりそう」

実は、この「チョグク守護」の部分がひっかかるという人は少なくない。だからこの日、隣で小さく行われていた保守派による「チョグク反対集会」にもついでに参加した人、つまり両方の集会にダブル参加した人もいるのではないかと、その時点では言われていた。それほど錯綜していたのだ。

友人の夫だって、当初は「様子を見に行った」だけだった。私自身も「守護」という言葉に、かつて盧武鉉大統領を守れなかったことへの慚愧は感じたが、それでも理解できないことが多かった(盧武鉉元大統領もやはり検察改革を行おうとして道半ばで倒れた。しかも自ら命を断つ3週間前に、検察に出頭して過酷な尋問を受けていた)。

 

燃え上がる「反政権」デモ

しかし、この「200万人」が双方を刺激した。10月3日にはこれに対抗する野党と保守派の集会が、今度は光化門で開かれた。こちらのスローガンは「チョグク辞任、文政権退陣」である。

チョグク長官一家への深まる疑惑、それにともなう国民的不信を背景に、情勢は野党にとって有利に動いていると思われてきた。そこに飛び込んできた200万人という数字。信憑性はともかく、それが拡散していく状況に危機感を感じた。それが全国的な結集につながった。

友人のお母さん(60代後半)は釜山からこの集会のために、チャーターバスに乗ってソウルにやって来た。

「母は政治的な人ではありません。でも、矢も盾もたまらず、友だちと一緒に来たというのです」

日頃、保守派の集会といえば一部のプロテスタントの教会や軍人会などの組織動員が多いのだが、この日の様子は違っていた。野党関係者は「あの瑞草洞が200万人なら、今日は300万人だと」と発言したが、実際にこの日の光化門に集まった人が、瑞草洞をはるかに超えていたのは航空写真などからも一目瞭然だった。参加者は実際にも100万人を超えていたと言われ、それは保守派の集会としては過去最高だった。