ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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・この物語は番外編であり、蛇足です。
・作中に出てくるものを食べていたら書きたくなった駄文です。

 以上を踏まえた上でお読み下さい。


【番外編 閑話】狂信者の聖餐

「わたくしは今回、アインズ・ウール・ゴウン魔導国を実際に旅することで、様々な知識を得ることが叶いました。信じられるでしょうか?多種族が共存し、手を取り笑い合う子どもたちの姿を。信じられるでしょうか?犯罪に怯えることのない素敵な世界を。信じられるでしょうか?恐るべき天使達の脅威へ立ち向かう、己を恐れ唾棄した民達を護る清廉で勇ましき英雄の姿を。」

 

 ここは『魔導王陛下に感謝を送る会(仮)』総本部。会議室。今行われているのは、ネイア・バラハが旗手となり活動することで魔導王陛下へ絶対の忠誠を約束した同志たちで行われる〝魔導王陛下へ感謝を込めて〟という行事であり、身内内での語らいだ。

 

 多くの聴衆に向け演説するときの様に、アインズ様が如何に素晴らしいかの偉業を声高らかに語り、大衆を惹きつけ煽動し、熱狂渦巻く過激とも言える空気を作りあげるのではなく、優しく諭すよう、それこそ信徒に説法を説く聖者の如き、静かに語りかける演説だ。

 

 【凶眼の伝道師】として、どちらの演説能力も高く持ち合わせているネイアだが、意図的に使い分けている訳ではない。既に魔導王陛下の素晴らしさを分かち合いし同志達の前では、よりどのようにアインズ様が素晴らしいかを、建設的かつ論理的に語った方が、相手も自身も嬉しいし楽しいと思ったに過ぎない。

 

 ……この〝使い分け〟こそが、【凶眼の伝道師】の真なる恐ろしさであると、ネイア本人にさえ自覚はない。

 

 ネイアは多忙になった今でも、この同志たちと語り合う〝魔導王陛下へ感謝を込めて〟を好み、同志たちとの直接のコミュニケーションも精力的にこなした。そして〝魔導国の聖地巡礼〟を行ったネイアの下には多くの同志が話を聞きたいとひっきりなしに訪れる。

 

 ネイアもその要望を嬉しく思い、多忙な中でも老若男女の同志に分け隔てなく、笑顔と力強い握手で応え、時間が許せばこうして語らいもする。

 

「……と、以上の出来事こそわたくしが聖地魔導国で見た、アインズ様の素晴らしき統治であり、今のローブル聖王国に必要なのはアインズ様の御慈悲であると至った根拠に御座います。」

 

 会議室内から大きな拍手が轟く。ネイアは同志に貴賤などないと考えている。相手が大貴族だろうと豪商だろうと貧困者であろうと亜人だろうとアンデッドだろうと、アインズ様の偉大なる愛の前では全てが平等だ。

 

「バラハ様素晴らしいお話でした。やはり現在のローブル聖王国には魔導王陛下こそが必要です。」

 

「未だ無知蒙昧な、神殿や南貴族は憐れですな。魔導王陛下の偉大さを知らないがばかりに、愚かな行動までとってしまう。」

 

「ええ、そのためにも我々は、より強くならなければならないのです。ローブル聖王国の民のために、そしてアインズ様のために。アインズ様の素晴らしさを多くの民へ理解してもらうために。」

 

 そうして静かな拍手が鳴り響く。今日は大衆への演説はなく、本部で4度の〝魔導王陛下へ感謝を込めて〟が予定されている。参加者は厳正な抽選で選ばれた人間で、全員が参加出来る事を誇らしく思っていた。

 

「では、アインズ様から賜りました神器を用いた軽食とお飲み物をご用意しますね。」

 

 語らいの参加者は、いつもネイアが演説をする聴衆と比べれば少ないがそれでも50人を越える。しかし同志たちを前に、アインズ様から賜った神器を独り占めする真似など出来ない。かといって神器……氷結の魔道具で50人分のアイスクリームなど作れないので、ネイアが導き出したのが……。

 

「これは氷結された葡萄でしょうか?」

 

 皿に盛られて出てきたのは、氷のようにキンキンに冷えた葡萄の実だった。酒造りなどでローブル聖王国でも夏に多く収穫され、神官のいる教会にも多くの木が植えてある。しかし大抵は干して保存するか、収穫して熟してから果汁を足で踏み搾り取る。

 

 実をそのまま食べることは多いが、氷結されて出てくることなど無い。冷洞窟を持つ貴族など、ごく一部の裕福な層しか口にできない。ましてや真冬でもなく、冷洞窟もない首都ホバンスでは非常に稀少な品だ。

 

 ネイアはシズ先輩と一緒に様々な果物を氷結の神器(れいとうこ)で凍らせて実験(あそんで)していたが、個人的な好みは葡萄だ。美味しい上に沢山出来上がるし、酸っぱくてあまり好みではなかった葡萄が、凍らせるだけで立派なお菓子に化けるのだ。

 

「はい、神器を用い作製したものです。アインズ様より賜った聖餐です。皆様どうぞお召し上がり下さい。」

 

 清貧を尊び、未だ復興途上の聖王国で贅沢は敵であるが、無数に生っている葡萄の粒を氷結させただけだ。同志と語らいをする場での聖餐ならば許されるだろう。……ほぼ言い訳に近いが。ネイアは同志達がアインズ様へ祈りを捧げ、口にするのを見る。そして皆が驚きの声を挙げるのを見て満足する。

 

「これは素晴らしい、軽い感触が口の中で溶けて消える!」

 

「ええ、食感も味わいもわたしの知る葡萄と桁違いです。サクリとした食感が口の熱で溶け、果汁が喉を通って潤していくのが気持ちいい。」

 

 同志たちの賛美に胸を熱くさせ、ネイアも一口凍結葡萄を囓る。多くを語り、熱の残る乾いた喉へ鋭い冷たさが心地よく滑り、冷気を残した果汁が口腔に広がって喉を通る。そして口に残るのは冷たい甘みの余韻、その余韻が残るまま水を飲むだけで、頭がスッと冴えていく。

 

「では、喉も潤ったところで、またアインズ様の素晴らしさを語り合いましょう。」

 

 こうして狂信者たちの聖餐は終わり、再び会議室で静かな熱の篭もった語らいが始まる。


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