これが、2018年5月に経済産業省と特許庁から発表された「デザイン経営」宣言の主旨です。私も宣言作りのコアメンバーを務めました。この宣言では、デザインを「イノベーション力」と「ブランド力」として捉え、産業力強化に活用する方向性が示されました。
AppleやGoogle、Netflixといった成功例が示すとおり、インターネット時代がもたらした大きなビジネスの変化は、作り手と消費者のあいだのつながり方の変化です。
一昔前の私たちは、たとえばICレコーダーを買う場合、家電量販店にいき、カタログを見たり説明を聞いたりしながら商品を選んで買っていました。お金を払った時点で商品の所有権が自分に移り、あとは壊れるまで使う。単発の決済が完了した時点で、売り主と消費者の関係性が切れる「売り切り型」のビジネスです。
このようなビジネスの性質は、提供者である企業の姿勢に大きな影響を与えています。その影響の中でも顕著なのが、企業がユーザーに対して持つ目線の重心が「ユーザーが商品を買うまでのタイミング」に集中することです。ユーザーにプロダクトを知ってもらうための広告、店頭で同じ棚に並ぶ類似商品との機能や値段の比較、販売員との会話などです。
量販店のレジでお金を払った時点で両者の接点は切れるため、買ったICレコーダーの使い勝手が悪いとか、期待していたほど高音質ではないといった多少の不満があっても、大半の人はわざわざコールセンターの番号を調べてクレームの電話をかけることはありません。「まあ、あの値段だからこんなものか」と気持ちを切り替えてとりあえず使い続けるでしょう。
そのためユーザーのリアルな声はメーカーになかなか届きません。これが従来のビジネスでした。ソフトウェアにしても、昔はわざわざMicrosoftのOfficeやAdobeのPhotoshopを量販店で買っていたものです。売り切り型は当然価格設定が高いので、ユーザーは元を取るまでソフトウェアを乗り換えません。
しかし、いまの時代、こうしたソフトウェアでさえも、どんどんSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)化されています。完成品に対して一括でお金を払うのではなく、月額払いで使用料を支払う。「サブスクリプション型」と呼ばれるモデルです。