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エミリーミレットの恋人たち~The stories for Millettinum~ 作者:Emily Millet
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品川駅アトレ3階で 31/05/2019

第一章~first vite~


「Just go, I’ll keep this seat for you.」

(いいよ、席取っとく。)



低くて、少し曇った声。片眉上げて笑ってた。


品川駅で、知らない人に親切にされることって珍しい。

特に、私みたいな中国系アメリカ人なんて殆んど警戒されるばかりなんだよ。

アメリカ人って気づかれないことも多い。東京に住んで2年たつけど、白人or黒人or中国人、もしくはそれ以外のアジア人、で外人を分類する東京のスタンダードってさ、もう慣れたけどさ、やっぱりちょっと寂しい。

なんで警戒されるんだろうね、キツそうに見えるのかな。無理やりブリーチしてるこの金髪のせいかな。

でもさ、ソノヒトはなんか違ったんだよ。

理由? そうだな、英語の発音が柔らかくて、優しそうだったから?

わかんないけどなんかさ、ウマが合いそうな気がしたんだよ。


英語で「ウマが合った」を“We are Clicked”(ウイアークリックトゥ)って言うんだよね。

ソノヒトの笑顔を見たとき、私の頭の中のマウスが、カチカチッ。

ダブルクリックする音響かせた。



金曜の品川駅はそわそわしてる。


夕方18時を過ぎるとそわそわは加速度を増す。新幹線口へ急ぐ出張者と待ち合わせに向かうグループがオフィスワーカー達を邪魔する。ちょっとしたカオスが生まれて、高輪口から港南口までの通路は競歩会場になる。

天井が高いのが唯一の救いかな、でもそのせいでね、もうね、イワシだけの水族館状態だよ。

広い広い通路の、中央は港南口目指す群れ、両ハジは高輪口目指す群れ。自分もこの群れに属してるだなんてゾッとしちゃう、少なくともせっかくの休日に巻き込まれたくない場所かな。

イワシごっこはごめんだから、夜ご飯にしようと思ってアトレ品川に入ったの。

たしか3階に渋谷にも店舗のあるメキシカンフードの店があるからね。週に一度はタコスを食べなきゃ。カリフォルニア出身の私にとってサルサソースは、ほら、<飲み物>だから。


 3階のフードコートでサラダボウル(ビーフのタコスの具がサラダになってるんだよ、美味しいよ、試してみて)をオーダーして、込み合うテーブルの中でどうにか席をみつけて腰をおろした。

右隣はラップトップで前後向かい合って仕事してる無言のカップル、

向かいの席は、本読みながらハンバーグ弁当食べている女性。

左隣は、いかにも神経質そうなスーツの男性がスシとビールとスマホゲームを楽しんでいた。

通路には大きなスーツケースを転がしながら、空席を探す白人の旅行者が数人ウロウロしてる。

ふうと一息つく間もなく、握りしめてた商品出来上がりアラームが光った。

背の高いスツールから腰をあげると、マズイことに気づいた。


席をとっておくための適当な小物を持っていない。


今日は暑くて上着を着ていない、

バッグはお財布兼小物入れだし、古いけどプラダだ。絶対手放せない。

アイフォン? 絶対に席取りには使えない、フードカウンターで私の番号が呼ばれている。

カウンターとテーブルで視点を行ったり来たりさせる。


すると、焦っている私の目の前に、向かいに座っている人が黒いカマボコ型の物体を置いた。


(続きは後編で)


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