7.不憫な子供認定されてしまいました
2話から登場します変態お兄さんズの名前変更しました。
アル→レイ
ユース→ジル
です。
一応ご報告までに!
「それで?お前は何処から来たんだ?国は?親はどうした?」
おぉう…矢継ぎ早に聞いてきますね、変態お兄さん。
「空から。日本。両親は家。です、変態お兄さん」
「だーかーらー!変態じゃないの!ジルっていう素敵な名前があるの!」
ジル・バルザックというこの変態お兄さんその二は、明るい栗色の髪とエメラルドのような緑の瞳で、顔も彫りが深い。多分背も高い。椅子に座っているからなんとなくだけど、座高が既に高い。どうしよう、立ったらめっちゃ足が短かったら…わたし笑い死ぬ!
どうでもいいことをついつい考えてしまって話半分にしか聞いていない。それがわかってるのか、真面目に聞きなさいと言ってわたしの頬を両手で挟んでムギュっとしてくる。鬱陶しい。
「ニホン…という国も初めて聞きますね。」
変態敬語紳士はレイといって、レイナルド・アンクティルが本名。
あぁ…絶対覚えられない。五分後に聞かれても答えられない自信がある。アンクティルの部分がキューティクルだったら忘れない。
そのキューティクルが満遍なく輝く長い銀髪を低い位置で一本に束ね背中の真ん中程まである。男性の生ロン毛は初めて見たかも。しかも天然の銀髪って存在するの?瞳も髪色と似たグレーで真顔になると冷たそうな印象がある。ニコニコしている顔しか見ていないので今は穏和なへんた…じゃなくて、穏和なお兄さんといった雰囲気だ。
しかし…うーむ、どこまで本当のこと話しても大丈夫なものか。
わたしの浅いラノベ的知識からすると、あまり異世界から来たことや本名なんかも明かさない方が身のため、というのが通説なんだけど。『勇者』とか『聖女』とか目的があって召喚されましたっていうなら違ってくるんだろうけど。あたしはどうやらお呼びで無い。真相を明かして『ちょっとイタイ子?』で終わるならそれでいいけれど、何かに利用されたり最悪殺されたりとかは勘弁だ。
一年後には元の世界に戻れることを考えると大人しく時が過ぎるのを待つ方が得策だよねぇ。
「ニホンは物凄い秘境の地で恐らく知ってる方が珍しいと思います。現在鎖国中なんです!」
「秘境?…カズハ、貴方の国はこの国の文化レベルと比べ劣っていると感じますか?進んでいると思いますか?」
「ニホンの方が劣っています!物凄く!それはもう百年くらいは余裕で!」
本当は百年以上は進んでいると思うけど、そんな先進国を普通は知らないわけがない。というか、この国こそ他の近隣諸国に比べてどの程度のレベル?大国?小国?内陸?島国?
あまり深く聞いても墓穴を掘りそうでこちらからは必要最低限のことしか質問しないことにした。
あ…あれ?えーと…お三方、何かな、その胡散臭そうな目でわたしを見るのは
「カズハちゃんは貴族の娘なの?」
「貴族?!」
日常会話で滅多に御目にかかれない単語に、わたしの頭の中でルネッサーンス!が木霊する…。
「違うの?」
「まさかまさか!ただの一般庶民です。わたしの国には身分制度はありません。」
「身分制度が無い?成り立つのか?」
「え?まぁ…メリット・デメリットはありますが、成り立ってはいますよ」
「ますます不思議な国ですね…。そんな特殊な国家を我が国が把握していないなんて有り得ますかね…」
ルーシーさん、ジルさん、レイナルドさんの順に質問がきたけど…まずい…喋りすぎた?ますます怪しいといった目を向けてくる。ひぃぃぃ!かといって、今更撤回しても更に怪しまれるだけだよね…あぁぁぁ。
というか、何処にひっかかったのかすらわからない!
「それでは何故空から?」
「それは気付いたら落とされてて…。家を出た所までしか覚えていません。」
大まかには合ってます。大きな嘘はついてません!
「?!…やっぱりそうか!」
え?何がやっぱりなの?
「あなたは拐われたのではありませんか?」
「なんてこと!?こんな子どもを?!」
「やつらは手段も慈悲も持ち合わせていないだろ」
どうしよう…何からつっこめばいいの?!
「ここ1ヶ月ほど前から人身売買の集団がこの国で活動を始めたようなのです。いえ、まだこの領地内で済んでいますが…。カズハの瞳は黒、大変に珍しいのですよ。私も初めてお会いしました。髪の色も周辺諸国では見ない色素の濃さです。あなたの国ではそれが普通なのですか?」
「ええ、まあ。ごく一般的な色ですよ?」
瞳は確かに黒、厳密には黒に近い茶色だけど、髪は実は染めているんだよね。わりと明るめの茶色にしているけど確かに此処にいる三人は色素が薄い。比べるとわたしの染色は濃いめの茶色という風になるんだろうなぁ。
これ、髪が伸びて地毛の黒が顔を出し始めるとどうなるんだろう?更に珍しいってなるの?
いやいや、まてまて。それより人身売買の集団って何だよ?怖いよ!え?狙われる可能性があるってこと?
「あの…わたしの様に色素が濃いめの人種は狙われやすいってことですか?拐われたらその後はどうなるの?」
「…あまり聞かせたくはないな」
ひいぃぃぃぃぃぃっ!何?!言うのが憚れるほど恐ろしい末路なの?!ど…奴隷とか?!はっ!!珍しい目…まさかくり貫かれて標本とか?!荷物の中にカラコン…は流石に用意してないよぉ!こうなるんだったら髪ももっと冒険してブリーチして金髪にしちゃえば良かったよぉ!
…絶対似合わないけどっ!
「ま、大方お前の想像している通りだよ。特に女は色んな使い方がある。目玉をくり貫かれて死んだ方がマシだと思わせるような屈辱的な扱いを受けることもあるん――ってぇ!!」
ゴスッと鈍くも小気味の良い音がした。
「こっのバカ!!子供に話す内容じゃないわよ!」
「ぐっ!…確かにそうだ、悪かった。でもどうもカズハと話してると子供というのを忘れがちに…っだぁ!!」
「言い分けはしない!」
美女が怒ると迫力あるな~。ジルさん二回ほど本の角で思いっきり殴られてたけど大丈夫?普通の人間は一発KOだと思うわ。そしてわたしは一体いくつに見られているのだろうか…へこみそうで聞けない。
でも屈辱的なって…やっぱあれかな?奴隷は奴隷でも女の尊厳散らすような意味合いなのかな。嫌だな、絶対捕まりたくない。でも一年は戻れないし、その間の家も資金も無い。前途多難だ。
この国に人身売買の集団がいるのなら、外に出て違う国に行く?…いや、だから資金が無いんだってば…。
それに遠くにフラフラと移動してても一年後ちゃんと銀髪発光美女様はわたしのことを見つけてくれるの?ああっ!もう!
銀髪発光美女様~!早く迎えに来て~!
…迎えに来てくれるんだよね?
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いつの間にか外が暗くなり、気付いたら夜になっていた。時差ぼけのように感覚が少し鈍っていたみたいだ。今はさっきいた部屋の窓から星空を眺めている。
「世界が変わっても空は一緒なんだね…星が綺麗だなぁ」
あれからわたしは人拐いにあった不憫な子供認定されてしまい、気を遣ってかそれ以上のことは聞かれることはなく、取り敢えず今日はこのまま泊まることになった。
事実とは多少違ってはいるけれど結果良ければ全て良し!ということで、何とか異世界初日から野宿は免れた。
日も暮れて夕飯のお誘いがあったけど、それもパス!やっぱりなんだかんだと疲れているし、小腹が空いてもまだまだ大量のお菓子がボストンバッグには入ってるのでお腹を満たすことは出来る。ただ、飲み物がね~!あとでお水とか貰えるかな?お腹が空いたらいつでも下に降りてらっしゃい!ってルーシーさんが言ってたし。
ちなみに、わたしの今いるこの建物は二階建てで一階が飲食店、二階が宿泊用なんだそう。わたしがいるのは二階の一室で、なんと!ルーシーさんは宿泊施設のオーナーなんだって!使わせてもらっている部屋は普段は客室ではなく従業員の仮眠室に利用されてるとのこと。
一階の飲食店はまた違うオーナーさんがいて、ルーシーさんとは友人関係。共同経営のようなものなんだとか。
ルーシーさん、レイナルドさん、ジルさんは下で夕飯をとっている。
ガヤガヤと賑やかな声やたまに怒声、カチャカチャと食器がぶつかる音が途切れることなく聞こえてくるから、多分レストランというよりは居酒屋に近いのかな?
「そうだ、日記つけなきゃ」
もともと留学中は毎日日記を書こうと思って持ってきていたノートがある。
それよりなにより!名前よ、な・ま・え!横文字が苦手なのよ。忘れないうちに三人の名前書いておかなきゃ次会った時確実に思い出せないもの。
7月21日(日本基準)
家から一歩出たら銀髪発光美女が現れ湖に落とされました。
第一村人ならぬ、第一異世界人の変態お兄さん二人組と遭遇し、人生初のお姫様抱っこも経験。相手が変態でなければ尚良し。
その後キャサリン・◯◯・ジョーンズ似の美人と知り合い内心ハァハァしました。
一口メモ
銀髪ロン毛→レイナルド…何とかさん…。敬語紳士。
栗髪緑眼→ジル・バ…バ…濁点多かった感じの家名
キャサリン・◯◯・ジョーンズ→ルーシーさん。金髪碧眼。
あぁぁ…小学生が書くような日記になってしまった!…書き直す…のも面倒臭いし…というか…眠い。疲れた…あ、着替えてからベッド入らないと…面倒臭い…下から美味しそうな匂い…お腹…減った…ダメだ…疲れて何もしたく…ない…眠…い…Zzz
机にに突っ伏したままあっという間に眠りに落てしまった。