【ラグビーW杯】 「日本は歴史的瞬間に値する」 W杯優勝したBBCコラムニスト
マット・ドーソン、BBCスポーツ・コラムニスト
スコットランドを破ってベスト8入りした日本は「誰も対戦したくないチーム」――。ラグビーの元イングランド代表で、2003年のワールドカップ(W杯)優勝時にスクラムハーフとして活躍したマット・ドーソンはそう語った。
W杯で日本が初めて準々決勝に進出したのは、世界のラグビーにとって大きな前進だ。私たちはこの歴史的な瞬間を前向きに受け止めるべきだ。
ブレイヴ・ブラッサムズ(日本代表)が日曜日、横浜でスコットランドに28-21で勝利した試合は空前の一戦だった。
彼らは闘志あふれるプレーをし、驚異的な正確さで素早くボールを回し、その能力を見せつけた。
前半の日本のトライを止められたチームは、ほとんど存在しないだろう。
日本が大会を制覇するとは思わない。だが、どのチームも日本とは対戦したくないだろう。
開催国の日本が1次リーグを突破したことは、関わったすべての人のことを思うと、本当に喜ばしい。単にチームや選手だけではなく、日本のすべての人にとって素晴らしいことだ。
ワールドラグビー(国際統括団体)にとっても喜ばしいことだと思う。この日の試合開催を、台風ハギビス(19号)の通過まで待って判断したのは適切だった。
大会は極めて多くの観客を引き寄せており、日本は見事な開催ぶりを見せている。今大会の盛り上がりはW杯史上最高とまでは言えないかもしれないが、トップクラスであることは疑いない。
文句言わず、釜石の復旧を支援
スコットランド戦で勝利する中で、選手たちがいくらか感情的になっていたとしても驚きではない。彼らは一人ひとり、今週の大量のメディア報道に触れ、おそらく傷ついていた。
この大会は、試合が中止となった大会として人々の記憶に刻まれるのではないか。人々の関心は突然、そこに集まった。
発生したことの深刻さを軽く見ようとしていた人がいたのは信じられないことだった。自然災害によって不幸にも人々が死傷したのは現実だ。それはどんなスポーツや試合よりも優先されることだ。
これはラグビーというゲームだ。自分で中止という事態を乗り越え、大事なことに集中しなくてはならない。
カナダ対ナミビアの試合は日曜朝、安全面への懸念を理由に中止された。だが選手たちは、泣き言や文句を並べ立てることはしなかった。
彼らがしたのは、試合が予定されていた釜石の復旧作業の手伝いだった。
スポーツ界ではときどき、巨大な商業主義がからむため、人々はやや先を急ぎがちになる。
感銘与えたピッチ内外の姿勢
日本はピッチの中でも外でも、決勝トーナメント進出に値する。
猛烈な台風が直撃する中で、日曜日の試合開催決定を受け止めるのは、ものすごい努力が必要だっただろう。
試合に向ける情熱と感情は、メディアや友人から「聞いたか、やるのか、中止か?」と聞かれ続けることで、いやでも高まった。
チームのミーティングのたび、「よし、試合はあると考えて集中しよう。変更されるならそれでもいいが、試合をする前提で今週は準備を進めよう」と言われるのだ。
ピッチの外では、日本が国としてじっと耐えているのを見て、多くの人が感銘を受けただろう。
日本は、台風が過ぎた後に素早く復旧させるインフラと能力をもっている。横浜と東京が踏ん張り、「世界が注目している。何としてもやり抜く」と言っているのはすごいことだ。
日本が準々決勝で南アフリカと対決するのは、彼らが独自のスタイルでプレーしているからだ。オールブラックス(ニュージーランド代表)でさえ、日本がときに見せるレベルの速さではプレーできない。
日本の狭いサイドから広いサイドへの展開は驚異的だ。さまざまな状況から見事なスピードでボールをワイドに出し、ボールに向かって素早く走る。
ピッチの端を福岡堅樹と松島幸太朗に走られると、止めるのは非常に困難だ。彼らの動きはまさに電撃的で、それはトライを決めるときだけでなく、彼らをサポートする味方ラインやフォワードのフットワーク、中島イシレリのように後ろから来て前線に勢いを与える選手にも見てとれる。
選手たちは自信にあふれていた。スクラムハーフの流大は、スコットランド相手に試合を主導した。彼は自分たちのチームの強みと、敵の弱みをわかっていた。
日本は対戦相手にとってやっかいな、独自のラグビースタイルを生み出しつつある。だがそれは、ものすごい体力を必要とする。日曜の試合の最後15~20分でやや疲れが見えたのは、たぶんそのためだろう。
来週に向け、彼らは休息を取り、体力を回復する必要がある。
準々決勝で波乱か
日本の準々決勝進出が話題になっているが、過去にも1次リーグでの番狂わせはある。
2015年には日本が南アフリカを破っている。だが、スプリングボックス(南アフリカ代表)は当時、かなり不調で、日本が相手の平均レベルのパフォーマンスに乗じた格好だった。
今回、南アフリカが負けるとは思わない。日本にとってはスコットランド戦を終えたばかりで、非常に大きな代表戦を連続して戦うことになるからだ。
休養たっぷりで好調の南アフリカは、日本にはやや強敵に過ぎるだろう。
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ニュージーランドがアイルランドに敗れることも想像できない。しかし、ウェールズ対フランス、イングランド対オーストラリアの2試合は予想が難しい。
ワラビーズ(オーストラリア代表)はまだ本調子ではないが、満を持している。イングランドは1次リーグのフランス戦が中止され2週間の休養に恵まれたが、少し動きが悪くなっている可能性がある。
2週間試合がないのは、かなり厄介な状況だ。イングランドは試合に戻るとすぐ、いい動きを取り戻さないとならない。
いろんな練習は積んでいるが、必ずしもそうした状況を前提とした精神的、身体的な準備をしているとは限らない。
負ければ終わりの試合では、すべてが結果を左右する。
審判もプレッシャーを感じ、緊張するだろう。選手も監督も同じだ。
どんな判断を下すのか? 雰囲気はどんな感じか? どちらがホームチームでプレーしているように感じられるのか? 試合環境とピッチのコンディションはどんな状況か?
勝敗をめぐって、非常に多くの要素が影響を及ぼす。
準決勝はウェールズ対南アフリカ、イングランド対ニュージーランドの組み合わせになると言い切れるほど単純ではない。番狂わせはあると思う。