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銭湯 作者:聖魔光闇
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其の十六

 レインコートマンもとい、雫さんのお父様に「来い」と言われて、「嫌だ」とは言えずに一週間ぶりに来てしまった。


『う〜ん。懐かしいなぁ……』


 と思いつつ、通い慣れた銭湯を見上げる。「早く来るのでゴザイマス!!」と言われた気がして、急いで中に入ろうかと思ったが、ここでの日課をこなしておかないと気持ちが悪いので、《ご利用者様へ》と書かれた看板に近付いた。


 利用料大人(中学生以上)四百円五十円。小人(未修園児を除く)二百円。バスタオル・洗面器・入浴用玩具・石鹸・ボディソープ・シャンプー・リンス・コンディショナー・洗顔石鹸・フェイスソープ・脱色剤・脱毛剤・育毛剤・洗体タオル・頭髪用ブラシ・ドライヤー・くし・飲食物・開くと別の場所に繋がるドア・凍らせる為の大きな電子レンジ等の持ち込み禁止。また、ここはプールではございませんので、ご遊泳は禁止させていただきます。


『あれ? 料金、高くなってる? ん? 気のせいか? まあ、そんな事ぁもうこの際どうでもいい。開くと別の場所に繋がるドアって! こらこら、著作権違法に繋がるぞ。それよか、凍らせる為の大きな電子レンジって何だ!? 電子レンジって温めたり、解凍する物だろ? そんな家具、何処の電化量販店に行ったら売ってんだ? 等の意味も全くわからんし……。つーか、風呂まで来て泳がんわ!! いや、子供は泳ぐのか? でも、浴槽狭くなったじゃねぇか!! あのでっかいサウナのせいで……』と思いつつ中に入る。


 身体に入れ墨のある方・頭髪を過剰に染めている方・浴槽内で排泄される方・背広、タキシード、スーツ、ドレス・セレブ衣装を着用された方々・ラクダに乗るとピーマンになる方・お車でご来場の方・パンストを頭に被ってご来場される方等のお客様には、当店のご利用を御控えさせていただく場合がございます。ご自由に入浴をお楽しみ下さい。


『さてと……だ。日課のまとめも久しぶりだな。マトモじゃないのは当然だ。《ラクダに乗るとピーマンになる方》って……。何だ? 特異体質か何かか? 《お車でご来場の方》って? じゃあ、この大駐車場は何の為にあるんだ? 《パンストを被ってご来場される方》って、もう芸人レベルだな。てか、パンストを被って家からここまで来るの? 恥ずかしいわ!! セレブ衣装に関してはもう放っておこう。どうやら僕には理解出来ないものらしい……。で、この案内書きで、どう自由に楽しめと……』


 入口の自動ドアを開くと、目の前にもう一枚の自動ドアがある。


《ドアを開く前に、右横にあるボタンを押してください》


 ここは、いつものように書かれている通りにボタンを押す。降ってきたのは白い粉だった。


『冷たっ!』


 身の危険を感じ、すぐに次の扉を開く。


《ただいまのは、ドライアイスでございます》


『前と同じじゃないか!? バリエーションないのか?』


 前を見ると、また自動ドアがあり、《お風呂の前に服を脱ぎましょう。もちろんパンツも脱ぎましょう。パンツは被らないで下さい》と書かれてある。


『当たり前だ! てか、服を着たまま風呂に入っている人見たことねぇよ!! って、パンツ被るって……変態か!!』


 久しぶりの一人ツッコミも疲れてきたので、僕は目の前の真っ白な自動ドアを開けた。


「遅い!」


『……』


「何とか言えんのか!?」


 いきなり怒鳴られ、無言のまま立ち尽くす。


「まあよいわ。今日呼んだのは話があるからじゃ。風呂でも楽しみながら話をしようか」


 背中を押されるようにして脱衣所へと向かう。


「パンツは被るなよ」


『被らんわ!』


 案内されるがまま、服を脱ぎ浴室へと向かう。お父様の後についていくと、知らない浴槽に辿り着いた。


「これは?」


 驚いた表情のまま、お父様を見ると、「うむ。これぞ、貴様がおらぬ間に完成させた新型風呂じゃ。特等席を用意しておいたので、心行くまで楽しむがよい」と満足気に頷いている。


『新型風呂?』


 目の前に見えるのは、激流の風呂だった。


「儂の息子に見とれて、破廉恥な事を考えている隙などないぞ」


『どうして、あんたの息子で破廉恥な気持ちになるんだよ!?』


 そう思いながら、目の前の激流を眺めていると、「うむ。そろそろ頃合いじゃな」そう言って、僕を目の前の激流ではなく隣にあったリフトへ乗せた。


『頃合い? 何の?』


 そんな思いとは裏腹に、リフトは作動し激流風呂へと向かっていく。


「走れよ」


 お父様がそう言った途端、リフトは激流の中へと足を浸した。『走る?』なんて疑問など湧かなかった。走らなければ、流されていきそうになるのだから。


「う! ふぅ! そ、そろそろ……く、来る……だろう」


 お父様が苦しそうにそう言っていると、お父様の隣に《巻き巻きタオル》に身を包んだ雫さんが入ってきた。


「き、貴様……。わ、儂の息子に…………み、見とれて……おるな……」


『だから、どうしてオッサンの息子に見とれなければ……。てか、オッサンの息子はお湯の中だろ!?』


 言いたい言葉をグッと堪えて、雫さんを見ると、真剣な表情で走っている。


『そうだよなぁ。この流れは女の子には、キツイよなぁ』


 走りながら考えていると、「貴様、板……だったな……。ハァハァ! し、雫を見てどう思う」


「え! え? ど、どうって、か、可愛いと……思い、ますよ……」


「そう……か……。可愛い……か……」


「は、はい」


 お父様は既に限界のようだ。すぐさま脱浴のボタンを押すと、僕とお父様、雫さんのリフトが一斉に上がり始めた。


「ハァハァ! ぅんっぐ! ハァ! ハァ!」


 お父様はかなりキツそうだ。


「で、走りながら……話なんて……できませんでしたよ。ハァハァ! フゥ!」


 そう言ってお父様を見ると、「き、貴様には、これが何に見える」と、雫さんを指差している。


「し、雫さん……。ですよね?」


「その通りだ。雫だ。先程、貴様は雫のことを可愛いと言ったな?」


「は、はい。言いましたけど……」


 裸の男二人と《巻き巻きタオル》に身を包んだ女の子がリフトの傍で座り込んでいる姿は、他から見れば、さぞ滑稽だろう。


「貴様、雫を女と思うておるのか?」


 この質問に、僕は言葉を失った。


「どうなんだ!?」


 少し怒り口調のお父様に、「は、はい」と答えると、「わはははは! 良かったなぁ雫。お前は女として見られておるらしいぞ!」お父様はさも可笑し気に、笑いながら雫さんの背中をバンバン叩いた。


『見られているらしい?』


 ポカンとしていると、お父様が真面目な顔をしてこちらを見た。


「まぁ、貴様と雫の交際を許してやらん訳ではない。しかし、結婚は出来んぞ。雫は……男だ。今では身も心も女になったようじゃが、それでも戸籍上では男じゃ」


『…………へ?』


 きっとかなり間抜けな顔をしていたのだろう。「騙していた訳じゃないの。板君、ゴメンね」と雫さんが、お父様の向こう側から両手を合わせている。


『……へ? えぇぇぇぇぇ!!』


「という訳じゃ。雫を嫁にと考えておったと思うが、そういう事だ。嫁には出来ん。日本の法律では、婿にも出来ん。そういう事だ。」


「嘘!」


 思わず声が出た。


「嘘なものか。貴様の反応などお見通しよ。ちょ、ちょっと待っとれ」


 そう言うと、フラフラと立ち上がり、僕と雫さん? 雫君? を残して脱衣所へと姿を消すと、すぐに何やらプラスチックの板のような物を持ってきた。それはラミネートされた戸籍謄本だった。


 雨戸雫……性別、男。嘘偽りなき証拠を叩き付けられ、グゥの音も出ないまま、その場を動けなくなった。そして、そのまま気を失った。




 それから、どうやって家に帰ったかは覚えていない。ただ、僕に雫さんが男であり、雨戸風呂店《お風呂で楽園》が存在していた事を確信させるのは、スチームサウナと化した浴室だけだった。


 もうあれ以来、《お風呂で楽園》には行っていない。雫さんとの連絡もパッタリと途絶えた。今でもまだ、あの片言の「ゴザイマス」で話しているのだろうか……。そしてまた、別の男をたぶらかしているのだろうか。それは、僕にはもうどうでもいい事なのだが。


「さぁ! 仕事でも行くか!」














   完




長い間お待たせしてすみませんでした。


気が付けば、二十話にも満たず完結となってしまい、申し訳ない思いでいっぱいです。


また次回、連載の機会がありましたら、その時はどうぞ宜しくお願い致します。


最後までお付きあいくださり、ありがとうございました。




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