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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語 作者:森野昴

第6章 草原と森の入り口

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6-18 貴重な果実

今話も、森の入り口付近の話です。

偽魔山椒にせまさんしょうのことは、いいとしてだな。さきほど示したのは、あれだ」


 ジュライさんは、こっちを見るようにと促すようにして示す。


 彼女は大まかに顎でしゃくり、さらにしっかりとその場所を指の先で示した。


 その動作と共に、彼女の形良い耳たぶ。それが、キラリと光る。


 そこに納まる燃えるような赤色をした丸いイアリングに木漏れ日が当たっていた。そしてその赤い石の表面に、星のような白い筋が彼女の動きと共に移ろいでいる。


 彼女のその白くてふっくりとした耳たぶに深紅のイアリング。そして、細いながらもしっかりとした筋肉がついている、透き通るような白さの首筋。そこにはらりとかかる赤い髪の毛とのコントラストが、とても美しく感じる。


 むぁ。これは何か、魅せられてしまうなぁ。


 ん。あ。そうそう。見るべきものは、こっちだよね。


 ぶるりと首を横に振り、ある意味邪念ともいえるものを追い払う。そして彼女が示した場所へと、その目を移した。


 彼女が指差したその先は、偽魔山椒の木があるところから右側よりで、それも、少し遠いところだった。


 示された場所の周辺をざっと見回してみる。


 うん? あれかな。


 森の奥へとつながる鬱蒼うっそうとした木々。その太めのみきに絡む紫色の枝がある。その蔓のような枝の木はゆるやかに他の木に絡まり、その一帯に群生ぐんせいをしていた。


 そしてそこに、いかにもここにあるという感じで、半分だけ白く脱色した先端の丸いくて広い倒卵形とうらんけいをした掌大しょうだいの葉がちらほらと見える。


 へえ。


 その白く脱色したような葉の周辺を見ると、先端が鮮やかなピンク色に染まった細い枝がある。そこには、5片の花びらを持つ梅のような姿の純白で可憐な花が、ところどころに咲いている。


 さらに、その花の咲いている枝とは異なる近辺の枝を見る。


 その枝には小さな緑色の実がいくつかっていた。少し遠いので、よく判らないけど、その縮尺が合っていれば、手を握って納まるくらいのサイズだろう。そしてその実の縦に細長い形から、がく付きの渋柿を連想した。


 続けて、その周辺を注目してみた。


 すると、その渋柿のような実が生っているはずの場所に倍ほどにもぶくぶくと膨らんだ緑の塊を見つける。見れば、その塊もそれなりの数がある。これは目立つ。


 へ。何これ。


 そう。注目をしていて視野が狭くなっていた。なので、こんなにも明らかな塊を見落としていた。


 するとジュライさんが、こちらの耳に口を近づけ、小声で話す。話す音と共に、彼女のその息が、こちらの耳に入る。


「あれは木魔天蓼もくまてんりょうという魔植物の実だ。特に、あの膨らんだ魔蠅まよう入りの木魔天蓼の果実は、なかなか手に入らない貴重品でな。あれを取りにいくぞ。ラケルタ」


 え。魔蠅? って、蠅の魔生物?


 思わず振り返って、彼女の顔をまじまじと見た。


 ジュライさんは、木魔天蓼がある方角を見て目を細め、形良い小さな唇の両単を上げていた。とても嬉しそう。


 だけど、あれって、そんなにいいものとは思えないよ? だって、あの中には、蠅のような魔生物が入っているんでしょ?


「ん。どうした?」


 ジュライさんは、こちらの視線に気が付いたのか、こちらの方へと振り向く。そして、見つめ返してきた。


 すると、彼女は何を思ったのか、一瞬その目を見開く。そして同時にその笑顔が一転して、とても残念そうな顔に変わる。


 だけどそれは一瞬のこと。すぐに何でもないというような顔に戻った。


 そして、確認をするかのように、こちらに対して静かに言う。


「どうした、ラケルタ。あの果実の中にいる魔蠅の子を食いたいのか?」


 え。あ。そんな。どうしてそうなるの?


 こればかりは、命令だったとしても、御免こうむりたいよ。


 元の世界でも、チーズの一種で、旨味を増加させるため、わざと蛆虫をわかせたものがあるというのを聞いたことがある。だけど、そんなのは苦手だからね。


 なので、必死に首と手を横に振るなどして、全身で否定のジェスチャーをした。


 それを見ていた彼女の表情が、ぱぁっと明るくなった。


 そしてその明るい笑顔のまま、ジュライさんは、静かに言葉を続ける。


「そうか。カークから聞いてはいたが不安だった。リザドリアン属と同じリザドリスク科だがミネティティ属の変種だから魔虫類マギア・インセクタリアはあまり好まんらしいとな」


 あ。うん。そういうことになってるんだ。


 そういえば、あの時以来カークと一緒に食べる時は、明らかに虫というのようなものは出て来なかったような気がする。


「これはどうやら、本当のようだな。好きなら、是が非でも欲しいものであろう。魔蠅の子は、リザドリアン属種の大好物だ。あの魔アルマジロ科マギア・ダシュポディダエ50歩(スインクエンタ・パソ)も、リザドリアン属種かぶれしていてな。それを大変好む」


 へえ。リザドリアンは魔蠅の子を好んで食べることのほうが普通なんだね。


 それとエンタ先輩は、雌性のリザドリアンたちを敬い愛している。そのことと、関係しているのかも。


 あれ。だけど、中の虫を食べてしまうと、何で困るの?


 そう思って、ジュライさんの顔を見つめる。


 するとジュライさんは、不思議そうな顔をして再びこちらを覗き込んだ。


「今度は何だ? それが何故かを知りたいのか?」


 良かった。今度は、すんなりと通じたみたい。


 なので、こちらはこくりとうなずく。


「そうか。ならば説明をしよう。木魔天蓼の果実は、丸ごとを酒に漬けると疲労回復の良い薬となるのだ。特に、魔蠅入りの木魔天蓼の果実はな」


 ふーん。そうなんだ。


「そして、あの虫瘤むしこぶがある果実は、中身を傷つけずに丸ごと漬けぬと意味がない。あの実を割って中の魔蠅の子を取ればその傷口から染み出る多量の魔素の影響で、とても渋くなる。それは人間には飲めぬものなのだ」


 なるほどそうか。あの果実に傷をいれてしまうとダメということね。


「この話が、理解できたかどうかは知らぬが、そういうことだ」


 ルークの自動意訳があるからね。この説明で納得をしたよ。うん。


「とにかく、あの実を採集に行くぞ。他に見つかると、ややこしくなる」


 ジュライさんは、そう言いながらこちらを背中を押す。


 何か、とてもいているようだ。


ここに読みに来てくれてありがとうござます。

今後も読みに来てくれると嬉しいです。


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