挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
ブックマークする場合はログインしてください。

SWEET MEMORIES

作者:佑紀

SWEET MEMORIES


                                  佑紀


【 プロローグ 】


「クルミ、大きくなったらオレのお嫁さんになってね。」

「うん!」

 クルミは小さな手を差し出し、小指をからませた。


【第1章ハルト 保育園児】


 僕、ハルトは、今日も従兄妹のカケル兄ちゃんと、その妹クルミと一緒に保育園で過ごす。ずっと三人兄妹のように育ってきた。

 カケル兄ちゃんは僕より3歳上。優しく面倒見が良くて、何より妹想い。

 クルミは僕より1歳下。甘えん坊で、カケル兄ちゃんと僕のそばから離れない。

 カケル兄ちゃんがいつもクルミを可愛がるから、僕も当たり前のようにクルミを可愛がる。

「ハル、クルミを泣かせちゃダメだよ!」

「わかってるって!カケル兄ちゃん!」

「クルミ、にぃにとハル、だぁいすき!」

 僕のママと、カケル兄ちゃん・クルミ兄妹のママは姉妹で、同じ病院で働く看護師。家も同じ敷地内でお隣同士。

 パパたちは大学のときの親友だったけど、僕のパパは、僕が1歳のときに事故で亡くなってしまった。シングルマザーになった僕のママは、カケル兄ちゃん・クルミのママと同じ日勤のみの勤務から、夜勤もする勤務に変えた。

 僕のママが夜勤をするときは、僕はカケル兄ちゃん・クルミの家にお泊りする。お泊りのときは、三人でお風呂に入り、三人一緒に川の字で寝る。一人っ子の僕にとって、このお泊りは楽しみなくらいだった。

 パパのいない寂しさも、僕は感じていない。カケル兄ちゃん・クルミのパパが自分の子供に交えて、庭で遊んでくれたり旅行にも一緒に連れて行ってくれる。キャッチボールも泳ぎも、カケル兄ちゃん・クルミのパパから習った。

 そして3月。カケル兄ちゃんは卒園した。


 カケル兄ちゃんの卒園と同時期に、ショウという、僕と同い年の男の子が、保育園に入園してきた。ショウは人見知りで、自分からお友達に声をかけない。

 ある日、カケル兄ちゃん譲りの面倒見の良さを発揮して、僕はショウに声をかけた。

「ショウくん、サッカー知ってる?」

「知ってるよ!オレ出来るよ!」

 ショウは強がってみせた。

「じゃあ、やろうよ!」

 僕は、小学生になってサッカークラブに入った、カケル兄ちゃんのマネをしたかったのだ。クルミ相手には、おもいっきりボールを蹴れない。

 僕とショウは園庭に出て、ボールを蹴り始めた。そこにクルミが割って入る。

「クルミも入れて!」

 僕はためらった。仲間に入れて、クルミにボールを当てちゃっても泣かれるが、仲間に入れてあげなくても泣かれる。カケル兄ちゃんからは、クルミを泣かせちゃダメだと言われている。

「出来んのかよ!」

 ショウはクルミに言った。

「クルミ、出来るもん!」

 甘えん坊だけど負けず嫌いなクルミは、ショウにおもいっきりボールを蹴った。

 日頃、年上の男のカケルとハルトと遊んでいるからか、クルミはパワーがあった。その上、運動神経が良い。

 ショウは納得し、僕も少し安心して、三人でボールを蹴り合った。

 その日から、保育園では常に三人で遊んだ。僕もクルミも、二人で遊ぶことにはあまり慣れていなかったからか、ショウが加わることで三人になり、この方がなんだかしっくりくると感じた。

 サッカーもいいけど、クルミはおままごとだってやりたい。ときには、クルミのおままごとに付き合わされた。そこで、僕とショウは小競り合いをすることになる。二人とも、クルミの結婚相手の役をやりたいのだ。

 二人とも、クルミが好きだった。


【第2章クルミ 小学生】


 パパの仕事の都合で、私、クルミが小学生になるのとき、私たち家族はアメリカに移り住んだ。

 現地の小学校に入学した私は、言葉の壁にぶち当たった。みんなが何をしゃべっているのか、さっぱりわからない。

 それでも、私はもともと負けず嫌い。小学校の他に、ピアノ教室とヒップホップのダンススクールにも通いだした。

 ピアノはママに少し教わっていたし、運動神経の良かった私は、ダンスもみるみる上達。少しずつ、私の周りに友達が集まり始める。

 そんなある日、小学校で運動会が開催された。周囲に日本人は暮らしていない土地だったから、黒髪の日本人は目立つ。

 私の徒競走の順番が来た。みんなの視線を感じる。

 スタートの合図と同時に私は夢中で走り出す。

 黒髪の女の子は、ぶっちぎりの一位でゴール!客席からもクラスメートからも、拍手が沸き起こった。私が受け入れられた瞬間だったと思う。


 気がつけば、私は周囲とコミュニケーションが取れるようになっていた。

 アメリカでの私の楽しみは、お友達と過ごす他に二つ。カケルお兄ちゃんと一緒に、パパからギターを教わることと、ママとお料理をすること。アメリカに来て、家族の絆は一層強くなった。

「クルミ、今日の夕食なーに?」

 カケルお兄ちゃんは食べ盛り。時には献立のリクエストを私にする。

「今日はね~、ハンバーグだよ!」

「オレのは大きくしてよね!明日はギョーザがいいなぁ。」

 私は得意満面の笑み。ハンバーグの上にかけるソースだって自分で作る。

 最近は、ママが教えた以外のことも試してみる。ギョーザの中身を変えて作ったりして。夏に作ったシソ入りギョーザは家族に好評だったが、ここはアメリカ。シソが手に入りにくいのが難点。   

 そんなこともあるけれど、日本が恋しい、日本に帰りたいとは、もう思わない。


 アメリカに移り住んで6年が過ぎようとしていた。家族会議の末、子供たちの進路を考えて、パパだけアメリカに残り、三人は日本へ帰国することに。

 4月から私は中学生になる。


【第3章ショウ 中2 春~夏】


「新入生、入場!」

 今日は中学校の入学式。在校生の中に、脱色した髪で、ひときわ目立つ風貌の男子がいる。オレ、ショウだ。

「あの子、可愛くない?」

「っつーか、美人じゃね?」

「な、ショウ?」

 周囲の男子がざわつく。一列で体育館に入ってきた一年生の列の方を、面倒くさそうにチラッと目をやるオレ。・・・誰のことを言っているのか直ぐにわかった。目が大きく、ツインテールが良く似合う子が目に留まる。

「ショウ、あの子、誰だかわかるか?」

 ハルトが、その子を指差した。

 成績優秀で運動神経もバツグンな上に優しいイケメンのハルトが、なぜ強面で不良のオレと仲が良いのか、この中学の七不思議の一つだ。

「あれ、クルミだよ!オレの従兄妹で、オレたち同じ保育園だったじゃん!覚えているか?」

「クルミ?」

 オレは遠い記憶を辿る。両親が離婚してこの町にやってきて、今は亡き祖母が保育園の送迎をしてくれた。

 あの頃から今も、母親は朝に晩に働いている。寂しかったあの頃。でも、寂しかっただけではなかったような・・・。

 思い出した!

「ああ、いたかも」

 淡い恋心を思い出したことをハルトに気づかれたくなくて、オレはそっけなく答える。

「なあ、成長しててビックリしただろ?」


 入学式の日は部活が休みだった。オレは帰宅してすぐハルトの家に遊びに行った。

「来るの早っ!ショウ、昼飯食ったのか?」

「まだだけど・・・」

「オレ、クルミと一緒に食べることになってるけど、ショウも一緒に食うか?」

 オレの返事を聞かずに、ハルトは従妹の家に向かう。慌てて追いかけると、そこに現れたのは、目が大きくてツインテールが似合う、あの子だった。

「クルミ~、もう一人増えたけど、飯、足りる?」

 ハルトは「コイツ、コイツ」と、後ろにいるオレを指差す。

「あ~、ちょうど今お兄ちゃんから、お昼ご飯いらなくなったってメールが来たところ。だから大丈夫」

「ラッキーだったな、ショウ!」

 そう言って二人とも家の中に入っていく。戸惑いながら、遅れてオレも彼女の家にお邪魔することに。

「クルミ~、コイツ誰だかわかるか?」

 クルミは料理を作る手を止めて振り返る。

「ん~?」

「保育園で一緒に遊んでた、ショウだよ!今じゃこんなイカツイ顔して金髪にしてっけど、怖くないよ!」

「金髪は見慣れてるから別に怖くないけど~!」

 彼女は笑って、そして「覚えてないなぁ」と言った。オレは平然としているけれど、内心ガッカリ。

 ほどなくして、彼女はダイニングテーブルで待つオレたちのもとに。出来立てのスパゲティナポリタンを運んできた。

「いっただっきま~す!」

 ハルトが食べ始めた。オレは無言で食べ始める。

「うまっ!」

 思わずそう口にしたオレ。それを聞いて、満面の笑みで食べ始める彼女。

「食べ終わったら三人でゲームやらない?クルミ、テレビゲーム教えてやるよ」

 ハルトが言った。


 夏休み。

 午前中で部活が終わる日や、部活が無い日は、ハルトの家に同級生の部活仲間が集まることが多かった。

 オレとハルトは同じサッカー部だ。学校ではガラの悪い先輩たちと一緒にいるオレ。同級生とはあまり話さない。けれど、ハルトとはよく話すし、ハルトの家には遊びにいく。

 ハルトの家に行くと、たまに従妹のクルミがお昼ご飯を作ってくれて一緒に食べたり、彼女が手作りのお菓子を持ってきてくれたりした。

 強面なオレと話す同級生の女子はあまりいなかったけれど、ハルトの家では彼女と普通に話すようになっていた。

「食事の片付け、ジャンケンでするか?」

 ある日、オレが提案する。

「なんだよショウ。お前が洗うと、皿とか割りそうだな!」

 ハルトが茶化す。

「じゃあ、やらねぇ!」

「え~!ジャンケンしようよ!」

 彼女は喜んで乗ってくる。オレは、なんだか嬉しい。


【第4章 クルミ 中1 秋】


 二学期に入った。

 この頃には、クルミは日本の生活にも中学校にも慣れていた。大きな目に、サラサラのロングヘアー、すらりと長い脚。よく目立った。

 天真爛漫なクルミは女子からも男子からも人気。今までに何人から告白されただろう。そのたびに男子たちは撃沈していく。

「ごめんね、好きな人がいるの。」

 ピアノは趣味で弾く程度。日本でもヒップホップダンスは続けたかったけれど、部活が忙しくてやっていない。吹奏楽部と迷って、結局、軟式テニス部に入った。

 体育祭が近づいてきて、クルミは学年代表のリレー選手に。

 赤、白、青、黄と4色に分かれたチームで競う体育祭。ハルトは赤、クルミとショウは青だ。ハルトとショウも、リレー選手に選ばれていた。

 放課後、青チームのリレー選手が集まって走ってみる。クルミは2年や3年の女子よりも速かった。

 男女混合で走る順番を決める。タイムを考慮の上、3年男子→2年女子→1年男子→3年女子→1年女子→2年男子の順で走ることに。クルミのバトンをショウが受け取り、ラストを走るのだ。

 体育祭当日。クルミのママもハルトのママも、仕事の休暇を取って応援に。次々に演目が行われ、最後の男女混合チームリレーの番がきた。

 スタートする。大盛り上がりの中、4人中3位でクルミにバトンが回ってきた。

 珍しくショウが大声を出している。クルミの名を叫んでいるのだ。

 カーブに差し掛かり、1人抜いた。もう少しでショウの待つところに。夢中で走るクルミ。

 ショウがスタートを切った。バトンタッチが上手くいき、青は1位に浮上。そのまま逃げ切り、ショウは1位でゴールした。

 リレー選手退場。ショウはクルミに近づくと、頭をポンポンして通り過ぎた。 ドキッとするクルミ。遠ざかるショウの後ろ姿を、いつまでも見つめていた。


 二学期は行事が目白押し。体育祭の次は文化祭がある。高校や大学の文化祭と違い、内容はさほど濃いものではない。

 そんな中、毎年一番盛り上がるのが、有志の出し物。数組がバンド演奏をしたり、お笑いコントを披露したりする。

 ハルトはギターを弾き、ショウとデュオを組んで二人で歌った。ギターはカケルから教わり、始めたばかりの腕前。それでも、黄色い声援が飛ぶ。ハルトはモテるけれど、何故か誰とも付き合わない。

 次のスタンバイをしながら、舞台袖で二人の歌を聴くクルミ。1年生ながら舞台に立つのだ。

 軟式テニス部の先輩に誘われて、一緒にダンスを披露する。カケルの従兄妹ということで、先輩たちに可愛がられているというワケだ。

 クルミ一同は、曲に合わせてノリノリで踊る。全員ダンス経験者というだけあって、それなりの出来。クルミは輝きを放つ。

「クルミ、すごーい!」

「カッコよかったよ、クルミ!」

「すげーな!」

 久しぶりに人前で踊って、高揚感でいっぱいのクルミが舞台から降りると、同級生たちが囲んできた。

 先輩男子たちからも、声がかる。


【第5章 ハルト 中2 冬】


「ショウ、ちょっと買い物に付き合ってくんない?」

「いいけど、何買うんだ?」

「来週の金曜、クルミの誕生日だから、プレゼントを買いに行こうと思って。」

「来週の金曜・・・2月3日が、クルミちゃんの誕生日なのか・・・。」

 オレは、クルミの好きな『くまのプーさん』を買いたいんだけど、一人で買いに行くのは恥ずかしくてと、ショウに話す。

 その後、急に真剣な顔をして、考え込むショウ。どうしたんだと聞いても「うん」と言ったきり黙り込んいる。

 しばらくして、ショウが重い口を開いた。

「ハルト、オレ、クルミちゃんと付き合ってもイイか?」

 文化祭の後から「クルミちゃんを紹介して」と、同級生数名から言われた。でも、そのたびに断ってきた。簡単にクルミを渡すワケにはいかない。誰にも渡したくない。

 ショウとクルミ?バランス悪すぎだろ!

「ショウ、お前、先輩と付き合ってる噂があったけど?」

「あぁ、それね。先輩が卒業したと同時に自然消滅。っつーか、付き合ってたのかなぁ?」

 一呼吸おいて、ショウは続ける。

「でも、オレ、クルミちゃんのことはマジなんだ。本気で好きなんだよ。絶対大事にする!だから、応援して欲しい」。

 こんな真面目な顔のショウを見たことがない。

「ショウ、少し時間をくれないか?」


 それから毎日、オレは悩んでいた。悩んで悩みぬいて、ショウを自宅に呼んだ。

「ショウ、お前だから、本当のことを話すんだけど・・・。」

 ショウは黙ってハルトの次の言葉を待つ。

「実は、オレもクルミが好きなんだ。でも、オレは従兄妹だから・・・。」

「なんとなく、気づいてたよ。もしかしてってさ。」

 オレは大きく息を吐く。

「そっか・・・。ショウ、お前のこと、信じてイイのか?本当にクルミを大事にするって約束出来るのか?」

 ショウは無言で、けれど、しっかりオレの目を見て、大きく頷いた。

「わかった。お前に託すよ。」


【第6章 ショウ 中3 春】


 クルミの誕生日に思い切って告白をして、バレンタインデーにOKをもらった。でも、このことは、ハルト以外まだ誰も知らない。

 学校では、クルミとすれ違っても話したりはしない。ラインをしたり、ハルトの家で三人で遊んだり。今までとあまり変わらないようだが、気分はまるで違う。

 春休みに入った。

 小遣いを前借して、クルミと二人で映画を観に行くことに。ハルトも誘ったけど、二人で行くように仕向けてくれた。

 二人っきりの初デート。見たことがあるクルミの私服姿がどこか新鮮で、いつもより一層可愛く見える。    

「先輩、寝ないで下さいね!」

 映画館の座席に座ると、屈託のない笑顔でクルミに言われた。

「二人でいるときは、その、[先輩]ってやめない?あと、敬語も禁止ね!」

 オレは、ずっと気になっていたことを言ってみる。

「ん~っと、何て呼べばイイかなぁ。じゃあ、先輩も私のこと呼ぶとき、[ちゃん]づけナシってことで!」

「ホラ、また先輩って言った~!普通に名前でイイよ。」

「ショウ・・・くん。」

 ヨシヨシと、クルミの頭を撫でてやった。


 一学期初日。

 部活の朝練が無かったから、初めてクルミと二人で登校した。

 みんながオレたちを見て驚いている。当たり前か。金髪でイカツイ顔のオレが、年下の真面目で可愛いクルミと二人でいるなんて。

 でも、クルミが意外と堂々としてくれているから助かる。

 昇降口でクルミと別れると、いろんな奴らがオレに声をかけてきた。

「まさか、付き合ってんの?」

 無言でキッと睨むと、皆、それ以上は聞かなくなる。それでも、うるさい女子たちは団体で現れてこう言ってきた。

「どーしちゃったの?似合わないよ!」

 何を言われても、オレは平気。でも、クルミは大丈夫かな。


 悪い予感は的中した。数日間二人で登下校しただけで、クルミは担任から呼ばれたようだ。どうせ、オレと付き合うなって言われたんだろう。

 でも、そのことをクルミはオレに言わない。心配だけど、クルミに何を言ってやればいいのかわからなかった。

 一部の中3女子も黙っていなかった。クルミを呼びつけて、「先輩と付き合うなんて生意気なんだよ」と脅したらしい。

「クルミ、さっき聞いたんだけど、3年の女になんか言われただろ?大丈夫だった?」

 帰り際に聞いた。

「大丈夫よ。」

 クルミはそれしか言わない。

 だが、奴らからのクルミへの攻撃は、収まらなかった。上履きを隠したり、教室の黒板にいたずら書きをしたり。黒板に書かれた内容は、卑猥なものだった。 もう黙ってはいられない。

「お前らがやったってわかってんだぞ!ブスのやることは、ホント、醜いよな!」

 奴らを前にオレは怒鳴って、教室のイスを思い切り蹴とばした。それがまずかったのかも知れない。

 クルミが大けがを負わされた。


【第7章 クルミ 中2 夏】


 こんなことで負けたくない。あのとき私はそう思った。

 何度か嫌がらせをしてきた先輩女子に、放課後、非常階段へ連れて行かれた。「これに耐えたら許してやるよ」

 突き飛ばされて、押さえつけられ、左の手の甲にタバコの火を押し付けられた。

 騒ぎを聞きつけて、ハルトとショウくんが駆け付ける。ハルトはすぐに私を抱えると水道へ。ショウくんは、その女子たちを殴った。

 関係者とその親も呼ばれ、大問題に発展。先生からも、「アイツとは付き合うなって言っただろ!」と叱られた。

 けれど、悪いことなんて何もしていない。

 私たちは、付き合うのをやめたりなんてしなかった。


 大騒ぎの一学期が終わり、今は平穏な夏休み。あれから、冷やかしも嫌がらせも一切ない。

 ショウくんはタバコを止めて、髪を黒くした。引退試合を終えてから、ハルトは受験勉強に励んでいて、私たちとは全く遊ばなくなった。

 私の左手の甲の傷跡は、今でもしっかりと残っている。それを隠すために、いつでも絆創膏を貼っていた。

 あるとき、汗で絆創膏が取れてしまった。傷跡を見たショウくんは「そんなに跡が残っちゃったんだ・・・」と、ショックを受けている。

「もう痛くないから大丈夫なんだけどね。」

 私がそう言うと、ショウくんは私を抱きしめて     

「ごめん」

と力なく言った。


 ハルトの家で遊ばなくなった私たちは、たまにショウくんの家で会った。借りてきた映画を観たり、ゲームをしたり。

 そんなある日、ショウくんが言った。

「オレが高校に行かなかったら、もう付き合えない?」

「行かないって、どうするの?」

そう聞くと

「働くよ。勉強好きじゃないし、無理してどっかの高校に入ったとしても、きっと辞めちゃうと思うんだよね。」

 ショウくんは続ける。

「ウチ、母子家庭だし。辞めちゃうくらいなら、最初から行かない方がイイと思って。クルミは中卒のオレじゃ嫌?」

「嫌じゃない。」

 私は首を振った。

「ショウくんの思うようにすればイイんじゃないかな。きっと学生やるより、社会人の方が大変だろうけど。本気なら頑張って!」

「本気だよ!良かった~ホッとしたよ!」

「クルミ、お金が貯まったら、結婚して欲しい。」

 まさかの二度目のプロポーズ!驚いたけど、答えは決まっている。私は黙って頷き俯くと、ショウくんから優しくキスをされた。初めてのキス・・・


【第8章 ハルト 中3 秋~冬】


 クルミとショウの騒ぎは収まっていた。ショウは中1の頃、中3の先輩とのセックスが噂されたことがある。だから、オレはそんなことも心配だった。

 けれど、アイツはクルミには簡単に手を出しりしないと、今はわかる。いつもはギラギラしているショウだけど、クルミといるときはいつだって、すごく落ち着いた優しい眼差しを向けていた。それを見ていれば、どれだけクルミが好きで大事にしているのか、伝わってくる。

 オレは勉強に集中した。

 カケル兄ちゃんは今、私立・慶桜大学に通っている。オレはその付属高校を受験したかった。きっと、クルミも高校はそこに行くに違いない。

 クルミと同じ高校に通いたかった。付き合うことは無理でも、いつだってクルミの近くにいたい。

 ショウは、二学期になってから、一度も学校をサボっていないようだ。そんなショウから、話があると呼び出された。

「オレ、高校には行かないことにしたんだ。昨日、お袋の伝手で就職先が決まった。クルミももう知ってる。」

「金貯めて、クルミと結婚するんだ。」

 就職とか結婚とか、思いもしないセリフを聞いて、オレは言葉を失った。

 心にも体にも、冷たい風が吹き抜けていくように感じた。


 模擬試験も前回数を終了し、あとは受験本番を待つのみとなった。

 クルミがお守り袋を作ってくれた。くまのプーさんの刺繍がされた小さな袋に、小さく畳まれた紙とハチミツ味ののど飴が入っている。

 紙には〔祈 慶桜大付属高校 絶対合格!〕とキレイな文字で書かれていた。 ショウは受験しないから、オレだけに作ってくれたお守り袋。これさえあれば大丈夫!

 内申が良かったオレは、単願受験することになった。もしだめでも、併願試験でもう一度受けることが出来る。絶対に合格するぞ!


【第9章 クルミ 中3 春】


 4月1日からショウくんは働きだした。とび職。

「雨の日は基本仕事が休みみたいだから、そんときはクルミと会えるからね!」

そう言っていた。

 ハルトは今日、高校の入学式。見事、第一志望の慶桜大付属高生となったハルトは、制服が、学ランからブレザー・ネクタイ姿になった。

 朝、庭で一緒に記念写真と撮るとき

「制服、よく似合ってるね!カッコイイよ!」

そう私が言うと

「当たり前だろ!来年クルミが入学してくるのを待ってるかな!」

と言って、頭をポンポンしてきた。いよいよ、私も受験生か・・・。

 学校に行くと、教室に見慣れない男子がいた。ずいぶん背が高い人だな・・・そう思っていると、親友のアイカが

「ねぇねぇ、転校生かな?ヤバくない?カッコイイよね!」

と耳打ちしてきた。

 担任から、その男子の紹介があった。いままで2年間、イギリスに住んでいたらしい。高校受験があるから、その前に帰国したのかな?

 その転校生と私は席が隣同士になった。アイカが「ずる~い」と、遠くから頬を膨らませてブーイングしてくる。

「ハットリ・ダイキです。よろしくね!」

 転校生は私に、そう爽やかに挨拶した。


「修学旅行、気をつけてね!浮気しちゃダメだよ!」

そうショウくんに言われた私は

「はいはい。お土産買ってくるからね!」と、軽く受け流す。最近、やたらと浮気を心配してくるなぁ・・・。

 修学旅行は5月下旬。当日は快晴だった。でも、なんだかチョット寒気がする。風邪かな?ひどくならないうちに、風邪薬を飲んでおこう。

 バスの中でも、旅行先に着いても、みんなテンションが高い。そのテンションのまま夜に突入した。

「ねぇねぇ、男子の部屋に行かない?」

 消灯時間を過ぎてから、誰かがそんなことを言い出した。同じ部屋のみんなも賛同する。

 私は風邪薬のせいで眠かったけれど、みんなと一緒に男子の部屋に向かった。

 先生と鉢合わせにならないかとハラハラしながら、無事に男子の部屋に到着。待ってましたとばかりに盛り上がる男子たち。

「先生が来たらココに隠れようね」と、私たちは履いてきたスリッパを、先に押し入れへ隠しておく。

 みんなで色んな話をした。恋バナや思い出話。ほどなくして、見張り役の男子が

「先生が来るぞ!」

そう言って、急に電気が消された。真っ暗になって何も見えない。

 しまった・・・押し入れから遠い場所にいるよ、私。

 不意に誰かが私を力強く引っ張って、布団の中にすっぽりと隠した。そして、小さな声でこう言った。

「イイよって言うまで、小さくまるまってて。」

 声の主は、転校生のハットリだとわかった。

 どれくらい時間が経っただろう。眠っちゃったんだ、私。

 そーぅっと、布団から顔を出してみる。

「起きた?」

 私に向かって、ハットリが小声で言った。

「みんなは?」

 私も小声で聞くと

「もう部屋に帰ったみたいだ(・)な(・)。」

「・・・!」

 だ(・)な(・)って何よ、だ(・)な(・)って!起こしてくれればいいじゃん! 私はそう思ったけど、眠っちゃったことが恥ずかしくて、言えなかった。

「部屋まで送っていくよ。」

 ハットリがそう言ったので、二人でそーぅっと部屋を出た。男子たちは、先生が来るからと寝たふりをして、そのままホントに眠っちゃったみたいだった。

 静まり返る廊下と階段。どうにか誰にも見つからずに、女子の部屋にたどり着いた。

 私がドアノブに手をかけようとしたそのとき、ハットリの顔が私の顔の前に不意に現れて・・・キス!

 そして、ハットリは無言のまま立ち去った。


【第10章 ショウ 16歳 夏】


 クルミの学校が夏休みに入った。クルミは部活を引退すると塾に通うように。 一学期はあまり会えなかった。だから、夏休みは少しでも多く一緒に過ごしたい。そう思っていたのに、クルミは忙しいらしく、なかなか会えずにいた。

 もしかして、好きな人が出来たのかも。そんなことばかり考えて、最近、仕事も手につかない。

 ライン通話しても、クルミは出ないことが多くなった。不安と寂しさと苛立ちが募る。

 何度もラインして、やっと会える日を取り付けた。


 久しぶりのデートの日。外で会うのは暑いからと、クルミに家へ来てもらった。相変わらずオレの母親は忙しく、いつも家には誰もいない。

 あんなにクルミに会いたかったのに・・・いろんな気持ちが交錯して言葉にならない。

 クルミは少し大人っぽくなっていた。学校の話をしてくるけど、話が耳に入ってこない。     

 プチッと、オレの中のどこかの線が、切れたような気がした。

「クルミ。」

 オレはそう呟くと、クルミを押し倒す。クルミは驚いて、体を硬直させた。

 無理やり唇を奪って、クルミの洋服に手をかける。クルミは激しく抵抗してきて

「やめて・・・!」

と声にならない声を上げた。でも、一度かかってしまったエンジンを、オレはもう止めることが出来ない。

 クルミの涙と鮮血が、ベッドのシーツを濡らした。初めて見るクルミの涙。今まで誰に何を言われても、どんなことがあっても、決して泣かなかった彼女を、オレは泣かせてしまった。

 大事にする・・・そうハルトに誓ったのに。

 とてつもない後悔が押し寄せた。


【第11章 ハルト 高1 冬】


 ショウにラインを送信しても、夏ごろから一向に既読がつかなくなった。クルミと何かあったのかな?気になるけど、クルミにも聞けないまま、季節は冬を迎えた。

「痩せたみたいだけど、大丈夫か?」

 クルミを見かけて声をかける。

「大丈夫よ。」

 そう答えるけれど、いつものクルミスマイルはそこに無かった。きっと二人は別れたんだ!そう確信した。

 やっぱりオレと同じ高校を受験させて、クルミはオレが守ってやらなきゃ!

「クルミ、第一志望はどこにするか決まった?」

 オレは、ショウの名前は口にせずに問いかける。

「ハルトと同じ慶桜大付属高か、IPU高か・・・難しいと思うけどね。」

「えっ?IPU?」

 考えて無かった。そうか、クルミは帰国子女で英語が得意だから、そういった選択も有りか・・・。

 なんとか、オレと同じ高校を受験するように仕向けなきゃな。


 お正月も、塾の受験合宿に参加したクルミ。痩せたままだったけど、それは受験で大変だからかなと、もうショウとのことが原因だとは考えなかった。あんなことが二人の間であったなんて、オレは知らなかったから。

 元旦に男友達と初詣に行ったオレは、合格祈願のお守り袋を買ってきて、合宿から帰ったクルミに渡した。

「ありがと。頑張るね。」

 クルミは力なく微笑んだ。

 神様、どうかクルミと同じ高校になれますように・・・。


【第12章 クルミ 高1 春】


「あ~!ハットリ、おはよう!」

 地元の駅のホームでハットリに会った。

「いよいよ高校生活の始まりだな!二人とも受かって良かったよ~どっちかダメだったら、やっぱ、気まずいもんな!」

 ハットリが笑いながら言う。そのまま話しながら、高校へと向かった。

 あのキスの真相は確かめていない。あの翌日、ハットリに話しかけようとしたら、向こうから

「二人だけの秘密ね!」

そう言ってきて、以来、何事もなく・・・と言うか、友達としてすごく仲良く過ごしてきた。

「好き」だとか「付き合う」だとか言わない、ただ仲良しの男友達は、一緒にいて心地良い。


 ハットリとは別々のクラスになった。けれど、約束もしていないのに、何故か行きも帰りも駅でハットリと会う毎日。

 少し不思議だったけど、意外と嫌じゃない。むしろ、嬉しいかも。一緒にいて楽しいから。

「部活、どこ入るか決めた?」

 ハットリに聞かれる。

「オレ、こっち越してきてからは部活に入んなかったけど、あっちにいたときは、テニスしてたんだよね。」

「硬式テニス?」

「そうそう。クルミも硬式テニスやろうよ!」

「え~私は軟式テニスしかやってないからな~。」

 そう言ったものの気になって、硬式テニス部を見学してみた。大半は中学のときに軟式をやっていて、硬式経験者は二人だけ。

 ハットリも教えてくれるって言ってたから、硬式テニス部に入ることにした。

 部活を決めると、ハットリと二人でラケットを買いに行くことに。あれこれと教えてもらって購入出来た。

 それからも私たちは一緒に通学し、帰りにお茶したり、そこで一緒に勉強したりした。   

 仲良しの友達のまま、一学期終了。


【第13章 ハルト 高2 夏】


「ハルト、去年の夏休みの宿題、取っておいてある?」

 夏休みに入ってすぐ、クルミが聞いてきた。

「取ってなんかナイよ。楽しちゃダメだぞ、クルミ!」

「え~っ!同じ高校に通う意味ないじゃん。」

 拗ねてみせる姿が愛くるしい。気がつけば、クルミスマイルは、とうに復活していた。

 本当はクルミと登下校を一緒にしたかったけど、オレはサッカー部でクルミとは部活が別々だから、それはほとんど叶わなかった。

 クルミは同じ高校に通う、同じ中学出身の男と仲がイイみたいだ。二人でいるところを何度か見かけて、一度だけ「付き合ってんの?」って聞いたら、声を揃えて「ナイ、ナイ!」と笑って返された。

 いまだにクルミの左手の甲には、絆創膏が貼られている。けれど、クルミはもう吹っ切れたのかな?あんな辛い思いは、二度とさせたりしない!


 地元の夏祭りのとき、久しぶりに中学時代の仲間たちと会った。聞けば、ショウは仕事を辞めて行方不明らしい。アイツは今、どこで何をやっているんだ?オレはアイツの何を信じていたんだろう。

 クルミが親友のアイカちゃんと、浴衣姿で現れた。少し大人っぽくなったクルミに、ヘンな奴らが声をかけやしないかと、オレは気が気でない。

 今度クルミが誰かと付き合うことになったら、オレも彼女を作って、Wデートしようかな。

 ふと、そんなことを思った。


【第14章 クルミ 高1 秋】


 初めての文化祭。私は部活の模擬店の仕事の他に、ハルトと、その友達と一緒にバンドを組んで舞台に上がった。アンコールがあり、急きょ、私独りでYUIの曲をギターで弾き語りしたら、すごい反響があってビックリ!

 その夜、部活仲間全員+部活OG&OBと一緒に、カラオケで文化祭の打ち上げ。その時もリクエストがあって、私は歌を披露した。

 夏のテニス合宿でお世話になったOBの一人が「歌、上手いよね」と私に近づいてくる。なんか苦手だな、この人。

 嫌な予感は的中した。

「クルミちゃん、合宿のときから気になっていたんだけど、いつもソコに絆創膏貼ってるよね?」

と、私の左手を指差した。

 面倒くさいから、笑ってごまかす私。

「ソコ、どーしたの?」

 答えなかったら、しつこく聞いてきた。

「どれ、どれ。」

 不意に私の左手が、そのOBの人に引っ張られる。

「クルミ、携帯鳴ってるぞ!」

 ハットリがそう言った。

 慌てて「チョットすみません」そう断って、先輩の手を振りほどく私。

「部屋から出ろ。」

 ハットリからのメールだった。

 私が部屋から出ると、その後を追うように、ハットリも出てきた。

「大丈夫か?」

 あの一件があったとき、ハットリはまだ転校してきていなかったけれど、有名な事件だから誰かに聞いたのだろう。ハットリのおかげで、OBから逃れることだが出来た。

「ありがと。おかげで助かったよ。」


【第15章 クルミ 高2 夏】


 相変わらず、私はハットリと仲が良かった。登下校や部活が一緒なだけではなく、友達も交えて遊びに行ったり、買い物したり、勉強したり。

 お互い、同級生に告白されたことはあったけど、私たちは誰とも付き合うことをしなかった。

「二学期になったら、進路調査があるよな。」

 夏休みに入ったある日、ハットリがそう切り出した。

「そうだね~。ハットリはもう学部決めてんの?」

 私たち付属高生は、ほぼ全員エスカレーターで付属大学へと進む。私は将来の夢を決めかねていたから、アメリカ生活をしていたことを生かして「文学部 英語学科」でイイかなぁと漠然と思っていた。

「オレは法学部にする。国際弁護士になりたいんだ。笑っちゃうかもしれないけど。」

「そうなんだ!笑わないよ~。もう将来の夢があるんだね。」

 私は続ける。

「私は何だろ・・・料理関係の仕事が出来ればいいかなぁ。」

そう言うと

「そうだね。クルミ、メシとかお菓子とか作るの得意だもんな!でも、学部はどうすんの?」

「ウチの大学では、栄養士の資格は取れないからね。やっぱ、文学部かな。」

「理系だけは行くなよ!オレとキャンパスが違っちゃうからさ。」


 去年と同じ場所で、今年も部活の合宿が行われた。また、あのOBが来ている。でも、去年の文化祭の打ち上げの記憶なんてナイか!私はそのことは、もう忘れているフリをしていた。

 合宿二日目の夜、あのOBから呼び出された。

「クルミちゃん、彼氏いるの?」

「いいえ。」

「オレ、前からクルミちゃんのことが気になってるんだよね。」

「・・・。」

「オレと付き合ってくれない?」

 困った顔をして、私が断ろうとすると

「合宿最終日に返事を聞かせて。」

そう言って立ち去っていった。

 悶々としたまま合宿最終日に。告白されたことは誰にも言っていない。いつ断ろう・・・そう思っていた夜、あのOBが来て、私を外に連れ出した。

「この間の答えを聞く前に。その左手、どうしたの?教えてよ。」

ホント、嫌な人!

「アザがあるので・・・コンプレックスなんです。」

そう答えると

「そのアザも、オレは愛せるよ。見せてごらん。」

 私の左手をOBが手に取った。慌てて左手をひっこめる私。そんなときだった。

「先輩、そろそろオレの彼女、返してもらえませんか?」

 ハットリが現れた。

「え?お前ら、付き合ってんの?」

「はい。みんなには、あえて言ってナイですけどね。オレたち付き合ってます。な?」

 ハットリが私に同意を求める。

「あ・・・はい。すみません。そうです。」

「なんだよ!みんなに聞いたら、クルミちゃんは彼氏いないって言ってたし・・・チッ!」

そう舌打ちして、OBはその場を立ち去った。

 私はハットリにお礼を言おうとした。すると、ハットリの方から口火を切る。

「順番が逆になっちゃったけど、そろそろオレの彼女になってもらえませんか?」

 呆然とする私。

「昔のことはいろいろ噂では聞いてる。でも、もう忘れないか?手のことも、気にするな!」

 ハットリは続ける。

「ずっと言おうと思ってたんだ。ずっと前からオレ・・・」

「ハットリ、遅いよ!でも・・・私なんかでイイの?」

 声を震わせて言う私に

「クルミがイイんだ!」

そう言って、彼は私を抱き寄せた。


【第16章 クルミ 大学生】


 私は慶桜大文学部に、ハットリ⇄ダイキは慶桜大法学部へ進学しだ。

 交際は順調に続いている。私たちは同じテニスサークルに入り、同じ予備校で塾講師のバイトを始めた。

 それから、一緒に夏には海へ行き、秋には山へ行き、冬にはスキーに行き、そして二人は結ばれ・・・


「クルミ、明日だったよな?病院に行く日。ごめんな、一緒に行ってやれなくて。」

「そんなことナイよ。ダイキこそ、明日の面接、頑張ってね!」

 就職前に私は形成外科を受診して、左手甲のアノ傷跡をキレイにすることにした。

 ダイキは、大学院に進む予定だ。明日は、そのための学内試験がある。

「明日の夜、待ち合わせして、どっかでメシ行かないか?渡したいものがあるんだ。」

「うん!病院終わったら連絡するね。」


 紹介状を持ち大学病院に来た私は、広い院内を受診科目指して歩く。

「えっと、形成、形成・・・。」

 探しながら歩いていると、俯いてヒョロヒョロと出てきた男性にぶつかった。

「あ・・・すみません。」

 私が慌てて謝ると、男性は無言で顔を上げた。

「え?え?もしかして、ショウくん?」

「・・・?」

「ショウくんだよね?」

「・・・!」

 その人は、間違いなくショウくんだった。

 驚いているショウくんは、顔色が悪い。私はショウくんが出てきたところの、受診科を確認する。〔血液内科〕そう書いてあった。

「ショウくん、どこか悪いの?」

「あ・・・まあな。それより、ビックリしたよ、こんなとこで会うなんて。・・・髪、切ったんだな。」

「うん。就活があるから、それで。ショウくん、顔色が悪いよ。ちょっとソコに座ろ。」

 早めに病院に着いていた私は、ショウくんと外来のイスに隣り合わせで座った。

「大丈夫?どこが悪いの?」

「クルミは何しに来たんだ?」

 ショウくんは自分のことは答えない。

「私はね・・・形成外科に。ココの跡をキレイにしてもらおうと思って。」

「キレイになるんだ・・・良かった。」

 そして「じゃあな」と言うと、立ち上がろうとした。

 慌ててそれを止める私。

「待って!どこが悪いの?今、どこで何をしてるの?教えて!」

 一歩も引かないという顔の私を見て、観念したらしく、ショウくんはこう言った。

「今日、この後、時間あるか?」


 形成外科の診察を終えて、私はショウくんに指定された、病院内の喫茶店に向かった。  

 ショウくんは逃げたりしてはいないだろうか・・・。

「クルミ、こっち。」

 ショウくんが、手を上げている。ホッとした。もう会えないかもと、少し不安だったから。

「手、どうだった?」

 私がショウくんの向かいの席に座ると、すぐに聞いてきた。

「形成手術を受けることになったよ。」

「そっか。それでキレイになるんだな?良かった。」

「ねぇ、ショウくんの話を聞かせて。」

 ショウくんはためらっている。

 しばらくすると、ポツポツと語りだした。あれからどうしてたとか、今はどこで何をしているだとか。そして、

「あのときは、本当に悪かった・・・ごめん。」

 ショウくんは深々と頭を下げた。

「・・・うん。」

「クルミ、今、幸せか?」

「うん・・・幸せだよ。」

「良かった。それが聞けて、ホント、良かった。」

 そうショウくんは言うと、私の頭を撫でようとして、やめた。

 なんだか、ショウくんは元気がない。

「元気がないみたい。どうしたの?」

 ショウくんは黙っている。沈黙が続いた。

「何かあったの?」

「いや・・・いいんだ。じゃあ、元気でな。」

 ショウくんが行こうとした。

「待ってよ。」

 私はショウくんの手を掴んだ。その手をジッと見つめるショウくん。

 ショウくんは座り直した。長い沈黙。

「オレ・・・病気になっちゃった。」

 私は次の言葉を黙って待つ。

「オレ、白血病だって。・・・クルミを傷つけたバチが当たったんだな。」

 そう言って、ショウくんは力なく笑った。

「オレ・・・死ぬのかな。」


「何度も連絡したんだよ!どうした?何かあった?」

「やっと(携帯が)つながった~」と、ダイキから連絡を受けた。そして「これから会おう。渡したいものがあるって言っただろ?」と言われた。

 足取りが重い中、私は待ち合わせ場所の、いつも二人で行くレストランに向かう。ダイキにショウくんのことを言うべきなのか・・・。

 レストランでダイキと二人食事をしながら、形成手術を受けること、面接は上手くいったことなど、報告し合った。

 食後のコーヒーを飲んでいると

「クルミ。」

 真顔でダイキが私を見つめる。そして

「これからオレたち別々の道に進むだろ。オレは大学院、クルミは社会人。」

「うん、そうだね。」

「早く司法試験に受かるように頑張るから、これから先もオレと・・・。」

 言葉に詰まる。一口コーヒーを飲むダイキ。

「待たせないから・・・オレと結婚して欲しい。」

 そう言って、ダイキはポケットから小さな可愛い箱を出した。

 驚く私。もしかして、プロポーズ?

「え?は、早くない?」

「そうなんだけど・・・早く言っておかないと、これから別々になるからさ。誰かに取られたら困るじゃん。」

 そう言って、私の左手の薬指に、小さな石の付いた指輪をはめた。

 なんだろ・・この気持ち。


【 プロローグ 】


♪♪(教会の鐘の音) ♪♪


「誓いのキスを・・・」

 神父が言う。

 ウェディングドレスの私のベールが上げられる。優しく、そして、長いキスを交わした。

 ごく身近な人だけを招いた結婚式。教会のドアが開かれ、私たち二人が外に出ると、ライスシャワー!

「おめでと~!」

 カケルが言う。

「おめでとう!」

 ハルトもそう言って、新郎の肩をポンと叩いた。

「ありがとう!」


「クルミのおかかげで、オレ元気になれた。ありがとう。絶対に幸せする。誓うよ。」



                END



評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。