SWEET MEMORIES
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佑紀
【 プロローグ 】
「クルミ、大きくなったらオレのお嫁さんになってね。」
「うん!」
クルミは小さな手を差し出し、小指をからませた。
【第1章ハルト 保育園児】
僕、ハルトは、今日も従兄妹のカケル兄ちゃんと、その妹クルミと一緒に保育園で過ごす。ずっと三人兄妹のように育ってきた。
カケル兄ちゃんは僕より3歳上。優しく面倒見が良くて、何より妹想い。
クルミは僕より1歳下。甘えん坊で、カケル兄ちゃんと僕のそばから離れない。
カケル兄ちゃんがいつもクルミを可愛がるから、僕も当たり前のようにクルミを可愛がる。
「ハル、クルミを泣かせちゃダメだよ!」
「わかってるって!カケル兄ちゃん!」
「クルミ、にぃにとハル、だぁいすき!」
僕のママと、カケル兄ちゃん・クルミ兄妹のママは姉妹で、同じ病院で働く看護師。家も同じ敷地内でお隣同士。
パパたちは大学のときの親友だったけど、僕のパパは、僕が1歳のときに事故で亡くなってしまった。シングルマザーになった僕のママは、カケル兄ちゃん・クルミのママと同じ日勤のみの勤務から、夜勤もする勤務に変えた。
僕のママが夜勤をするときは、僕はカケル兄ちゃん・クルミの家にお泊りする。お泊りのときは、三人でお風呂に入り、三人一緒に川の字で寝る。一人っ子の僕にとって、このお泊りは楽しみなくらいだった。
パパのいない寂しさも、僕は感じていない。カケル兄ちゃん・クルミのパパが自分の子供に交えて、庭で遊んでくれたり旅行にも一緒に連れて行ってくれる。キャッチボールも泳ぎも、カケル兄ちゃん・クルミのパパから習った。
そして3月。カケル兄ちゃんは卒園した。
カケル兄ちゃんの卒園と同時期に、ショウという、僕と同い年の男の子が、保育園に入園してきた。ショウは人見知りで、自分からお友達に声をかけない。
ある日、カケル兄ちゃん譲りの面倒見の良さを発揮して、僕はショウに声をかけた。
「ショウくん、サッカー知ってる?」
「知ってるよ!オレ出来るよ!」
ショウは強がってみせた。
「じゃあ、やろうよ!」
僕は、小学生になってサッカークラブに入った、カケル兄ちゃんのマネをしたかったのだ。クルミ相手には、おもいっきりボールを蹴れない。
僕とショウは園庭に出て、ボールを蹴り始めた。そこにクルミが割って入る。
「クルミも入れて!」
僕はためらった。仲間に入れて、クルミにボールを当てちゃっても泣かれるが、仲間に入れてあげなくても泣かれる。カケル兄ちゃんからは、クルミを泣かせちゃダメだと言われている。
「出来んのかよ!」
ショウはクルミに言った。
「クルミ、出来るもん!」
甘えん坊だけど負けず嫌いなクルミは、ショウにおもいっきりボールを蹴った。
日頃、年上の男の
ショウは納得し、僕も少し安心して、三人でボールを蹴り合った。
その日から、保育園では常に三人で遊んだ。僕もクルミも、二人で遊ぶことにはあまり慣れていなかったからか、ショウが加わることで三人になり、この方がなんだかしっくりくると感じた。
サッカーもいいけど、クルミはおままごとだってやりたい。ときには、クルミのおままごとに付き合わされた。そこで、僕とショウは小競り合いをすることになる。二人とも、クルミの結婚相手の役をやりたいのだ。
二人とも、クルミが好きだった。
【第2章クルミ 小学生】
パパの仕事の都合で、私、クルミが小学生になるのとき、私たち家族はアメリカに移り住んだ。
現地の小学校に入学した私は、言葉の壁にぶち当たった。みんなが何をしゃべっているのか、さっぱりわからない。
それでも、私はもともと負けず嫌い。小学校の他に、ピアノ教室とヒップホップのダンススクールにも通いだした。
ピアノはママに少し教わっていたし、運動神経の良かった私は、ダンスもみるみる上達。少しずつ、私の周りに友達が集まり始める。
そんなある日、小学校で運動会が開催された。周囲に日本人は暮らしていない土地だったから、黒髪の日本人は目立つ。
私の徒競走の順番が来た。みんなの視線を感じる。
スタートの合図と同時に私は夢中で走り出す。
黒髪の女の子は、ぶっちぎりの一位でゴール!客席からもクラスメートからも、拍手が沸き起こった。私が受け入れられた瞬間だったと思う。
気がつけば、私は周囲とコミュニケーションが取れるようになっていた。
アメリカでの私の楽しみは、お友達と過ごす他に二つ。カケルお兄ちゃんと一緒に、パパからギターを教わることと、ママとお料理をすること。アメリカに来て、家族の絆は一層強くなった。
「クルミ、今日の夕食なーに?」
カケルお兄ちゃんは食べ盛り。時には献立のリクエストを私にする。
「今日はね~、ハンバーグだよ!」
「オレのは大きくしてよね!明日はギョーザがいいなぁ。」
私は得意満面の笑み。ハンバーグの上にかけるソースだって自分で作る。
最近は、ママが教えた以外のことも試してみる。ギョーザの中身を変えて作ったりして。夏に作ったシソ入りギョーザは家族に好評だったが、ここはアメリカ。シソが手に入りにくいのが難点。
そんなこともあるけれど、日本が恋しい、日本に帰りたいとは、もう思わない。
アメリカに移り住んで6年が過ぎようとしていた。家族会議の末、子供たちの進路を考えて、パパだけアメリカに残り、三人は日本へ帰国することに。
4月から私は中学生になる。
【第3章ショウ 中2 春~夏】
「新入生、入場!」
今日は中学校の入学式。在校生の中に、脱色した髪で、ひときわ目立つ風貌の男子がいる。オレ、ショウだ。
「あの子、可愛くない?」
「っつーか、美人じゃね?」
「な、ショウ?」
周囲の男子がざわつく。一列で体育館に入ってきた一年生の列の方を、面倒くさそうにチラッと目をやるオレ。・・・誰のことを言っているのか直ぐにわかった。目が大きく、ツインテールが良く似合う子が目に留まる。
「ショウ、あの子、誰だかわかるか?」
ハルトが、その子を指差した。
成績優秀で運動神経もバツグンな上に優しいイケメンのハルトが、なぜ強面で不良のオレと仲が良いのか、この中学の七不思議の一つだ。
「あれ、クルミだよ!オレの従兄妹で、オレたち同じ保育園だったじゃん!覚えているか?」
「クルミ?」
オレは遠い記憶を辿る。両親が離婚してこの町にやってきて、今は亡き祖母が保育園の送迎をしてくれた。
あの頃から今も、母親は朝に晩に働いている。寂しかったあの頃。でも、寂しかっただけではなかったような・・・。
思い出した!
「ああ、いたかも」
淡い恋心を思い出したことをハルトに気づかれたくなくて、オレはそっけなく答える。
「なあ、成長しててビックリしただろ?」
入学式の日は部活が休みだった。オレは帰宅してすぐハルトの家に遊びに行った。
「来るの早っ!ショウ、昼飯食ったのか?」
「まだだけど・・・」
「オレ、クルミと一緒に食べることになってるけど、ショウも一緒に食うか?」
オレの返事を聞かずに、ハルトは従妹の家に向かう。慌てて追いかけると、そこに現れたのは、目が大きくてツインテールが似合う、あの子だった。
「クルミ~、もう一人増えたけど、飯、足りる?」
ハルトは「コイツ、コイツ」と、後ろにいるオレを指差す。
「あ~、ちょうど今お兄ちゃんから、お昼ご飯いらなくなったってメールが来たところ。だから大丈夫」
「ラッキーだったな、ショウ!」
そう言って二人とも家の中に入っていく。戸惑いながら、遅れてオレも彼女の家にお邪魔することに。
「クルミ~、コイツ誰だかわかるか?」
クルミは料理を作る手を止めて振り返る。
「ん~?」
「保育園で一緒に遊んでた、ショウだよ!今じゃこんなイカツイ顔して金髪にしてっけど、怖くないよ!」
「金髪は見慣れてるから別に怖くないけど~!」
彼女は笑って、そして「覚えてないなぁ」と言った。オレは平然としているけれど、内心ガッカリ。
ほどなくして、彼女はダイニングテーブルで待つオレたちのもとに。出来立てのスパゲティナポリタンを運んできた。
「いっただっきま~す!」
ハルトが食べ始めた。オレは無言で食べ始める。
「うまっ!」
思わずそう口にしたオレ。それを聞いて、満面の笑みで食べ始める彼女。
「食べ終わったら三人でゲームやらない?クルミ、テレビゲーム教えてやるよ」
ハルトが言った。
夏休み。
午前中で部活が終わる日や、部活が無い日は、ハルトの家に同級生の部活仲間が集まることが多かった。
オレとハルトは同じサッカー部だ。学校ではガラの悪い先輩たちと一緒にいるオレ。同級生とはあまり話さない。けれど、ハルトとはよく話すし、ハルトの家には遊びにいく。
ハルトの家に行くと、たまに従妹のクルミがお昼ご飯を作ってくれて一緒に食べたり、彼女が手作りのお菓子を持ってきてくれたりした。
強面なオレと話す同級生の女子はあまりいなかったけれど、ハルトの家では彼女と普通に話すようになっていた。
「食事の片付け、ジャンケンでするか?」
ある日、オレが提案する。
「なんだよショウ。お前が洗うと、皿とか割りそうだな!」
ハルトが茶化す。
「じゃあ、やらねぇ!」
「え~!ジャンケンしようよ!」
彼女は喜んで乗ってくる。オレは、なんだか嬉しい。
【第4章 クルミ 中1 秋】
二学期に入った。
この頃には、クルミは日本の生活にも中学校にも慣れていた。大きな目に、サラサラのロングヘアー、すらりと長い脚。よく目立った。
天真爛漫なクルミは女子からも男子からも人気。今までに何人から告白されただろう。そのたびに男子たちは撃沈していく。
「ごめんね、好きな人がいるの。」
ピアノは趣味で弾く程度。日本でもヒップホップダンスは続けたかったけれど、部活が忙しくてやっていない。吹奏楽部と迷って、結局、軟式テニス部に入った。
体育祭が近づいてきて、クルミは学年代表のリレー選手に。
赤、白、青、黄と4色に分かれたチームで競う体育祭。ハルトは赤、クルミとショウは青だ。ハルトとショウも、リレー選手に選ばれていた。
放課後、青チームのリレー選手が集まって走ってみる。クルミは2年や3年の女子よりも速かった。
男女混合で走る順番を決める。タイムを考慮の上、3年男子→2年女子→1年男子→3年女子→1年女子→2年男子の順で走ることに。クルミのバトンをショウが受け取り、ラストを走るのだ。
体育祭当日。クルミのママもハルトのママも、仕事の休暇を取って応援に。次々に演目が行われ、最後の男女混合チームリレーの番がきた。
スタートする。大盛り上がりの中、4人中3位でクルミにバトンが回ってきた。
珍しくショウが大声を出している。クルミの名を叫んでいるのだ。
カーブに差し掛かり、1人抜いた。もう少しでショウの待つところに。夢中で走るクルミ。
ショウがスタートを切った。バトンタッチが上手くいき、青は1位に浮上。そのまま逃げ切り、ショウは1位でゴールした。
リレー選手退場。ショウはクルミに近づくと、頭をポンポンして通り過ぎた。 ドキッとするクルミ。遠ざかるショウの後ろ姿を、いつまでも見つめていた。
二学期は行事が目白押し。体育祭の次は文化祭がある。高校や大学の文化祭と違い、内容はさほど濃いものではない。
そんな中、毎年一番盛り上がるのが、有志の出し物。数組がバンド演奏をしたり、お笑いコントを披露したりする。
ハルトはギターを弾き、ショウとデュオを組んで二人で歌った。ギターはカケルから教わり、始めたばかりの腕前。それでも、黄色い声援が飛ぶ。ハルトはモテるけれど、何故か誰とも付き合わない。
次のスタンバイをしながら、舞台袖で二人の歌を聴くクルミ。1年生ながら舞台に立つのだ。
軟式テニス部の先輩に誘われて、一緒にダンスを披露する。カケルの従兄妹ということで、先輩たちに可愛がられているというワケだ。
クルミ一同は、曲に合わせてノリノリで踊る。全員ダンス経験者というだけあって、それなりの出来。クルミは輝きを放つ。
「クルミ、すごーい!」
「カッコよかったよ、クルミ!」
「すげーな!」
久しぶりに人前で踊って、高揚感でいっぱいのクルミが舞台から降りると、同級生たちが囲んできた。
先輩男子たちからも、声がかる。
【第5章 ハルト 中2 冬】
「ショウ、ちょっと買い物に付き合ってくんない?」
「いいけど、何買うんだ?」
「来週の金曜、クルミの誕生日だから、プレゼントを買いに行こうと思って。」
「来週の金曜・・・2月3日が、クルミちゃんの誕生日なのか・・・。」
オレは、クルミの好きな『くまのプーさん』を買いたいんだけど、一人で買いに行くのは恥ずかしくてと、ショウに話す。
その後、急に真剣な顔をして、考え込むショウ。どうしたんだと聞いても「うん」と言ったきり黙り込んいる。
しばらくして、ショウが重い口を開いた。
「ハルト、オレ、クルミちゃんと付き合ってもイイか?」
文化祭の後から「クルミちゃんを紹介して」と、同級生数名から言われた。でも、そのたびに断ってきた。簡単にクルミを渡すワケにはいかない。誰にも渡したくない。
ショウとクルミ?バランス悪すぎだろ!
「ショウ、お前、先輩と付き合ってる噂があったけど?」
「あぁ、それね。先輩が卒業したと同時に自然消滅。っつーか、付き合ってたのかなぁ?」
一呼吸おいて、ショウは続ける。
「でも、オレ、クルミちゃんのことはマジなんだ。本気で好きなんだよ。絶対大事にする!だから、応援して欲しい」。
こんな真面目な顔のショウを見たことがない。
「ショウ、少し時間をくれないか?」
それから毎日、オレは悩んでいた。悩んで悩みぬいて、ショウを自宅に呼んだ。
「ショウ、お前だから、本当のことを話すんだけど・・・。」
ショウは黙ってハルトの次の言葉を待つ。
「実は、オレもクルミが好きなんだ。でも、オレは従兄妹だから・・・。」
「なんとなく、気づいてたよ。もしかしてってさ。」
オレは大きく息を吐く。
「そっか・・・。ショウ、お前のこと、信じてイイのか?本当にクルミを大事にするって約束出来るのか?」
ショウは無言で、けれど、しっかりオレの目を見て、大きく頷いた。
「わかった。お前に託すよ。」
【第6章 ショウ 中3 春】
クルミの誕生日に思い切って告白をして、バレンタインデーにOKをもらった。でも、このことは、ハルト以外まだ誰も知らない。
学校では、クルミとすれ違っても話したりはしない。ラインをしたり、ハルトの家で三人で遊んだり。今までとあまり変わらないようだが、気分はまるで違う。
春休みに入った。
小遣いを前借して、クルミと二人で映画を観に行くことに。ハルトも誘ったけど、二人で行くように仕向けてくれた。
二人っきりの初デート。見たことがあるクルミの私服姿がどこか新鮮で、いつもより一層可愛く見える。
「先輩、寝ないで下さいね!」
映画館の座席に座ると、屈託のない笑顔でクルミに言われた。
「二人でいるときは、その、[先輩]ってやめない?あと、敬語も禁止ね!」
オレは、ずっと気になっていたことを言ってみる。
「ん~っと、何て呼べばイイかなぁ。じゃあ、先輩も私のこと呼ぶとき、[ちゃん]づけナシってことで!」
「ホラ、また先輩って言った~!普通に名前でイイよ。」
「ショウ・・・くん。」
ヨシヨシと、クルミの頭を撫でてやった。
一学期初日。
部活の朝練が無かったから、初めてクルミと二人で登校した。
みんながオレたちを見て驚いている。当たり前か。金髪でイカツイ顔のオレが、年下の真面目で可愛いクルミと二人でいるなんて。
でも、クルミが意外と堂々としてくれているから助かる。
昇降口でクルミと別れると、いろんな奴らがオレに声をかけてきた。
「まさか、付き合ってんの?」
無言でキッと睨むと、皆、それ以上は聞かなくなる。それでも、うるさい女子たちは団体で現れてこう言ってきた。
「どーしちゃったの?似合わないよ!」
何を言われても、オレは平気。でも、クルミは大丈夫かな。
悪い予感は的中した。数日間二人で登下校しただけで、クルミは担任から呼ばれたようだ。どうせ、オレと付き合うなって言われたんだろう。
でも、そのことをクルミはオレに言わない。心配だけど、クルミに何を言ってやればいいのかわからなかった。
一部の中3女子も黙っていなかった。クルミを呼びつけて、「先輩と付き合うなんて生意気なんだよ」と脅したらしい。
「クルミ、さっき聞いたんだけど、3年の女になんか言われただろ?大丈夫だった?」
帰り際に聞いた。
「大丈夫よ。」
クルミはそれしか言わない。
だが、奴らからのクルミへの攻撃は、収まらなかった。上履きを隠したり、教室の黒板にいたずら書きをしたり。黒板に書かれた内容は、卑猥なものだった。 もう黙ってはいられない。
「お前らがやったってわかってんだぞ!ブスのやることは、ホント、醜いよな!」
奴らを前にオレは怒鳴って、教室のイスを思い切り蹴とばした。それがまずかったのかも知れない。
クルミが大けがを負わされた。
【第7章 クルミ 中2 夏】
こんなことで負けたくない。あのとき私はそう思った。
何度か嫌がらせをしてきた先輩女子に、放課後、非常階段へ連れて行かれた。「これに耐えたら許してやるよ」
突き飛ばされて、押さえつけられ、左の手の甲にタバコの火を押し付けられた。
騒ぎを聞きつけて、ハルトとショウくんが駆け付ける。ハルトはすぐに私を抱えると水道へ。ショウくんは、その女子たちを殴った。
関係者とその親も呼ばれ、大問題に発展。先生からも、「アイツとは付き合うなって言っただろ!」と叱られた。
けれど、悪いことなんて何もしていない。
私たちは、付き合うのをやめたりなんてしなかった。
大騒ぎの一学期が終わり、今は平穏な夏休み。あれから、冷やかしも嫌がらせも一切ない。
ショウくんはタバコを止めて、髪を黒くした。引退試合を終えてから、ハルトは受験勉強に励んでいて、私たちとは全く遊ばなくなった。
私の左手の甲の傷跡は、今でもしっかりと残っている。それを隠すために、いつでも絆創膏を貼っていた。
あるとき、汗で絆創膏が取れてしまった。傷跡を見たショウくんは「そんなに跡が残っちゃったんだ・・・」と、ショックを受けている。
「もう痛くないから大丈夫なんだけどね。」
私がそう言うと、ショウくんは私を抱きしめて
「ごめん」
と力なく言った。
ハルトの家で遊ばなくなった私たちは、たまにショウくんの家で会った。借りてきた映画を観たり、ゲームをしたり。
そんなある日、ショウくんが言った。
「オレが高校に行かなかったら、もう付き合えない?」
「行かないって、どうするの?」
そう聞くと
「働くよ。勉強好きじゃないし、無理してどっかの高校に入ったとしても、きっと辞めちゃうと思うんだよね。」
ショウくんは続ける。
「ウチ、母子家庭だし。辞めちゃうくらいなら、最初から行かない方がイイと思って。クルミは中卒のオレじゃ嫌?」
「嫌じゃない。」
私は首を振った。
「ショウくんの思うようにすればイイんじゃないかな。きっと学生やるより、社会人の方が大変だろうけど。本気なら頑張って!」
「本気だよ!良かった~ホッとしたよ!」
「クルミ、お金が貯まったら、結婚して欲しい。」
まさかの二度目のプロポーズ!驚いたけど、答えは決まっている。私は黙って頷き俯くと、ショウくんから優しくキスをされた。初めてのキス・・・
【第8章 ハルト 中3 秋~冬】
クルミとショウの騒ぎは収まっていた。ショウは中1の頃、中3の先輩とのセックスが噂されたことがある。だから、オレはそんなことも心配だった。
けれど、アイツはクルミには簡単に手を出しりしないと、今はわかる。いつもはギラギラしているショウだけど、クルミといるときはいつだって、すごく落ち着いた優しい眼差しを向けていた。それを見ていれば、どれだけクルミが好きで大事にしているのか、伝わってくる。
オレは勉強に集中した。
カケル兄ちゃんは今、私立・慶桜大学に通っている。オレはその付属高校を受験したかった。きっと、クルミも高校はそこに行くに違いない。
クルミと同じ高校に通いたかった。付き合うことは無理でも、いつだってクルミの近くにいたい。
ショウは、二学期になってから、一度も学校をサボっていないようだ。そんなショウから、話があると呼び出された。
「オレ、高校には行かないことにしたんだ。昨日、お袋の伝手で就職先が決まった。クルミももう知ってる。」
「金貯めて、クルミと結婚するんだ。」
就職とか結婚とか、思いもしないセリフを聞いて、オレは言葉を失った。
心にも体にも、冷たい風が吹き抜けていくように感じた。
模擬試験も前回数を終了し、あとは受験本番を待つのみとなった。
クルミがお守り袋を作ってくれた。くまのプーさんの刺繍がされた小さな袋に、小さく畳まれた紙とハチミツ味ののど飴が入っている。
紙には〔祈 慶桜大付属高校 絶対合格!〕とキレイな文字で書かれていた。 ショウは受験しないから、オレだけに作ってくれたお守り袋。これさえあれば大丈夫!
内申が良かったオレは、単願受験することになった。もしだめでも、併願試験でもう一度受けることが出来る。絶対に合格するぞ!
【第9章 クルミ 中3 春】
4月1日からショウくんは働きだした。とび職。
「雨の日は基本仕事が休みみたいだから、そんときはクルミと会えるからね!」
そう言っていた。
ハルトは今日、高校の入学式。見事、第一志望の慶桜大付属高生となったハルトは、制服が、学ランからブレザー・ネクタイ姿になった。
朝、庭で一緒に記念写真と撮るとき
「制服、よく似合ってるね!カッコイイよ!」
そう私が言うと
「当たり前だろ!来年クルミが入学してくるのを待ってるかな!」
と言って、頭をポンポンしてきた。いよいよ、私も受験生か・・・。
学校に行くと、教室に見慣れない男子がいた。ずいぶん背が高い人だな・・・そう思っていると、親友のアイカが
「ねぇねぇ、転校生かな?ヤバくない?カッコイイよね!」
と耳打ちしてきた。
担任から、その男子の紹介があった。いままで2年間、イギリスに住んでいたらしい。高校受験があるから、その前に帰国したのかな?
その転校生と私は席が隣同士になった。アイカが「ずる~い」と、遠くから頬を膨らませてブーイングしてくる。
「ハットリ・ダイキです。よろしくね!」
転校生は私に、そう爽やかに挨拶した。
「修学旅行、気をつけてね!浮気しちゃダメだよ!」
そうショウくんに言われた私は
「はいはい。お土産買ってくるからね!」と、軽く受け流す。最近、やたらと浮気を心配してくるなぁ・・・。
修学旅行は5月下旬。当日は快晴だった。でも、なんだかチョット寒気がする。風邪かな?ひどくならないうちに、風邪薬を飲んでおこう。
バスの中でも、旅行先に着いても、みんなテンションが高い。そのテンションのまま夜に突入した。
「ねぇねぇ、男子の部屋に行かない?」
消灯時間を過ぎてから、誰かがそんなことを言い出した。同じ部屋のみんなも賛同する。
私は風邪薬のせいで眠かったけれど、みんなと一緒に男子の部屋に向かった。
先生と鉢合わせにならないかとハラハラしながら、無事に男子の部屋に到着。待ってましたとばかりに盛り上がる男子たち。
「先生が来たらココに隠れようね」と、私たちは履いてきたスリッパを、先に押し入れへ隠しておく。
みんなで色んな話をした。恋バナや思い出話。ほどなくして、見張り役の男子が
「先生が来るぞ!」
そう言って、急に電気が消された。真っ暗になって何も見えない。
しまった・・・押し入れから遠い場所にいるよ、私。
不意に誰かが私を力強く引っ張って、布団の中にすっぽりと隠した。そして、小さな声でこう言った。
「イイよって言うまで、小さくまるまってて。」
声の主は、転校生のハットリだとわかった。
どれくらい時間が経っただろう。眠っちゃったんだ、私。
そーぅっと、布団から顔を出してみる。
「起きた?」
私に向かって、ハットリが小声で言った。
「みんなは?」
私も小声で聞くと
「もう部屋に帰ったみたいだ(・)な(・)。」
「・・・!」
だ(・)な(・)って何よ、だ(・)な(・)って!起こしてくれればいいじゃん! 私はそう思ったけど、眠っちゃったことが恥ずかしくて、言えなかった。
「部屋まで送っていくよ。」
ハットリがそう言ったので、二人でそーぅっと部屋を出た。男子たちは、先生が来るからと寝たふりをして、そのままホントに眠っちゃったみたいだった。
静まり返る廊下と階段。どうにか誰にも見つからずに、女子の部屋にたどり着いた。
私がドアノブに手をかけようとしたそのとき、ハットリの顔が私の顔の前に不意に現れて・・・キス!
そして、ハットリは無言のまま立ち去った。
【第10章 ショウ 16歳 夏】
クルミの学校が夏休みに入った。クルミは部活を引退すると塾に通うように。 一学期はあまり会えなかった。だから、夏休みは少しでも多く一緒に過ごしたい。そう思っていたのに、クルミは忙しいらしく、なかなか会えずにいた。
もしかして、好きな人が出来たのかも。そんなことばかり考えて、最近、仕事も手につかない。
ライン通話しても、クルミは出ないことが多くなった。不安と寂しさと苛立ちが募る。
何度もラインして、やっと会える日を取り付けた。
久しぶりのデートの日。外で会うのは暑いからと、クルミに家へ来てもらった。相変わらずオレの母親は忙しく、いつも家には誰もいない。
あんなにクルミに会いたかったのに・・・いろんな気持ちが交錯して言葉にならない。
クルミは少し大人っぽくなっていた。学校の話をしてくるけど、話が耳に入ってこない。
プチッと、オレの中のどこかの線が、切れたような気がした。
「クルミ。」
オレはそう呟くと、クルミを押し倒す。クルミは驚いて、体を硬直させた。
無理やり唇を奪って、クルミの洋服に手をかける。クルミは激しく抵抗してきて
「やめて・・・!」
と声にならない声を上げた。でも、一度かかってしまったエンジンを、オレはもう止めることが出来ない。
クルミの涙と鮮血が、ベッドのシーツを濡らした。初めて見るクルミの涙。今まで誰に何を言われても、どんなことがあっても、決して泣かなかった彼女を、オレは泣かせてしまった。
大事にする・・・そうハルトに誓ったのに。
とてつもない後悔が押し寄せた。
【第11章 ハルト 高1 冬】
ショウにラインを送信しても、夏ごろから一向に既読がつかなくなった。クルミと何かあったのかな?気になるけど、クルミにも聞けないまま、季節は冬を迎えた。
「痩せたみたいだけど、大丈夫か?」
クルミを見かけて声をかける。
「大丈夫よ。」
そう答えるけれど、いつものクルミスマイルはそこに無かった。きっと二人は別れたんだ!そう確信した。
やっぱりオレと同じ高校を受験させて、クルミはオレが守ってやらなきゃ!
「クルミ、第一志望はどこにするか決まった?」
オレは、ショウの名前は口にせずに問いかける。
「ハルトと同じ慶桜大付属高か、IPU高か・・・難しいと思うけどね。」
「えっ?IPU?」
考えて無かった。そうか、クルミは帰国子女で英語が得意だから、そういった選択も有りか・・・。
なんとか、オレと同じ高校を受験するように仕向けなきゃな。
お正月も、塾の受験合宿に参加したクルミ。痩せたままだったけど、それは受験で大変だからかなと、もうショウとのことが原因だとは考えなかった。あんなことが二人の間であったなんて、オレは知らなかったから。
元旦に男友達と初詣に行ったオレは、合格祈願のお守り袋を買ってきて、合宿から帰ったクルミに渡した。
「ありがと。頑張るね。」
クルミは力なく微笑んだ。
神様、どうかクルミと同じ高校になれますように・・・。
【第12章 クルミ 高1 春】
「あ~!ハットリ、おはよう!」
地元の駅のホームでハットリに会った。
「いよいよ高校生活の始まりだな!二人とも受かって良かったよ~どっちかダメだったら、やっぱ、気まずいもんな!」
ハットリが笑いながら言う。そのまま話しながら、高校へと向かった。
あのキスの真相は確かめていない。あの翌日、ハットリに話しかけようとしたら、向こうから
「二人だけの秘密ね!」
そう言ってきて、以来、何事もなく・・・と言うか、友達としてすごく仲良く過ごしてきた。
「好き」だとか「付き合う」だとか言わない、ただ仲良しの男友達は、一緒にいて心地良い。
ハットリとは別々のクラスになった。けれど、約束もしていないのに、何故か行きも帰りも駅でハットリと会う毎日。
少し不思議だったけど、意外と嫌じゃない。むしろ、嬉しいかも。一緒にいて楽しいから。
「部活、どこ入るか決めた?」
ハットリに聞かれる。
「オレ、こっち越してきてからは部活に入んなかったけど、あっちにいたときは、テニスしてたんだよね。」
「硬式テニス?」
「そうそう。クルミも硬式テニスやろうよ!」
「え~私は軟式テニスしかやってないからな~。」
そう言ったものの気になって、硬式テニス部を見学してみた。大半は中学のときに軟式をやっていて、硬式経験者は二人だけ。
ハットリも教えてくれるって言ってたから、硬式テニス部に入ることにした。
部活を決めると、ハットリと二人でラケットを買いに行くことに。あれこれと教えてもらって購入出来た。
それからも私たちは一緒に通学し、帰りにお茶したり、そこで一緒に勉強したりした。
仲良しの友達のまま、一学期終了。
【第13章 ハルト 高2 夏】
「ハルト、去年の夏休みの宿題、取っておいてある?」
夏休みに入ってすぐ、クルミが聞いてきた。
「取ってなんかナイよ。楽しちゃダメだぞ、クルミ!」
「え~っ!同じ高校に通う意味ないじゃん。」
拗ねてみせる姿が愛くるしい。気がつけば、クルミスマイルは、とうに復活していた。
本当はクルミと登下校を一緒にしたかったけど、オレはサッカー部でクルミとは部活が別々だから、それはほとんど叶わなかった。
クルミは同じ高校に通う、同じ中学出身の男と仲がイイみたいだ。二人でいるところを何度か見かけて、一度だけ「付き合ってんの?」って聞いたら、声を揃えて「ナイ、ナイ!」と笑って返された。
いまだにクルミの左手の甲には、絆創膏が貼られている。けれど、クルミはもう吹っ切れたのかな?あんな辛い思いは、二度とさせたりしない!
地元の夏祭りのとき、久しぶりに中学時代の仲間たちと会った。聞けば、ショウは仕事を辞めて行方不明らしい。アイツは今、どこで何をやっているんだ?オレはアイツの何を信じていたんだろう。
クルミが親友のアイカちゃんと、浴衣姿で現れた。少し大人っぽくなったクルミに、ヘンな奴らが声をかけやしないかと、オレは気が気でない。
今度クルミが誰かと付き合うことになったら、オレも彼女を作って、Wデートしようかな。
ふと、そんなことを思った。
【第14章 クルミ 高1 秋】
初めての文化祭。私は部活の模擬店の仕事の他に、ハルトと、その友達と一緒にバンドを組んで舞台に上がった。アンコールがあり、急きょ、私独りでYUIの曲をギターで弾き語りしたら、すごい反響があってビックリ!
その夜、部活仲間全員+部活OG&OBと一緒に、カラオケで文化祭の打ち上げ。その時もリクエストがあって、私は歌を披露した。
夏のテニス合宿でお世話になったOBの一人が「歌、上手いよね」と私に近づいてくる。なんか苦手だな、この人。
嫌な予感は的中した。
「クルミちゃん、合宿のときから気になっていたんだけど、いつもソコに絆創膏貼ってるよね?」
と、私の左手を指差した。
面倒くさいから、笑ってごまかす私。
「ソコ、どーしたの?」
答えなかったら、しつこく聞いてきた。
「どれ、どれ。」
不意に私の左手が、そのOBの人に引っ張られる。
「クルミ、携帯鳴ってるぞ!」
ハットリがそう言った。
慌てて「チョットすみません」そう断って、先輩の手を振りほどく私。
「部屋から出ろ。」
ハットリからのメールだった。
私が部屋から出ると、その後を追うように、ハットリも出てきた。
「大丈夫か?」
あの一件があったとき、ハットリはまだ転校してきていなかったけれど、有名な事件だから誰かに聞いたのだろう。ハットリのおかげで、OBから逃れることだが出来た。
「ありがと。おかげで助かったよ。」
【第15章 クルミ 高2 夏】
相変わらず、私はハットリと仲が良かった。登下校や部活が一緒なだけではなく、友達も交えて遊びに行ったり、買い物したり、勉強したり。
お互い、同級生に告白されたことはあったけど、私たちは誰とも付き合うことをしなかった。
「二学期になったら、進路調査があるよな。」
夏休みに入ったある日、ハットリがそう切り出した。
「そうだね~。ハットリはもう学部決めてんの?」
私たち付属高生は、ほぼ全員エスカレーターで付属大学へと進む。私は将来の夢を決めかねていたから、アメリカ生活をしていたことを生かして「文学部 英語学科」でイイかなぁと漠然と思っていた。
「オレは法学部にする。国際弁護士になりたいんだ。笑っちゃうかもしれないけど。」
「そうなんだ!笑わないよ~。もう将来の夢があるんだね。」
私は続ける。
「私は何だろ・・・料理関係の仕事が出来ればいいかなぁ。」
そう言うと
「そうだね。クルミ、メシとかお菓子とか作るの得意だもんな!でも、学部はどうすんの?」
「ウチの大学では、栄養士の資格は取れないからね。やっぱ、文学部かな。」
「理系だけは行くなよ!オレとキャンパスが違っちゃうからさ。」
去年と同じ場所で、今年も部活の合宿が行われた。また、あのOBが来ている。でも、去年の文化祭の打ち上げの記憶なんてナイか!私はそのことは、もう忘れているフリをしていた。
合宿二日目の夜、あのOBから呼び出された。
「クルミちゃん、彼氏いるの?」
「いいえ。」
「オレ、前からクルミちゃんのことが気になってるんだよね。」
「・・・。」
「オレと付き合ってくれない?」
困った顔をして、私が断ろうとすると
「合宿最終日に返事を聞かせて。」
そう言って立ち去っていった。
悶々としたまま合宿最終日に。告白されたことは誰にも言っていない。いつ断ろう・・・そう思っていた夜、あのOBが来て、私を外に連れ出した。
「この間の答えを聞く前に。その左手、どうしたの?教えてよ。」
ホント、嫌な人!
「アザがあるので・・・コンプレックスなんです。」
そう答えると
「そのアザも、オレは愛せるよ。見せてごらん。」
私の左手をOBが手に取った。慌てて左手をひっこめる私。そんなときだった。
「先輩、そろそろオレの彼女、返してもらえませんか?」
ハットリが現れた。
「え?お前ら、付き合ってんの?」
「はい。みんなには、あえて言ってナイですけどね。オレたち付き合ってます。な?」
ハットリが私に同意を求める。
「あ・・・はい。すみません。そうです。」
「なんだよ!みんなに聞いたら、クルミちゃんは彼氏いないって言ってたし・・・チッ!」
そう舌打ちして、OBはその場を立ち去った。
私はハットリにお礼を言おうとした。すると、ハットリの方から口火を切る。
「順番が逆になっちゃったけど、そろそろオレの彼女になってもらえませんか?」
呆然とする私。
「昔のことはいろいろ噂では聞いてる。でも、もう忘れないか?手のことも、気にするな!」
ハットリは続ける。
「ずっと言おうと思ってたんだ。ずっと前からオレ・・・」
「ハットリ、遅いよ!でも・・・私なんかでイイの?」
声を震わせて言う私に
「クルミがイイんだ!」
そう言って、彼は私を抱き寄せた。
【第16章 クルミ 大学生】
私は慶桜大文学部に、ハットリ⇄ダイキは慶桜大法学部へ進学しだ。
交際は順調に続いている。私たちは同じテニスサークルに入り、同じ予備校で塾講師のバイトを始めた。
それから、一緒に夏には海へ行き、秋には山へ行き、冬にはスキーに行き、そして二人は結ばれ・・・
「クルミ、明日だったよな?病院に行く日。ごめんな、一緒に行ってやれなくて。」
「そんなことナイよ。ダイキこそ、明日の面接、頑張ってね!」
就職前に私は形成外科を受診して、左手甲のアノ傷跡をキレイにすることにした。
ダイキは、大学院に進む予定だ。明日は、そのための学内試験がある。
「明日の夜、待ち合わせして、どっかでメシ行かないか?渡したいものがあるんだ。」
「うん!病院終わったら連絡するね。」
紹介状を持ち大学病院に来た私は、広い院内を受診科目指して歩く。
「えっと、形成、形成・・・。」
探しながら歩いていると、俯いてヒョロヒョロと出てきた男性にぶつかった。
「あ・・・すみません。」
私が慌てて謝ると、男性は無言で顔を上げた。
「え?え?もしかして、ショウくん?」
「・・・?」
「ショウくんだよね?」
「・・・!」
その人は、間違いなくショウくんだった。
驚いているショウくんは、顔色が悪い。私はショウくんが出てきたところの、受診科を確認する。〔血液内科〕そう書いてあった。
「ショウくん、どこか悪いの?」
「あ・・・まあな。それより、ビックリしたよ、こんなとこで会うなんて。・・・髪、切ったんだな。」
「うん。就活があるから、それで。ショウくん、顔色が悪いよ。ちょっとソコに座ろ。」
早めに病院に着いていた私は、ショウくんと外来のイスに隣り合わせで座った。
「大丈夫?どこが悪いの?」
「クルミは何しに来たんだ?」
ショウくんは自分のことは答えない。
「私はね・・・形成外科に。ココの跡をキレイにしてもらおうと思って。」
「キレイになるんだ・・・良かった。」
そして「じゃあな」と言うと、立ち上がろうとした。
慌ててそれを止める私。
「待って!どこが悪いの?今、どこで何をしてるの?教えて!」
一歩も引かないという顔の私を見て、観念したらしく、ショウくんはこう言った。
「今日、この後、時間あるか?」
形成外科の診察を終えて、私はショウくんに指定された、病院内の喫茶店に向かった。
ショウくんは逃げたりしてはいないだろうか・・・。
「クルミ、こっち。」
ショウくんが、手を上げている。ホッとした。もう会えないかもと、少し不安だったから。
「手、どうだった?」
私がショウくんの向かいの席に座ると、すぐに聞いてきた。
「形成手術を受けることになったよ。」
「そっか。それでキレイになるんだな?良かった。」
「ねぇ、ショウくんの話を聞かせて。」
ショウくんはためらっている。
しばらくすると、ポツポツと語りだした。あれからどうしてたとか、今はどこで何をしているだとか。そして、
「あのときは、本当に悪かった・・・ごめん。」
ショウくんは深々と頭を下げた。
「・・・うん。」
「クルミ、今、幸せか?」
「うん・・・幸せだよ。」
「良かった。それが聞けて、ホント、良かった。」
そうショウくんは言うと、私の頭を撫でようとして、やめた。
なんだか、ショウくんは元気がない。
「元気がないみたい。どうしたの?」
ショウくんは黙っている。沈黙が続いた。
「何かあったの?」
「いや・・・いいんだ。じゃあ、元気でな。」
ショウくんが行こうとした。
「待ってよ。」
私はショウくんの手を掴んだ。その手をジッと見つめるショウくん。
ショウくんは座り直した。長い沈黙。
「オレ・・・病気になっちゃった。」
私は次の言葉を黙って待つ。
「オレ、白血病だって。・・・クルミを傷つけたバチが当たったんだな。」
そう言って、ショウくんは力なく笑った。
「オレ・・・死ぬのかな。」
「何度も連絡したんだよ!どうした?何かあった?」
「やっと(携帯が)つながった~」と、ダイキから連絡を受けた。そして「これから会おう。渡したいものがあるって言っただろ?」と言われた。
足取りが重い中、私は待ち合わせ場所の、いつも二人で行くレストランに向かう。ダイキにショウくんのことを言うべきなのか・・・。
レストランでダイキと二人食事をしながら、形成手術を受けること、面接は上手くいったことなど、報告し合った。
食後のコーヒーを飲んでいると
「クルミ。」
真顔でダイキが私を見つめる。そして
「これからオレたち別々の道に進むだろ。オレは大学院、クルミは社会人。」
「うん、そうだね。」
「早く司法試験に受かるように頑張るから、これから先もオレと・・・。」
言葉に詰まる。一口コーヒーを飲むダイキ。
「待たせないから・・・オレと結婚して欲しい。」
そう言って、ダイキはポケットから小さな可愛い箱を出した。
驚く私。もしかして、プロポーズ?
「え?は、早くない?」
「そうなんだけど・・・早く言っておかないと、これから別々になるからさ。誰かに取られたら困るじゃん。」
そう言って、私の左手の薬指に、小さな石の付いた指輪をはめた。
なんだろ・・この気持ち。
【 プロローグ 】
♪♪(教会の鐘の音) ♪♪
「誓いのキスを・・・」
神父が言う。
ウェディングドレスの私のベールが上げられる。優しく、そして、長いキスを交わした。
ごく身近な人だけを招いた結婚式。教会のドアが開かれ、私たち二人が外に出ると、ライスシャワー!
「おめでと~!」
カケルが言う。
「おめでとう!」
ハルトもそう言って、新郎の肩をポンと叩いた。
「ありがとう!」
「クルミのおかかげで、オレ元気になれた。ありがとう。絶対に幸せする。誓うよ。」
END