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たっくすへいぶん。 作者:haneco
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税金、保険料。

この話に出てくる社保は社保の健康保険の部分を指します。厚生年金は別個のキャラで出てきますし。それから、あらすじにも記載しましたが、もう一度言います。関係者の方、怒らないで下さい。

 失業者は思う。

 ——税金は高い。死ぬほど高い。殺す気で高い。

 年金、健康保険、住民税、消費税、所得税……は、なくなったのだったか。まあとにかく、無職には死ぬほどキツい高額請求。

 死ねと言われている気がするばかりだ。



「……どうせ、僕なんて僕なんて僕なんて……っ」

 脱色著しい金髪に近い傷んだ髪の毛。耳には夥しい量のピアス。顔はそこそこ。身長は平均。そして細身。年齢は二十歳前後くらいか。ちょっとちゃらいだけの兄ちゃん。

 な、感じの彼は、膝を抱えて丸まって下を向いて、床と会話せんばかりの状態になっていた。その体に纏う空気は非常に鬱な感じである。

「あ〜……まぁた国保が落ち込んでるよ」

 ミニスカートをはいたツインテールの美少女(多分十五歳前後)が呆れたように吐き出した。黒い髪の毛がぱさっと揺れる。

「給料から気付かれない感じに天引きされてる社保には分からないよ。そうだよ分かんないよ。今日も区役所や市役所に無駄に高額で払えません。って殴り込みや泣き落としされた僕の気持ちなんてっ」

 ちょっとたれ目気味の焦げ茶色の瞳、の白目部分は泣きはらして今や真っ赤だ。目の周りも現在進行形で泣いてますな真っ赤っか。

「そりゃ分かんないけどね。アタシだって常に高い高いって明細で文句言われてんの。会社も企業努力の限界ですとか言ってきたりしてんのよ? 分かってんのそこんとこ」

「う……うぅぅぅぅ〜」

 言い返す言葉を失った国保は、さらに地の底へとテンションを下げた。自分だけが悲しいんです地獄なんですという暗澹たる空気を周囲に遺憾なくまき散らしている。

「おっつかれ〜。って、あれ? 国保サンまた泣いてんだ? 社保センパイってばまたいじめっこしてんですかぁ?」

 軽いノリで黒髪眼鏡の長身痩躯の美少年が現れる。黙っていれば理知的な少年なのだが、口を開けば知性がまったく感じられないのが彼の特徴だ。

「何言ってんのよ。厚生年金。いつものいじいじグセよ。自分なんて死んだ方がいいってくらいに落ち込んでるだけよ」

 ああ、と厚生年金は頷いた。

「俺たちも企業から文句とか言われてるんだけどさぁ」

「その訴えはスルーされたわ。他人のこと考えてる余裕なんて、いつもだけどないみたいよ。ま、だからさらにダメダメなんだけど」

 国保のネガティブ前回な耳を打つのは、ダメダメという言葉。こういう言葉には敏感に反応して決壊した涙腺がさらにヤバくなる。

「うぅ。僕なんて僕なんて、地球上の誰よりも最低なダメヤロウなんだ。もう消え去った方がいいんだ。役所の人も僕を捨てたいって思ってるんだ。絶対」

 ダークネス全開で下を向きまくった国保は、上を向く気配が一向にない。

「ダメじゃないですか。国保くんを罵ってどうするんですか。社保さん、厚生年金くん。罵倒をするのならば是非私を! お二人に罵られることを考えますと、私は多大なる興奮を覚えずにいられないのですが」

 地毛で茶色い短髪に爽やかな顔立ち、見た目だけは爽やかな好青年。が、華麗(?)に登場を決めてくれた。

 彼の年齢はたぶん、二十代前半と思われる。

「うっわぁ。来て早々そのセリフ。ドMな変態って気色悪いわね」

「ですね。国民年金さんてばいつも変ですよねぇ」

「いいですね。是非もっと罵って下さい。罵倒して下さい。よろしければ緊縛して下さったりなんかすると、もっともっと嬉しいのですが。縄はこちらに持参しております」

 爽やかな笑顔と敬語で、言うことはドM一直線な変態だ。手に持たれた縄が恐い。

「自分が縛られるために縄まで持ってきてるわよ。このヒト……」

「変態ってこういうところ努力するよねぇ。自分の趣味にはどこまでも素直だね〜」

 温度の低い二人の視線も、国民年金にとっては興奮を刺激するスパイスに過ぎない。

「もっと罵って欲しいところですが、今日は他の皆さんはどうしたんです? 固定資産税さんや所得税さんたちはともかく、消費税さんと住民税くんは来る予定ではありませんでした?」

 今日、現状報告会という名を冠したミーティングに現れるのは、国保に社保に厚生年金と国民年金、それから消費税と住民税の予定であった。本当は共済年金も姿を現す予定だったのだが、彼は今日いきなり予定が入ってキャンセルとなった。

 その他のメンツは時間が合わずまた今度、ということで会議室は六人になる予定だったのだが。

「あ、アタシ消費税から連絡来たわよ。知恵熱が出たから欠席します。って。小さい子じゃなくても出るのね。知恵熱」

「そだそだ。俺は住民税からメール貰ってたや。ん、っとね、今日はリアルに見たいアニメがあるから欠席するって。録画もしようと思ったらしいけど、リアルタイムで見たいっていう熱い気持ちに勝てなかったんだって〜」

 スマホをいじりながら、厚生年金が言う。

「ということは、今日は四人ですか」

 こくり、と部屋の隅で丸くなっている国保以外が頷いた。


 ミーティングを始めるぞ、と言っても国保は部屋の隅から動こうとしなかったので、厚生年金と国民年金が力づくで彼を椅子に座らせた。

 視線が真っすぐ下のテーブルにしか向いていないのが多少気にかかるところだが、部屋の隅でいじいじされているよりは幾分かミーティングらしい。

「アタシはいつも通りよ。やっぱり加入してくれない企業もあるわね。そこは国保に任せるってことになってるわ」

 早口でとっとと社保が報告した。いつもと話すことが変わらない面倒なミーティングなど早く終わらせてしまいたい。そんな気持ちが伝わってくる。

「俺もです。キツいとか言われるけど〜、そこはいっつもだし。任意加入も、う〜ん。いつも通りかなぁ。あんまりちゃんと把握してないんだよね。面倒で」

「そこは面倒じゃダメじゃない。アンタ将来の年金を背負ってるのよ」

「そうだけど、あんまりビッシビシに考えてたらネジが飛んで破綻するし。遊びがあって多少グレーにいい加減〜でいいんだと思うんだよねぇ」

 眼鏡のフレームを押しながら厚生年金はのんきに報告する。

「国民に殺されるわよ。アンタ」

「えぇ〜。ちゃーんと支払いはするよ。滞納はしないってばぁ」

 とにもかくにもいつも通りな二人に、国民年金はメモを取るのもやめている。

「で、国民年金はどうなのよ?」

「私もいつも通りです。免除申請してくれない未納の方もまだ多数いらっしゃいます。そこで上から文句をチクチク言われるのが……たまらないですね。納付書を破り捨てられるときのあの胸にツンとくる痛みも、生活の素敵なスパイスです」

「うっわ。未納率高いくせに何その態度。喜んじゃってどうすんのよ。国保だったらその状況、自殺するかも知れないわよ」

 自分の名を呼ばれたことと、自殺という黒いキーワードに下を向いていた国保がぴくりと反応した。

「そうだ。僕なんて自殺して死んでしまえばいいんだ。国民に殺される前に死ねればっ……。救急車やパトカーを呼ばない自殺を考えないと。あれは税金で動くから。死んでまで税金の無駄とか言われたら浮かばれなすぎる……」

 テーブルと会話するように下を向いて、とってもネガティブ発言。

「死んだ後も税金の心配してるわね」

「マジメだよねぇ。国保くんてば。だから病んじゃうんだよ〜」

「アンタはもうちょっと国保を見習うといいわよ」

「テーブルとキスしそうな距離で会話するのは腰痛めそうで無理だよ〜」

「バカ。そうじゃないわよ」

 社保の右手が厚生年金をはたく。

「いったぁ。センパイ、手加減してよ。本気だったよね?」

「本気じゃないとアンタの頭はなおらないでしょ。って、本気でやってもなおらないけど」

「社保さん。叩くのであれば厚生年金くんでなく私を」

「気色悪いわね。っと、あとの報告は国保だけど、最初の気持ちダダ漏れの独り言で確認完了してるのよね」

「じゃ、帰ろ。俺お腹空いた。晩飯ちょ〜楽しみぃ」

 パッと立ち上がった厚生年金は、凄い早さで会議室から去って行く。彼の頭の中はすでに晩ご飯一色のようであった。

「アタシも帰るわ」

「では私も」

 残り二人も会議室を後にして、最後にテーブルとキス直前の国保だけが残った。



「って、なんか全然萌えねえんだけど。この擬人化が間違ってんのかよ」

 はぁ、と失業者から大きな溜息が漏れる。

 擬人化をして気持ちを盛り上げてみても、目にした納付書に涙が出そうになるばかり。失業者にはあり得ない金額の納付書の期限は、あと一週間。

 これで払わなければ利息が乗せられる。

 就職活動とか、そこらへんも考えなくてはならないのに!

 頭の中は金のことばかりだ。まるで金の亡者になった気分だ。

「あぁあ。もう、やっぱエロにするべきだったか。鬼畜に責められる奴らを妄想すればもっと気は済んだのか!」

 本当に納付書を破ってやろうかと手をかけて、失業者はその手を力なく放した。

「とりあえず、寝ちまお。寝て忘れよ。今日は忘れよ。ヤなこと忘れちまお」

気が向けば、所得税などのメンツも登場させたいと思います。ということで、一応連載設定にしておきます。

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