第1話 - Duel blood wake-up -
〈3〉
公立美崎台高校。この地区最大のマンモス校である。
「なーなーセーラ、英語の宿題忘れちった! 教えれ! むしろノート写させて!」
今日もその眼光で男子たちを怯えさせながら登校してきた緋川セーラ。
1年Ⅳ組の教室に入るや否や、クラスメートの少女に抱き付かれる。
「あのな、アタシが真面目に宿題やってくる顔に見えるか?」
「にしし、ちっとも見えねー」
クラスメート、
「でも、セーラはやってるっしょ? 中学からの付き合いだもん、お見通しだって!」
「……まぁな」
結子は、セーラの凶悪な眼光を恐れない、数少ない一人である。
中学時代の3年間も同じクラス、そして高校でまでも。
セーラは「腐れ縁」と照れ隠しに言うが、親友と呼ぶべき相手。
しかし、カバンからノートを出して結子に渡しかけるのを、別の少女が止める。
「ふふ、ゆーこを甘やかしちゃだめですよ、セーラ。宿題は自分でやらないと、身に付きませんから」
白い指先、きれいに切りそろえた、艶やかな黒髪。いかにも茶道や生け花が似合う純和風のお嬢様。
もう一人の親友、
「だってさ、ゆーこ。ふみか様がお怒りだぞ」
「ええぇー、いいじゃん別に、宿題写すくらいさ。親友のわたしを見捨てるわけー!?」
「い・け・ま・せ・ん。親しき仲にも礼儀ありですよ?」
「……なにそれ、コトワザ?」
二人を、セーラは止める。結子の肩を叩きながら、
「ほら、
なおも文句を垂れる結子の、耳を引っ張って席へ連れていく。
英語のノートを開いて、要点だけレッスン。
いかにも不良な見た目と違い、セーラは成績も悪くないのだ。
「もう、セーラはゆーこに優しすぎです。ちょっと妬いてしまいますわ」
唇を尖らせる文香に、結子は悪戯っぽい笑顔。
「にしし、セーラはわたしを愛してるかんな!」
「愛してねぇから」
軽く脳天にチョップを入れてやる。
……いつもと同じ、中学の頃から変わらない日常。何気ないけど、セーラにとっては大切な時間。
父を亡くしてからは、余計にその有難さを感じている。
結子と文香は、小学校からの友達。セーラとは中学の時に出会った。
物怖じしない結子はともかく、お嬢様の文香は、初対面の頃はセーラを怖がったものだ。
セーラも、その時はまだ髪を脱色もしてなかったし、今のような不良ルックではなかったのだが、目つきと男っぽい口調に怯えられたらしい。
でも、警察官の父が殉職し、泣いていたセーラを立ち直らせてくれたのは二人だった。
だから、気恥ずかしくて口には出さないけど、とても感謝している。
(ホントは、二人とも愛してるよ。友達としてだけどな)
・ ・ ・
放課後、カバンにノートや筆箱をしまい、帰り支度を始めるセーラに。
結子が話しかけてくる。
「なーなー、セーラは知ってる? 最近話題のサイト!」
自分のスマホを操作しながら、セーラの前の席に座る。この学校では、生徒の携帯やスマホ持ち込みを禁じていない。ここ美崎台はあまり治安の良くない都市なので、安全のためでもあった。
「セーラがさ、興味ありそうなんだよね!」
「へえ、どんなの?」
セーラはあまり噂や流行に敏感な方ではない。
尋ねると、結子は教えた。この時は、まだ毛筋ほども噂の内容を信じていない、軽い口調で。
緋川セーラを、血と決闘の夜へ導く噂を。
「魔法少女になって、願いを叶えるサイトの噂」