『電気じかけのクジラは歌う/逸木裕』:AIは人間の音楽創作までも喰らい尽くすのか

個人的こんな方におススメ♬

 

こんにちは、RKOです。本日は2019年8月刊行、逸木裕作「電気じかけのクジラは歌う」をご紹介します。本作は、第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞した作家が描く、近未来SFミステリーです。

 

非常に魅力的なタイトルに惹かれて手に取った本作。これまで人間が創作してきた楽曲を教師データとしてAIが学習し、オリジナルの作曲を行う時代となった近未来の世界が描かれます。その中で自分達の存在意義を問い、もがく人間のアーティスト・作曲家たち。この独自の世界観にミステリーというエッセンスが見事に調和した近未来SFミステリーに仕上がっておりました。

 

ズバリ、この作品は、

『AI社会×音楽×ミステリーという要素に惹かれた』人向けです。

 

概要

 

人工知能が個人にあわせて作曲をするアプリ『Jing』が普及し、作曲家は絶滅した。『Jing』専属検査員である元作曲家・岡部のもとに、残り少ない現役作曲家で親友の名塚が自殺したと知らせが入る。そして、名塚から自らの指をかたどった謎のオブジェと未完の新曲が送られてきたのだ。名塚を慕うピアニスト・梨紗とともにその意図を追ううち、岡部はAI社会の巨大な謎に肉薄していく―。私達はなぜ創作するのか。この衝動はどこから来るのか。横溝正史ミステリ大賞受賞作家による衝撃の近未来ミステリー!(「BOOK」データベースより)

 

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RKOの個人的おススメ指数

 

謎の素晴らしさ: B(ミステリー要素は薄めですが、良質の謎を楽しめます)

文章構成: B(少し中盤、冗長な部分があったかも)

登場人物: A(作曲家達の悩み・苦しみがとてもリアルに描かれています)

読みやすさ: A(AIに詳しくない方でも理解しやすいよう書かれているので安心)

再読したい度: A(近未来SFですがいずれこういう時代が来るかも)

おススメ指数 A

AIに取って代わられない為に自分は何をすべきなのか考えさせられます。

 

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感想

 

人工知能アプリ「jing」が人間の楽曲を学習し、誰でも簡単に作曲が可能になった近未来社会。このアプリの到来によって、多くのアーティストや作曲家が仕事を奪われる事に。「jing」の検査員として働く岡部もその一人であり、彼も自身での作曲を諦め「jing」の強化のために働いていました。ある日、岡部は一人の作曲家が自殺した事を知ります。自殺した名塚は、数少ない人間の作曲家であり、かつて岡部がバンド活動を共にした親友でした。名塚が自殺して数日後、岡部のもとに彼の指をかたどったオブジェと未完の楽曲が送られてきます。なぜ岡部のもとに楽曲が送られてきたのか?名塚の真意とは?彼の自殺に疑問を感じた岡部は、その裏に隠された真実に迫ります。

 

本作は、人工知能が人間並みの作曲能力を得る事になった近未来社会を描いています。人工知能が人間の楽曲を学習する事によって能力を得ていく姿を、本作ではエサを丸ごと呑み込んでいくクジラに例えて表現しています。あくまでも、近未来社会をテーマにしたSF作品ですが、行き場を失ったアーティストや作曲家たちがもがき苦しむ姿が非常に高いリアリティを持って描かれている為、作品の世界観にハマっていきます。これは、音楽に限らず創作活動全般に当てはまるのではないでしょうか。人工知能社会の到来が果たして人間を幸せにするのか。深く考えさせられる作品でした。

 

また、本作はミステリー作品ではありますが、全編にわたって音楽の定義や存在意義についても深く語られており、音楽を愛する方にとっても楽しむことができる作品ではないかと感じました。「新しい音楽」とは何か? 本作では、人間と人工知能の楽曲創作について登場人物達の視点から語られ、最終的には一つの終着点を迎えますが、これは是非とも本作を読んで感じていただければと思います。

 

人工知能と音楽をテーマとした近未来SFミステリーである本作。人工知能アプリ「jing」がクジラのように楽曲を呑み込み、無数の新たな楽曲を生み出していく社会。果たして人間は自ら楽曲を創作する意味を見いだせるのか? 興味を持たれた方は是非とも本作をチェックしてみてください。

 

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