少子高齢化が進み、深刻な人手不足に悩まされる日本。貴重な働き手として外国人労働者も増え続け、2018年には146万人に達した。外国人が日本にとどまって働くには、必要な条件や活動範囲を定めた在留資格が必要になる。外国人労働者の受け入れが広がる一方で在留資格が乱立し、企業の現場では戸惑いの声も上がっている。(宇賀神宰司)
■2つの新しい在留資格
今春、外国人労働者の在留資格に関わる2つの法改正があった。まず4月、改正出入国管理法で導入されたのが「特定技能」だ。単純労働を対象にした資格は事実上初めて。介護や宿泊、外食といった14分野の就労が認められる。5月には「特定活動」で接客業務などができるようになった。
多くの業界では法改正で外国人労働者を雇用できるようになるとの期待が広がった。例えば飲食店で接客や簡単な調理をする場合、これまでは就労しやすい適切な在留資格がなかった。留学生が「資格外活動許可」をとれば週28時間を超えない範囲で認められていた。
■高まる期待と現実
人手不足に悩む外食各社はフルタイムで働ける外国人社員を増やそうとしている。だが在留資格を巡り、現場では異変も起きている。
「はなの舞」などを運営する大手居酒屋チェーンのチムニー。18年2月にグローバル人財開発部を設立し、外国人の雇用を本格化した。各店舗で働く留学生アルバイトは800人。これをさらに増やし、卒業後は店舗スタッフの社員として採用を進めている。昨年、ベトナムに店舗スタッフ育成の拠点も開設した。
特定技能の資格を得るには、一定の日本語能力と各業種に応じた技能試験に合格しなければならない。4月、東京で実施された外食の技能試験ではチムニーでアルバイトをしていた留学生6人が受験した。翌月結果が発表され5人が合格した。
■実態とのズレ
ところが想定通りにはいかなかった。留学生らは同じ時期に別の在留資格「技術・人文知識・国際業務(技人国)」を申請し取得していた。特定技能の在留資格の申請手続きをやめ、全員が技人国を選んでしまった。技人国の対象はシステム、経理、通訳など管理業務に限られ、店舗スタッフとしては原則働けない。
なぜ技人国を選んだのか。「飲食業の特定技能資格(1号)は家族帯同が認められない。それが問題だった」とチムニーの吉尾佳子・人財教育部長は指摘する。技人国では家族帯同が認められる。吉尾氏は「家族帯同を認めてほしい」と話す。
技人国は企業が外国人を採用する際に用いる最も一般的な資格だ。ただ大学や専門学校で学んだ分野に限られ、様々な業務を経験させて人材を育てる日本企業は利用しづらい面もある。
■接客ができる…46種類目の「特定活動」
5月に施行された「特定活動」も出足は低調だ。種類別に在留資格を定めたもので、今回の対象は国内の大学、大学院を卒業した外国人だ。飲食店や小売店などで接客ができる46種類目の資格であることから通称「特定活動46号」と呼ばれる。
46号を得るには、日本語能力試験で最高ランクの「N1」などを取得しなければならない。飲食、小売り、ホテルなど接客業が主な就職先として想定されているが、学歴や日本語の能力などのハードルの高さが壁になっているとみられる。
労働問題に詳しい日本総合研究所の山田久副理事長は「厳選した人材を長期滞在や定住につなげるのか、短期就労を目的にするのか政策を明確にする必要がある」と話す。「移民政策が進んでいるドイツでは、行政や市民団体が外国人労働者の地域共生を支援する体制がある」
9月27日時点の特定技能の資格取得者は376人、46号は数十人程度とみられている。在留資格が増えても、使いにくければ事態の改善につながらない。外国人が働きやすく、雇用する日本企業にも利用しやすい仕組みに進化させていく努力が求められている。