トヨタ自動車の「変革の現場」を追うノンフィクション連載。第38回は改めてドライバー不足問題を考える。自動運転が実現して、完成車が購入者の自宅まで自走できるようになっても、環境負荷やコストの問題で「人が運ぶ」システムが続く。トヨタはどのように対応するのか。
物流カイゼンの現場を歩いて、会った人たち全員が深刻に語るのは、いかにドライバーが足りないかである。
完成車を運ぶキャリアカーの運転手、部品を運ぶトラックの運転手が不足していて、ぎりぎりの状態で運送スケジュールを組んでいるという。「ドライバーに辞めますと言われると胃がキリキリ痛む」事態なのである。しかも、ドライバー不足が解決する見通しはまったくない。
大型トラックのドライバー、引っ越しトラックのドライバーは運転をやめるのではなく、宅配便の仕事に移っているのだという。なぜなら宅配便のほうが住んでいる地区で働くことができるのと、給料も大型トラックの運転と遜色がないからだ。
トヨタ生産方式のカイゼンを行う場合、「真因を求めよ」とされている。目先の処置をするのではなく、本当の問題点を発見し、それを解決するのがカイゼンだ、と。それでいくと、物流カイゼンを推し進めるためにはドライバー不足を解消することが必要になってくる。
環境負荷とコストが立ちはだかる
わたしは当初、ドライバー不足は近々、実用化する自動運転車が解決してくれるだろうと考えていた。さまざまな実験が進んでいるし、数年以内には自動運転が現実化すると信じるようになっていたからだ。わたしだけではなく、専門家の予想もそれくらいの時期となっている。「日本で実現するのは10~20年後」などと書いている人は見当たらない。
実現した後のわたしの予想図はこうだった。
完成車は1台ずつ工場を出て行く。そのまま道路を走って、購入した客の家の駐車場まで行く。あるいは、工場を出た車はそのまま港まで走って、自動車専用船内の所定の位置まで自走する。たちまちドライバー不足は解決する。部品の調達物流では無人のトラックあるいはドローンが活躍するから、これまたドライバー不足は問題ではなくなる。こうして技術革新がドライバー不足という問題を解きほぐしてくれる。そう思い込んでいた。
しかし、現場を取材してみると、いくら技術が進歩しても、キャリアカーや部品を運ぶトラックの運転手がいなくなることはない。ひとつは環境負荷の問題だ。ガソリン車が1台ずつ、工場から客の自宅まで自走するとなったら、CO2の排出量が膨大になる。トヨタに限らず、自動車会社はそういう選択肢は取れない。
次にコストの問題がある。自動運転の車が自動車専用船のなかまで入っていって、自ら車両を固縛するメカニカルなシステムを実現することはできるだろうけれど、それにかかるコストは大きい。人間がやったほうが安いコストで車を固縛できる。ドローンによる部品配送だって可能だろうけれど、重い部品を運ぶコストが跳ね返ったら、車の値段は高くなる。
自動車会社の技術者によれば無人運転の車は高くなるとのことだ。「車のなかを無人にするにはシステムやら何やらで12人の人間が外から車を監視していることになります。1台300万円の車を無人にすると、1500万円にはなるでしょう」
自動運転、無人運転は可能だけれど、人間が運転するより高価な車になってしまう。それくらいなら人間が運転して、モノを運んだほうがいい。しかし、人はいない。
「では、外国人労働者にやってもらおう」という議論も出てくるかもしれない。しかし、2019年度の新たな在留資格の創設でも、ドライバーという項目はない。自動車整備の技術者は新たな在留資格となったけれど、ドライバーが外国人になることはない。少なくとも、数年間は不可能だ。
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