ネイア・バラハの聖地巡礼!   作:セパさん

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玉座の間

 ナザリック地下大墳墓、玉座の間。玉座へ鎮座する死の支配者(オーバーロード)を前に跪くのは、守護者統括アルベドと、各階層守護者の面々。

 

「おもてをあげよ。」

 

(よし!今回もタイミングはバッチリだ!)

 

「さて、集まって貰ったのは他でもない。この度ネイア・バラハを魔導国へ招いた真の理由について、皆に話そうと思ってな。特に魔導国首都エ・ランテルの襲撃を許した事に驚いた者も多いだろう。」

 

「何を仰りんすか、アインズ様!アインズ様の偉大なるお考えに驚愕する事はあれど、下賤な人間如きの襲撃に驚く事などありんせん。」

 

「そ、そうか!流石はシャルティア、ナザリックが誇る最強の矛だ!」

 

(え!?何この余裕、他の皆も全然驚いてないし!)

 

「しかしメリットとデメリットが混在した作戦ではあった。デメリットは勿論、我が国魔導国は、他国の襲撃を受ける隙があると周知してしまうこと。メリットはあれほどの襲撃を無傷で防衛し、わたしの庇護下に居ればその身の安全は確保されるという意識を植え付ける事、そして天使が襲撃することで神殿へ嫌悪感を抱かせることだな。」

 

(よしよし、計画通りだ。他の皆は頷いてるけれど……アルベドとデミウルゴスは〝わかってないなぁ〟って顔をしている。)

 

「ふ、ふ、ふ。アルベド、そしてデミウルゴスよ。お前達はどうやらわたしの真の狙いを看破しているようだな。」

 

「いえいえ、わたくし共はアインズ様の偉大にして深淵なるお考え、その一端を察するのみで御座います。」

 

「謙遜することはないぞ、デミウルゴス。わたしの狙いを看破し、即座に計画を練り実行へ移すお前の動きは実に見事だった。お前が理解した私の狙いを、他の皆へ説明することを許す!」

 

(よし!誘導は成功だ!……しかしこの手段あと何回使えるかなぁ。)

 

「有り難き幸せ。……さて、諸君。ネイア・バラハの煽動活動によって、魔導国内においてもアインズ様を支持する声が盤石となっていることは皆も知っている通りだ。アインズ様が当初からご計画されていたということもね。」

 

(……え?いや、なんで皆も〝当然知ってます〟みたいな顔してんの!?)

 

「そして今回の魔導国首都、エ・ランテル襲撃作戦だが、今までナザリックが行ってこなかった……少なくとも3つの新たな側面がある。」

 

「み、3つもでありんすか!?」

 

「えっと、あの、敵が出てきてこっちが倒すっていうだけじゃないんですか?」

 

「うふふふ。」

 

(何笑っとんねんアルベドォ!!)

 

「うむ、まず一つは〝恐怖心を巧みに利用した統治〟という側面だ。支配者からの直接的な暴力支配ではなく、外敵を意識させ群集心理を団結させる。今回は天使の襲来だった、そこから連想されるのは〝神殿〟〝神官〟。そして民を護ったのはアインズ様の率いるアンデッド達だ。民達が何に恐怖し、何に平服するか、説明の必要はないだろう。」

 

「ナルホド、シカシアインズ様ハ、恐怖ニヨル支配ヲ、オ望ミニナッテイナイハズデハ?」

 

「そうねコキュートス、わたし達も同じ誤解をしていたわ。でもアインズ様が本当に言いたかった事は、上から弾圧する恐怖政治を望まれていないということ。群衆に恐怖と先入観を植えつける統治、〝恐怖心〟を巧みに利用せよということなのよ。……そうですよね、アインズ様。」

 

「す、スバラシイ!ソノトーリだ!」

 

(何話してるのコノコ達!?ああ、ぷにっと萌えさんが、戦略ゲームで似たような話をしていた覚えがある。難しい用語ばっかりで詳しく覚えてないけれど……。攻略本あったかな?)

 

「さて、1つ目の説明で(つまず)いている愚者はいないね?では二つ目だが、〝国としての優位性確保〟。これはナザリックが魔導国という国を持ったことで、初めて行えたことだ。」

 

「優位性でありんすか?」

 

「そう、我々はローブル聖王国の刺客に首都を襲撃されたんだ。当然、本来であれば戦争行動に移さなければ筋が通らない。」

 

「え!じゃあこれから戦争!?たのしそー!」

 

「アウラ、早まっては駄目よ。何しろ今回のケースは戦争に発展させる必要がないんですから。」

 

「えー!?どういうこと?」

 

「今回エ・ランテルで起きたのはネイア・バラハに対する暗殺行動、つまりはローブル聖王国の民を、ローブル聖王国の刺客が襲った形だ。我々は舞台装置を貸し出したに過ぎない。それも決着はネイア・バラハ自身がつけた。勿論戦争に発展させる大義名分には十分なものだが、それでは聖王国が廃墟となってしまう。魔導国は遺憾の意を示し、圧力を掛けるだけに留めたほうが利口だろう。この手札はアインズ様のお力を知るローブル聖王国からすれば真綿で首を絞められるように、ジワジワと効いてくる。」

 

「う~ん……納得したような、しないようなでありんす。」

 

「ではそうだね。大きな語弊を招く例えだが、シャルティアの私室にわたしがやってきたと仮定しよう。そこへセバスが現れてわたしと大喧嘩を始め、君のティーカップを壊してしまった。君はわたしとセバスを殺し、わたしの第七階層を滅ぼしにくるかい?」

 

「ペロロンチーノ様から賜ったティーカップを壊されるなど、わらわも大激怒するし、二人を力一杯ぶん殴り、アインズ様へご報告はするでありんしょうが、流石に殺しまではしないでありんす……。多分。」

 

「まぁ国家間のやりとりとは、もっと複雑怪奇なのだが、シャルティアに解りやすく説明するとこうなる。わたしもセバスも、シャルティアの部屋を壊す事を目的に来たわけではないからね。だが二人ともアインズ様からお叱りと罰を受け、しばらくシャルティアに頭が上がらなくなるだろう。」

 

(これはシャルティアの部屋が魔導国、デミウルゴスとセバスの二人がネイアと刺客、そして俺の立ち位置が国際世論と言ったところか……?ではシャルティアの立場はナザリックだ、確かにどちらに転ばすこともできる。〝勢い余って殺してしまいました〟と報告されても、俺は呆れながら復活に必要な金貨5億枚を用意するだろうし、半殺しくらいなら多めに見る。)

 

「さて、シャルティアの頭でも理解出来る講座は終わりとして。次に三つめだ。それはネイア・バラハという存在そのもの。〝伝道師〟〝扇動者〟という可能性だ。」

 

「言葉デ人ヲ操ル奇々怪々ナ存在。考エルホド不可思議ダ。」

 

「そう、この世界は<伝言(メッセージ)>の普及率も低く、識字率も低い。情報の伝達は口コミに依存しているのは皆が知っている通りだ。だが優秀な〝扇動者〟とは、一度の演説で数万人の思考を誘導出来る。これはバハルス帝国でのアインズ様への崇拝が盤石となり、エ・ランテルの冒険者組合へ数千人が殺到したことからも実証済みだ。」

 

「そ、そんな事があったのですか……!?僕知らなかったです。」

 

「そしてエ・ランテル襲撃で、アインズ様がその地位を盤石にされたのも、扇動者という駒があってこそだった。民は明確に天使を敵であると認識し、アインズ様を正義と確信した。」

 

「もちろんアインズ様でしたらご自身の威光を以って民を平伏させるなど容易でしたでしょうが、あえて人間の扇動者、ナザリック外の生物を使用し、その実用性を我々に示して下さったというわけよ。」

 

(いや、ほとんどパンドラズ・アクターの台本なんですけれど!!)

 

「さ、流石はアルベド、そしてナザリック一の知者デミウルゴス。わたしの狙いをよくぞ見抜いた。」

 

「何を仰いますアインズ様、アインズ様の事です。それだけではないでしょう。」

 

(いや!さっきの説明1つも解ってなかったよ!これ以上何があるの!?)

 

「ふ、やはりデミウルゴスには見抜かれるか。……よい、話を続けることを許す!」

 

「畏まりました。……さて、賢明な諸君なら既にアインズ様の偉大なるお考えに気がついただろう。そう、ナザリックが廃墟の国を持たないための新たなる戦略を!」

 

「「「「おおおおおお!!」」」」

 

(……あ、新たな戦略!?)

 

「ナザリックが誇る技術と叡智、それは武力だけに留まらない。魔導国は情報伝達の先進国となり、プロパガンダという戦略をもってして、群衆心理を掌握し、その命全てをアインズ様へ捧げさせるのだよ!」

 

「第一段階として、今までは実用性が疑問視されていた情報伝達のマジック・アイテムの立場を確立させ、普及させることね。そしてアインズ様や栄えあるナザリックへ心酔する扇動者という駒をより増やすこと。」

 

「最初は一定区画へ情報伝達装置を配置し、定刻に娯楽を交えた〝情報〟を流していく。そして徐々に思想を誘導していくんだ。思想を誘導された民はまるで自分で考えているように錯覚するが、その内情はこちらの意のままに操れるということだ。情報伝達のマジック・アイテムだが、やがては一家庭に一台までを目標とする。」

 

「ら、ラジオか……。」

 

「おお!アインズ様!やはり〝らじお〟の事を我々に仄めかしていたのですね!このデミウルゴス、アインズ様のお考えに少しでも及ぶことが出来、幸甚の至りに御座います。」

 

「流石はデミウルゴス!見事にわたしの狙いを読み切ったものだ!」

 

(しかしこの世界でラジオか、旅の詩人(バード)にあれだけ群がるくらいだ、運用できればさぞ喜ばれるだろうな。……みんなが考えると、俺を讃える番組ばかりになりそうだから、ちょっと注意が必要だけれど。)

 

「うむ、信用に足る情報伝達のマジック・アイテムなど、他国の魔法技術では到底不可能な芸当だ。だが、ナザリックの技術を以ってすれば容易な話だ。最初は平和的な娯楽として楽しんで貰うといい。」

 

「もちろん、信用を獲得した後に一刺しで御座いますね。心得ております。」

 

(全然心得てねぇ!何するつもりなの!?怖いんですけれど!)

 

「さて、この計画はあくまでもアインズ様がネイア・バラハを魔導国へ呼ぶ際に……いや、ネイアという〝扇動者〟の駒を造り上げた時から構想していたことだよ。」

 

「「「「おおおおおお!!」」」」

 

「流石でありんす!ああ、わらわも是非ご協力したいでありんすえ。」

 

「地下闘技場での実況中継なんてどうだろう!」

 

「でもお姉ちゃん……ナザリックの内部はだめなんじゃ?」

 

「あ、そっか。じゃあさ、帝国みたいに闘技場造っちゃってそこであっつい拳の実況中継!」

 

「リザードマンノ集落ニモ是非ソノ叡智ヲ……。」

 

「そこまでよ。まだ構想の段階。……アインズ様、パンドラズ・アクターのスキルにより、近日中にはプロトタイプが完成する模様です。」

 

「そうか、それは楽しみだ。そういう事だ皆。今後ナザリックは国を持った以上、様々な戦略・戦術を立てていく。各々も意見を持ち寄り、よりよい魔導国となるよう思考を巡らせよ!」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

「では、皆ご苦労であった。持ち場へ戻ってくれ。アルベドもエ・ランテルでの執務へ。……デミウルゴスのみ残ってくれるか?」

 

「アインズ様のご命令とあらばなんなりと……。」

 

「ず、ずるいわ!デミウルゴス!」

 

「アルベド!直ぐに終わる話だ。守護者統括として首都の内政を一任している。その重責が解らぬお前ではあるまい?」

 

「……畏まりました。御前、失礼致します。」

 

(さて、これでネイアへの褒美について相談出来る。)

 

 そうして支配者とナザリック一の知者、その密談が始まった。


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