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長野豊かな自然保護へ規制強化 富士見町などで太陽光発電条例
八ケ岳連峰西麓に位置する富士見町と原村が今年、太陽光発電設備の設置基準や手続きを定めた条例を新たに制定した。茅野市も生活環境保全条例を改正する形で条例化。三市町村ともガイドラインを設けて事業者に適正設置を促してきたが、地元住民とのトラブルは後を絶たず、説明会の開催を義務付けるなど拘束力のある条例へと踏み込んだ。豊かな自然環境を売りに移住促進を図る高原のまちとして、開発を抑制したいという地域事情も浮かび上がる。 「美しく安全な住宅環境を守ろう」。富士見町の塚平区。ススキが生い茂る荒れ果てた空き地の前に、太陽光発電施設の建設に反対する看板が立っていた。道を挟んだ反対側には住宅が立ち並ぶ。地元住民らによると、東京都の事業者が敷地面積約一ヘクタールの太陽光発電事業を計画。区は昨年十二月に総会を開いて建設反対を決議し、ただちに立て看板を掲げた。 近くの田園地帯では約十三ヘクタールの敷地に太陽光パネルがずらりと並ぶ光景が広がる。区の役員は「地元には既に太陽光発電施設があり、もういらない。これ以上建設されると移住してくる人もいなくなる」と懸念する。「それに、この空き地は町に買い上げてもらいたいぐらい歴史ある場所。何も知らない事業者に開発したいと言われて、やらせるわけにはいかない」とも。 ここは、昭和初期に鉄道大臣を務めた地元出身の政治家小川平吉の別荘「帰去来荘」の跡地。「夏になると政界のブレーンを集めたのでは。五・一五事件で暗殺された首相犬養毅、小説家の田山花袋らも招いた。歴史的、文化的価値のある場所なんです」。隣接する富士見ケ丘区の名取陽さん(79)が説明する。 犬養もこの近くに別荘「白林荘」を構えた。一・五ヘクタールに及ぶ跡地は犬養家の手を離れた私有地となっているが、林の中で庭園のように整備され、地元住民と交流を深めた当時の面影を今に伝える。 太陽光発電施設の建設によって、周辺の文化的な雰囲気と、人々の暮らしと調和した自然環境が損なわれると危惧する名取さん。「条例ができて、地元の承諾なしに工事を進めることはできなくなるはず」と条例の効力に期待する。 富士見町は六月に条例を制定、今月施行した。出力十キロワット以上の事業を許可申請の対象とし、申請前に周辺住民への説明会を開くよう義務付けた。事業区域の境界から百メートル以内の区や集落組合を「関係区」と位置付け、災害の防止や良好な景観、生活環境の保全に関して事業者に合意や協定締結を求めることができると規定。事業者は、それに応じなければ事業申請できない仕組みだ。 晴天率が高いとされる同町。太陽光発電施設の建設計画が各地で持ち上がり、天然更新の届け出で伐採した林地で事業を始めようとしたり、地元住民への説明が不十分なまま工事に着手しようとしたりと、トラブルも相次いだ。茅野市と原村も事情は同じ。二〇一七年四月の改正再生可能エネルギー特別措置法の施行に伴い、事業者の条例順守が定められたことも条例化を後押しした。 原村は、住民へ説明が必要な範囲を事業区域の境界から四百メートル以内と設定。設備の設置を抑制する区域には、土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域のほかに、「保健休養林」を加えた。村全体の面積の半分近くが該当するという。 「日本で最も美しい村連合に加盟していることもあり、太陽光発電施設を抑制する方向に傾いている。原村の景観にはそぐわないというのが村民の声だ」と村の担当者は説明する。 村内では、区単位で住民協定をつくり太陽光発電施設の建設を規制する動きが出ていた。南原区は一七年に住民協定を締結。区内全世帯の同意がなければ事業を認めないと決めた。 当時同区長を務めた平出敏広村議(67)は「つくってはいけないという条例でないのが歯がゆい。住民の合意を取り付けないまま事業が進む可能性はある」と指摘。一方で、「三市町村に条例ができたことで、岳麓全体の自然や農地を守っていく状況になっていけば」と願った。 (中沢稔之) 今、あなたにオススメ Recommended by PR情報
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