<東京新聞の本>
ドナルド・キーンの東京下町日記
ドナルド・キーン 著
トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 書評 > 記事一覧 > 記事
【書評】政治介入されるテレビ 武器としての放送法 村上勝彦著◆権力と放送 相克の歴史振り返る[評]内田誠(ジャーナリスト)著者の村上勝彦氏は、二十年以上NHKの記者を務め、退職後は、放送による人権侵害や倫理上の問題に自主的に対応するために放送界自身が設立した機関である放送倫理・番組向上機構(BPO)の事務局に勤務、「放送の自由」に関する発言を続けている。 総理官邸による情報統制強化の現状を憂い、テレビ局と制作者側が政府の介入を受け入れているかのようであることに危機感を募らせた著者は、放送に携わる人たちがもっと「放送法」の意味を理解すべきだとして、「やらせ問題」などをきっかけとした権力と放送の相克の歴史を振り返っている。 著者は放送法(一九五〇年制定)は「戦前・戦中の誤りを繰り返さないという痛切な反省をもとに、政府の放送番組への介入を防ぐために制定された」と位置づける。そして番組内容に関する法的な命令のようにも見える第四条の諸規定も、放送側が自主的に守るべき倫理規定だと説く。 第四条は、番組の編集にあたって放送事業者に(1)公安及び善良な風俗を害しないこと(2)政治的に公平であること(3)報道は事実を曲げないですること(4)意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること-の四点を求めるが、これらは政治権力が行政指導や行政処分によってテレビに介入する根拠となる法規範ではないという。放送法に対するこのような見方は、政治介入に対するテレビ制作者側の抵抗の論理となるだろう。 しかし、放送法第四条は、日本における「言論と表現の自由」の後退に強い懸念を抱く海外からは全く違う目で見られている。国連のデービッド・ケイ特別報告者は、二〇一七年に公表した対日調査報告書で「政府による介入の根拠となる放送法四条の廃止」を勧告。今年は、その勧告が履行されていないとする新たな報告書が提出されている。 立法論としては、同条は即刻廃止すべきだという議論も「言論と表現の自由」を守る有力な議論になりうると見るべきだろう。 (青弓社・1760円) 1953年生まれ。NHKで記者、経営計画などを担当。現在はBPO事務局勤務。 ◆もう1冊山田健太著『放送法と権力』(田畑書店) PR情報
| |