◆「マニフェストに書いてあるから中止します」。民主党政権が発足して国土交通相になった前原誠司氏は就任直後にこう公言した。今から10年前、2009年の秋だった。しかし、地元の反発は強く、2年後に結局「中止」は撤回された。群馬県長野原町に建設中の八ツ場ダムの話である。
◆昨年12月にそのダムの建設現場を見学した。116メートルの高さのダム本体の工事は9割以上終わっていた。秋に試験的に水をため、来年3月には完成する見通しだ。総事業費は約5320億円。計画が浮上したのは1952年だからもう70年近い。ちなみに民主党の迷走で完成が4年遅れた。
◆人口約5700人の長野原町の新庁舎も昨年末に完成した。多目的ホールや図書室などを備えた総合センターを併設している。水没地区の住民で家屋移転を迫られたのは470世帯。付近の代替地にとどまるのはそのうち2割だが、ダムの完成でようやく新たな一歩を踏み出せるのだろう。
◆現地では同ダムの工事事務所が企画し、17年度から本格的に始めた「やんばツアーズ」と名付けた見学会が人気だ。工事現場や眼下に流れる吾妻川などを、地元女性「やんばコンシェルジュ」の説明を聞きながら歩く。ダムという観光資源を最大限に生かし、「完成後の地域振興につなげたい」と朝田将所長は話す。
◆一般論でいえば、自然環境や住民生活に様々な影響を与えるダムは造らないで済むならばその方が望ましい。しかし、かつての民主党のように「ダムは中止」と表明して終わる話ではない。治水、利水の両面で合理的な代替案が要る。自然災害が一層厳しくなっている昨今ではなおさらだ。
◆政府が昨年末に策定した18年度から3カ年の防災・減災の緊急対策でも、西日本豪雨を受けた様々な事業が盛り込まれた。ダムの機能維持、堤防の強化、川の流れを阻害する樹木の伐採など、川上から川下まで総合的な取り組みが欠かせない。緊急対策に伴う公共事業の増加が、景気対策の一環と位置付けられた点は気に入らないが。(谷隆徳)